第31話  side:壮介3

 耳に煩いくらいの雑音の中、壮介はあるゲームソフトを手にしていた。

 家から一番近い家電量販店のゲームコーナーに佇み、周囲を窺いながら。


「聖女の恋は前途多難~リントヴルム・サーガ~」は、壮介のお気に入りのRPG「リントヴルム・サーガ」を乙女ゲーム化した作品である。


 乙女ゲームというからには、女性向けなのだが、壮介の友人である大吾が、リンサガファンには気になる要素があるかもと言うので、気になってしまったのだ。


 かなり抵抗はあるが、好奇心には勝てない。


 成人も間近な男が、乙女ゲームを買うのに緊張しているなんて実に笑えるのだが、実際背中にもじっとり汗をかくほどなのである。


 どうにかレジに並び、壮介は乙女ゲームを手に入れた。


 帰宅して早々に自室のテレビでプレイを開始する。

 念のため、カーテンを閉じ、ドアには鍵を掛けている。

 ここは通り沿いのマンションの五階で外から見られる心配はないし、両親も仕事中で帰宅は遅いのだが。


 「リンドヴルム・サーガ」が八人の登場人物から主人公を選べたように、「聖女の恋は前途多難~リントヴルム・サーガ~」も三人のヒロインの中から選べるらしい。

 聖女と名がつくからには、三人とも聖女なわけだが。


「えっと、この〈水清めの聖女〉にしよう。銀髪で可愛らしいし」


 何となく、響子に似ている気がする。


 黒髪黒瞳の日本人である響子が、銀髪に紫の瞳を持つ少女と似ているなどとはおかしな話だが。


 そうして、壮介はめくるめく乙女ゲームの世界に足を踏み入れたのだ。


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