第49話 エースの覚醒 その9

 …………翌日、


 私達はフロア12の地底湖の前に立っていた。


「なんだよ、サファイヤ、試したいことがあるって」とエルウッドさん。


「エルウッドさんって、魔法を増幅させるのが得意なんですよね」


「まっ、まあ、そういう事になるよな」とエルウッドさん。


「うん、体内に毒があれば、毒系を、氷を口の中に入れてれば、氷の魔法を唱えられるからね」とノエルさん。


「まあ、氷の魔法っていっても、口の中に氷があれば、冷たい風を出せるくらいの魔法だぞ。ブリザードとかそういうレベルじゃねーからな」とエルウッドさん。


「大丈夫です分かってますって。でも、静電気をサンダーには出来るんですよね」


「おうよ」とドヤ顔で胸を張るエルウッドさん。


「じゃあ、ちょっと今から電気を流しますんで、エルウッドさん、試しに『サンダー』出してみてください」


「お前、何言ってんだ?」


 とエルウッドさんが言い終わるか言い終わらないうちに、私はポケットから取り出したスタンガンをエルウッドさんの腰に当てた。エイッ!


「あああああああああああああああああああああ」


 その直後、湖の脇にそびえるとんがった岩のてっぺんに稲妻が落っこちた。


 ドッカーン!!


「あーもー、へたくそー」


 だが、エルウッドさんはそんな私に反論することもなく、スタンガンを当てられた腰を押さえながら私の足元でピクピク悶絶していた。


 そして……「なにしやがんだ……このデコスケがぁぁぁ!!」と怒鳴った。


「いやー、静電気で『サンダー』が出せるのなら、このスタンガン使ったら『サンダガ』くらい出せるかなーって……ねぇ」と私はエルウッドさん以外の皆さんに同意を伺う。


「「「うんうんうん」」」とエルウッドさんの除いた皆さん。


「おっ、おっ、お前、殺す気か」と私のことを糾弾しつつも、まだスタンガンの痛さから立ち直れて無いのか腰を押さえて突っ伏したままのエルウッドさん。うん、その体勢だと文句言われてもあんまし怖くないなー。「はい、『ヒーラー』」


「おっ、お前ふざけんなよ!!」と元気になった途端、エルウッドさんはすぐに立ち上がってこれでもかと抗議する。


「えー、ダメかなー」とみんなに同意を求める……と。


「いやー、結構いけちゃうんじゃないかなー」とノエルさん。


「ああ、なんか攻略方法見えたよなー」とベイルさん。


「ねえ、エルウッド、ちょっとやるだけやってみましょうよ」とナジームさん。


「ですって」とニッコリ笑ってわ・た・し。


「おま……おま……お前ら、ふざけんなよ」と言いつつも私が持っているスタンガンに完璧に腰が引けちゃっているエルウッドさん。あら、やだ、かーわい。


「ちょっとだけ、ちょっとだけ、ホント痛くしないから、ホント、ホント、ホント」とどっかのクズな女たらしが言うようなセリフでエルウッドさんを口説く。ほんとこういう事言う人は信じちゃダメだぞ。


「ほんとにー?」と一瞬だけ気を許したエルウッドさん。


「はい」とスタンガン。


「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"」


 直後、ちゅどーんと青白い稲妻が地底湖のど真ん中に落っこちた。


「ひょぉぉぉ!」とノエルさん。


「すっげーなー」とベイルさん。


「さすがエルウッド」とナジームさん。


 すると、ぷかぷかぷかーとさかな君さんもびっくりの大漁です。


「今よ、今、今、ノエルさんチャーンス、全部打っちゃってー」と私は湖面に浮いた魚(モンスター?)を指して言う。


「あっ、なるほど!」と、勘の良いノエルさんはそう言うと、私の言っていることをすぐに理解できたのか、『コンパウンドボウ』ではなく、今までのうち慣れた弓矢で雨あられの乱れうち。ほら、だって『コンパウンドボウ』の矢って結構するんですよ。お値段が。


「おおおー、すげーなー、入れ食いってレベルじゃねーな」とベイルさん。


「なるほど、こういう作戦ですか。流石はサファイヤさん」と目から鱗のナジームさん。(魚だけにねドヤッ)


「おま、おま、おま、ふざけんなよ……」と痛みのあまり息も絶え絶えにエルウッドさん。


 うん分かった、私ばかりがやったんじゃ、私ばかりが恨みを買ってしまう。


「じゃあ、ハイ」と私が持っていたスタンガンを手持ち無沙汰だったベイルさんに渡す。


 スタンガンを渡されたベイルさんは、無言で自分を指さして、そして今度はエルウッドさんを指さして、最後にスタンガンを指さして「うん」と頷く。そして私も「うん」と頷く。


 直後、「あばばばばばばばばばばばばばばば」となかなかの長さでエルウッドさんの体に電流を流すベイルさん。まあ、私がやるよりも角は立つまい。

 

 すると、ワンテンポ遅れてエルウッドさんの体が青白く光ったと思ったら……


「ゴロゴロビカビカドッカーン!!」とすっごい稲妻が2本3本と地底湖に落っこちた。


 溜めた電気を放出するコンデンサーみたいなエルウッドさん。やるねー。こういうのを才能って言うんだね。勉強になるー。


 あっちでぷかぷか、こっちでぷかぷか、ピカチ〇ウも真っ青の100まんボルトのいなずまだー。よーっし、これは『えるうっどさんのサンダガ100まんぼると』と名付けようではないか。


 あっ、やべっ、白目むいちゃってるよ。特別だぞ。はい、「ハイラー」。


 するとすぐにシャッキリ復活するエルウッドさん。


 エルウッドさんの体がすごいのか、私の『ハイラー』がすごいのか、まぁ、どっちでもいいや、知らんけど。


 しかも、めちゃくちゃラッキーなことに、復活したエルウッドさんは、あっちキョロキョロ、こっちキョロキョロ、そして……「あれ、いま、どしたの、オレ?」とフロア12に来てからの記憶がきれいに飛んじゃってます。ヤッター、キタコレー、チャーンス!!


 すると、今度はナジームさんにスタンガンを渡して、


「すいませんね、エルウッド、みんなのために犠牲になってくれて」と容赦なくスタンガンを当てるナジームさん。


 こういう人が一番腹黒いんだよね。ホント気を付けなくちゃ(テヘ


「バリバリバリバリドッカーン!!!」


 まるで突如としてスーパーセルが発生したかのようなフロア12。雷鳴と雷光が止まりません。


「ビカビカドッカーン!!」

「はい、『ヒーラー』」


「バキバキドッカーン!!」

「はい、『ハイラー』」


「ゴロゴロドッカーン!!」

「はい、『たーまやー』」


 そうして、小一時間が経った頃、ついに私が昨日『グランド デポ』で買った『グランド デポ』と国内シェア№1のスタンガンメーカー「日本ライトニング工業」さんのコラボモデル、「ねお雷神君弐号」のバッテリーが切れてしまったのだ。あーあ、残念。


 もっとも結構前から、『えるうっどさんのサンダガ100まんぼると』を打てども打てども、一匹もお魚もモンスターも浮かんでこなくなってはいたのだが……


 どうやら、この地底湖のモンスター(お魚も?)も一掃したみたいだ。


 はー、厳しい戦いだった、やれやれ。


「いやーすごかったなー、『ねお雷神君弐号』」と一仕事終えた感のあるノエルさん。


「うん、すごいポテンシャルでしたね、『ねお雷神君弐号』」と心の底から賞賛を惜しまぬようにナジームさん。


「いやー、すげー破壊力だったなー『ねお雷神君弐号』」と心強い相棒を見つけたような顔のベイルさん。


「ありがとう、ねお雷神君弐号」


「たすかったよ、ねお雷神君弐号」


 みんなが今日のMVPの「ねお雷神君弐号」に感謝の言葉を贈る。


 そうしてふと、裏のシールを見てみると……あらやだ、最大出力250万ボルトですって。100まんぼるとどころの話じゃなかったわ、コレ……大丈夫かしら。


 私は恐る恐る私は、エルウッドさんを見てみると……相変わらず白目を剥いて泡を吹いたまま……


 うーん、とりあえず今起こすといろいろと厄介そうだなー。


「どうします、コレ?」とエルウッドさんをつま先でチョンチョンと突っつきながらみなさんに聞く。


 みんなは「うーん……」と腕を組んで考え込むと、ナジームさんが「とりあえず、サファイヤさんが買ってきたゴムボートで向こう岸に着いてから考えましょう」と。


「「「さんせーい」」」とみんな。


 それから私達は『グランド デポ』で購入してきたゴムボート5人乗り(¥5,480)にフットポンプ(¥108)で空気をプシュ、プシュ。


 そして、空気を入れ終わったゴムボートを地底湖に浮かべると「ヨーソロー」と声を上げ、私達は対岸目指して出発したのだ!!(ワーパチパチパチ



 そうしてこのお話の冒頭に戻るのだが……


 地上に上がって目が覚めてもしばらくの間、錯乱状態が続いていたエルウッドさん。めんどくさいから『スーパーカライ』に睡眠薬をぶち込んで無理やりベッドに放り込んだのだが……どうやらエルウッドさんは昨晩、相当な悪夢にうなされていたらしい。


 昨日一晩中エルウッドさんの部屋から「すいません」、「ごめんなさん」、「もう酷いことしないでー」と寝言が聞こえていた。


 さすがにちょっと罪悪感を感じる私。どうやら、『ヒーラー』では体の傷は治せても、心の傷は治してくれなかったようだ……って、うまいこと言うね私も。


 相変わらずベッド下のすぐ脇ではエルウッドさんが「もう、ゆるしてください」とか「なんでもいう事聞きますから」とか、昨日からの錯乱状態が続いたまま……


 うーん、当分このままでもいいんだけれども、まあ、そういう訳にもいかないしー。

 

 私はそう決心すると、気だるい体に鞭を打ってどうにかベッドの中で寝返りを打つと、相変わらずベッドのすぐ脇で土下座を続けているエルウッドさん向かって、「はい、『ハイラー』」と魔法をかけてあげた。


 後でエルウッドさんが落ち着いたら、『グランド デポ』に連れて行って、ご褒美に、好きなものでもお腹いっぱいに食べさせてあげよう。


 私はそう思うと、ベッドの中でまた寝返りを打ち、三度寝を決め込んだのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る