第7話 第二回デスゲーム 処刑

「待ってくれ。待ってくれよ」


 デスゲームのルールを理解してなかったトバオが、どう足掻いても無理な弁明を繰り返している。


 ダンジョンにいるという事も忘れて、すっかり騒ぎ立てている。


 こりゃ、俺がどうこうする必要もないかもな。


「なあ、アレはジンが呼び寄せたのか?」


「いいや。どうやら騒ぎに釣られて来たみたいだ」


「そうか。なんというか、ジンは魔物に好かれる体質らしいな」


「そうなのか?」


 あまり実感は湧かないが、魔物の神が言うならそうかもしれないな。


「そいじゃ。サクッと投票するぞ。チョーカーから映される目の前のホログラムから選べ」


「俺じゃない。俺じゃないからな!」


 そんなトバオの事は無視して、


「早いな。結果は! トバオが三。リーダーのタカラシが一、ってことで、トバオの処刑が決定!」


「ああ……」


 さっきまで大声を張り上げていたトバオも、流石に諦めたのか、膝から崩れ落ちた。


「……」


「残念だったな」


「……」


「な、なあ、俺達はどうなるんだ? と、投票したはいいが、そ、そいつはどうなるんだ?」


 タカラシはどうやら、リーダーの癖してかなりのビビりらしい。


 自分に一票入ったことで怯えたのか、ガクガク震えながら聞いてくる。


「そいつは」


「なあ! どうなるんだよ俺は! やめて、やめてくれよ! 助けてくれよぉ!」


「泣きながら子供にすがる大人って、どうよ……」


 まあ、俺は見た目が子供ってだけなんだが。


「助けてくれよぉ。なあ、なんでもする。なんでもするからさぁ。前回だって生き残っただろ? それに、ルールも守った。話だって漏らさなかったじゃないか。なあ!」


「それは、やって当たり前の事なんだよ」


「じゃあ何をすればよかったんだ!」


「ちゃんと話を聞いてりゃ。こんなことにはならなかったかもなぁ」


「だからって」


「なら聞くが、お前は一度でも、助けを乞う魔物を見逃したことはあったか? 助けてやろうとした事があったか?」


「……」


「そういうことだ。スカート掴むな。さっさとその手を離せ、ド変態」


「……」


 意気消沈。トバオはすっかり諦めたらしい。


 何も言えないとは、やってきた事に思い当たる節がありすぎるのだろう。


 ああ、情けない。


:全く、不甲斐ない

:もはやここまでとは……


「なぁ、アレって……」


「おいおい。なんだよアレ」


「待ってくれ。万全でもアレはまずいって!」


 怯え出したのは、ベテランの奴らも同じらしい。


 全く、いつまでも優位でいられるとは限らないという事を、どうしてこうも忘れてしまうのか。


「さあ、立て。いつまでもここにいたんじゃあ、あいつらに示しがつかないだろ」


「待て待て。待ってくれ」


「もう十分待った。それじゃあな」


「待てよ。待て待てま」


 俺はトバオを上に向かって放り投げた。


「うあああああ!」


 トバオは、一度眼を丸くすると、すぐに大声を上げて叫び出した。


「馬鹿、これ以上大声を出したら」


「うわああああああ」


 途端。その叫び声が聞こえなくなった。


「ガブ。ゲプッ」


 トバオは、騒ぎを聞きつけやって来ていた魔物に食われた。


「よーしよしよし。いい子だ」


「グーウー」


 魔物は俺に撫でられると、気持ちよさそうに笑顔になった。


 こうしていると、とてもかわいらしい。


 見た目としては、ライオンの数十倍はある肉体を持つ四つ足の魔物だ。だが、俺が本当に魔物に好かれるらしく、抵抗せずに撫でさせてくれる。


 べフィアが言ってたのはこいつの事だろう。


 俺が用意した訳ではなく、ここにいる探索者が叫んでいた事で、仲間を守るために駆けつけたといったところだ。


 もちろん、魔物の犠牲はない。


「いい子だなぁ」


「グフゥ」


 こうして、撫でられて嬉しそうにしているのを見ると、どうして魔物が恐れられているのか理解できない。


「お前、なにしてるんだ? 今、食われたのか?」


「あ? ああ。そうだよ。食われた。魔物をいじめてきた奴には、お似合いの最期だったよな」


「え、いや……」


 先ほどまでは冷静だった探索者達が、挙動不審になり出した。


 どうやら、人が魔物に食われる光景を目の前で見た事がないらしく、現実味がなかったようだ。


 それが次第に、何が起きたのか理解してきたのだろう。顔もどんどんと青白くなっている。


「ふ、ふざけるな! そ、そんな力があるなら、自分でやればいいじゃないか! わざわざデスゲームなんかする必要ないじゃないか!」


「それじゃ意味がないんだよ。さっきの見たろ? これは処刑なんだ。罰なんだよ。苦しまなきゃ意味がないんだ。なー」


「ガフゥ」


 ニコニコ笑顔の魔物は、相当肉が美味しかったらしく、やけにご機嫌だ。


「ペロッペロッ」


「ははっ。おい舐めるなよ。くすぐったいぞ」


「ガフフゥ」


「なんだよ。普通のペットみたいにしやがって」


「は? こいつはペットじゃねぇよ。こいつはな。そんな安心できる環境で生きてない。ふざけるなと言いたいのはこっちの方だ。何俺に当たってんだよ。他人は消えたんだ。お前ら仲良くデスゲーム再開しろよ」


「言う通りにする訳」


「言っとくが、俺を狙っても無意味だからな。そいつは、没収だ」


「あっ」


 後ろのバックアップが、何か怪しげに構えていた物を取り上げる。


 虚無に消し、頂いておく。


「お、俺達には、家族がいるんだ。危険因子を消そうとして何が悪い」


「そうだそうだ。こんな事していいと思うなよ」


「家族だ? 俺にもいたさ。こいつらにもな。お前らこそ、魔物の家族の事を考えたことあんのか?」


「それは……」


「だろうな。だからそんなこと言えるんだよ。自分達だけが可哀想だと思うな」


「……」


「またダンマリかよ。そういうとこだよ! せめて自分が同じ目にあったらどう思うか考えるんだな」


「……」


 処刑に怯え、疑心暗鬼は加速している。二回目にしてはいい感じじゃないか?

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