マッシュとマッシュの家族

「そういえば、マッシュの家族ってなんで攫われたの?」


 マヤとマッシュは今、マッシュの家族を救うべく、隣国へと続く街道を歩いていた。


「魔物師という言葉をマヤは知っているか?」


「魔物師? 魔物使いじゃなくて?」


「魔物使いはマヤのように魔物を使役して戦うものだが、魔物師は魔物を使役したりはしない。魔物師は、魔物を作ることが仕事だ」


「魔物を作る?」


「そうだ。魔石が魔力を持たない動物を魔物化する、という話は前にしたと思うが、言ってしまえばあれをわざとやって魔物を作る者が魔物師だな」


「ふーん、それで、その魔物師っていうのがマッシュの家族となんか関係あるの?」


「私の一族はその魔物師なのだ。そして、特別な魔物を作る能力を持っている」


「めちゃくちゃ強いとか?」


「それだけではないが、まあそれも間違いではない。ともかく、その能力に目をつけた貴族に攫われた、ということだ」


「なるほどね~。でもそれならなんでマッシュは攫われなかったの?」


「それは別に大した理由ではない。単純に私が魔物の材料となる動物を捕らえに行っている間に家族が攫われたのだ」


 その後、家に帰って家族がいないことに気がついたマッシュは近所の住人に聞いて周り、家族を攫った貴族を突き止め、そのままその屋敷に突撃、そしてそのまま捕まった、ということだった。


「じゃあマッシュの家族は無事なんだ」


「おそらくな。冒険者としての任務のついでに、冒険者達に聞いた話では、隣国の軍が魔物部隊を増強しているらしい。おそらく私の妻が作った魔物で間違いないだろう」


「それならとりあえずは安心だね」


「少なくとも妻は、な。子どもたちはどうかわからん。まあ、私の妻は子どもたちが殺されるようなことがあれば平気で自害くらいはするやつだ。おそらく妻に脅されて子どもたちにも手を出してはいないと思うが……」


 マヤは今更ながら、一度は何も考えずに突撃したマッシュがマヤが冒険者として安定して稼げるようになるまで待ってくれたわけを理解した。


「子どもたちが大丈夫そうでも、やっぱり心配だろうし、できるだけ早く助けてあげないとね。今更私が言うなって感じではあるんだけど……」


「全く……前にも言ったがマヤが気にすることはない。私が決めたことだ。それに、私は妻を信じているからな。実のところ家族の安否についてはそこまで心配ではないのだ。早く取り戻したいことに変わりはないがな」


「そう言ってくれると助かるけど、やっぱり今からでも急ごう! よーし、ペース上げるぞー」


 気合いを入れて歩くペースを少し上げたマヤだったが、その直後街道脇の岩が出っ張っているところに足を引っ掛け、


「わわっ! ととっ! うわあっ!」


最終的に後ろに倒れたマヤは、ドスンッと尻もちをついてしまう。


「痛てて……」


「全く、マヤは相変わらずドジというかどんくさいというか」


「もー、マッシュったらひどーい」


「事実を言ったまでだ。それより怪我はないか?」


「うーんと、大丈夫みたい」


 マヤは立ち上がるとスカートをお尻を叩いて汚れを落とす。


「それなら良かった。今更急ぐ必要はない。また転ばれても困るからな」


「はーい……」


 マヤは少ししょんぼりした様子で肩を落とす。


 それをみたマッシュはため息を一つつくと、


「なんだ、その……私のために急ごうとしてくれたのは、嬉しかったぞ、うん」


と、恥ずかしそうにマヤから目をそらして言った。


「本当?」


「本当だ」


「じゃあもふもふさせて?」


「ああ……って、うん?」


「よーしっ! 捕まえたっ」


 途端に元気を取り戻したマヤに、マッシュはあっという間に捕まり、頭からお腹から背中から、マヤの好きなようにもふもふされる。


 そこでようやく、マッシュは自分が騙されていたことに気がついた。


「マ、マヤっ! お前さては私を騙したな!」


「えー、なんのことかなー? 私本当に落ち込んでたんだよ? だからもふもふさせてもらわないとだめだと思うんだー?」


「嘘だ! 絶対嘘だろう!? このっ、離せええええ!」


 そんなこんなで、1人と1匹は度々こんな大騒ぎをしながらも、順調に隣国への街道を進んでいき、数日後、隣国との検問にたどり着いたのだった。

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