マッシュの家族救出作戦1
「それで
「あっ! えーっと……」
目をそらしたマヤに、マッシュはため息をつく。
「まあオリガとの話を聞いた時点でなんとなくそんなことだろうと思っていたが」
「だって、しょうがないじゃん、いろいろあったんだし……」
「まあ今更急いでも仕方あるまい。明日にでもオリガと一緒に行ってくるといい」
「そうだね、そうするよ。オリガもそれでいいかな?」
「行くって、どこにですか? それに
話について来られていない様子のオリガは、マヤとマッシュを交互に見ながら首をかしげる。
「そうだなあ、どこから説明すればいいかなあ……」
マヤは悩んだ末、マッシュとその家族、そしてこの街にいる貴族との関わりについて最初から説明した。
「なるほど、ヘンダーソン家の方がマッシュさんのご家族を」
「そういうこと。だからそれを取り返しにいこうと思ってさ。今日はそのためにお屋敷を下見しに行こうと思ってたの」
途中でオリガと会って色々あったから結局お屋敷は見れなかったけど、と続けたマヤに、オリガは少し申し訳無さそうにする。
「ごめんなさい、私のせいで予定が狂ってしまったようで」
「いいのいいの、気にしないで。それに見に行っても何もわからなかったかもしれないしねえ~」
「おいおい、それではどうやって私の家族を救出するつもりだったんだ?」
「いやー、なんか行ってみたらどうにかならないかなあ、って?」
ここ1ヶ月でわかったことだが、この世界は魔法などという不思議技術はあるものの、それ以外の文明レベルは中世のそれだ。
文明レベルがその程度であれば、王族の屋敷と言ってもセキュリティは見回りによるアナログなものだろうから、現代人の知識を持つマヤが見えれば穴が見つかるだろうと思っている。
「そんなことでどうするのだ……」
「正面から乗り込んだ人に言われたくないんだけど?」
「ぐっ……」
痛いところを突かれ、マッシュは黙ってしまう。
「あの、ヘンダーソン家に侵入できればいいんですよね?」
「うん、まあそういうことだけど、どうしたの?」
マヤとマッシュの言い合いを眺めていたオリガからの問いかけに、マヤはオリガに顔を向ける。
「私、あのお屋敷の地図、見たことありますよ」
「え!? 本当!? なんで? もしかしてオリガって貴族だったり?」
突然の告白に驚くマヤに、オリガは苦笑して首を振る。
「エルフには貴族なんていません。むしろ私は虐げられていたほうですし……ってそんな話はどうでもよくてですね、私があのお屋敷の地図を見たのは、さっき私が殴り飛ばした男たち、この街の無法者たちと一緒にいたときです」
オリガ曰く、あの無法者たちの中には、オリガを使って金持ちを襲う今日の連中以外に、主に盗みを行っているグループもいたらしく、そのグループに協力させられた時に目にしたらしい。
「じゃあ、その泥棒組のところに行って地図を奪ってくればいいんだね!」
「マヤさんって、可愛い顔して結構とんでもないこと言いますよね」
目を輝かせて「泥棒から泥棒しよう!」と宣言したマヤに、オリガはやや引きつった笑みを浮かべている。
「そういうやつなのだ、こいつは。だがまあ、悪いやつではないからそこは安心していい」
「ははは、それはまあ、わかってますよ」
マッシュの言葉に、オリガは微笑むと、
「マヤさん、泥棒組を襲う必要はありません。
そう唱えたマヤの手から出た光が、部屋の壁に当たると、壁一面に屋敷とその周辺の地図が映し出された。
「え? なにこれすごい! 魔法? っていうかやっぱりオリガ魔法使えたんだ!」
「はい。これでも一応、村一番の使い手だったんですよ?」
「でもさっきは男どもを殴り飛ばしてたけど、どうして? その、色々ムカついてたとか?」
これだけスムーズに魔法を使えるのに、男たちは全部物理攻撃で無力化した理由を想像し、マヤがやや恐る恐るオリガに尋ねる。
「いえ、そんなことは、なくはないですけど、あの時は単純に魔法が使えなかったんです。魔封じの首輪をつけられてましたから。その後マヤさんの強化が残ってる間に引きちぎりましたけど」
「なるほどね。それにしても助かったよ。この地図があればどうやってあの屋敷に侵入するか考えられるしね」
そう言ってマヤは、早速侵入経路について考え始めたのだった。
***
朝日、というには少し高く登ってしまった陽の光が射し込む宿の部屋で、マヤは目を覚ました。
昨夜は屋敷への侵入経路を考えていて遅くまで起きていたので、少し寝過ごしてしまったようだ。
「んんっ、んーーーっ! よく寝たー、ってあれ?」
マヤがベッドから起き上がろうとすると、右腕が動かせなかった。
「ふふふっ、オリガったらいつの間に私に抱きついたんだろうね?」
マヤの右腕はオリガに抱きすくめられており、動かせなかったのだ。
穏やかに寝息を立てているのをみると、普通の少女にしか見えないが、その尖った耳が、彼女がエルフであることを思い出させる。
「……クロエ、だめ……あなたは……残り……さい」
なんの夢を見ているのだろうか、オリガの寝言に、マヤは首を傾げる。
クロエというのが誰なのかわからないが、まさか寝言を聞いて気になったとは言えないだろう。
マヤはとりあえずクロエなる人物のことは忘れることにした。
うなされているわけでもないので無理に起こさなくてもいいかな、と思い、マヤはそのまま、オリガが目を覚ますまで右腕を貸し続けたのだった。
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