第7話 光 

「みんなー!!今日は私たち!Summer SUILENのライブに来てくれてありがとー!!今日がドームツアー3日目!!ここまで追っかけて来てくれた人も!初めましての人も!全員熱くさせてあげるね!!」

「ウワアアアアアアアアアアアアアア———ッ!!」


 マイクを通して反響する彼女達の声に、ドームにいる全員の歓声がとどろく。数分前までは暗闇に包まれた空間も、今ではすっかり彼女達がもたらす光によって会場全体が冷めることのない熱をびていた。


「では次の曲いきましょう!!はい!ミヤ紹介よろしく~!」


 先ほどまで進行を務め、マイクを持った青髪のアイドルがパートナーである茶髪のアイドルに手渡す。彼女は何も言わずにニコッと客に向かって微笑むと再び会場が絶叫の嵐に包まれる。


「‥‥‥‥すげぇ。すげぇな一角!!」

「ふふ、どう?ホンモノのアイドルのライブを見た感想は?」


 先ほどまですっぴん全開の自称最強アイドルの一角は、どこから持ってきたのかニット帽を被り、メガネを身につけ、マスクを着用。

 もはや”私は芸能人です!”と言っているような変装をして俺の隣でライブを鑑賞していた。

 

「あれだな!ピーマンの肉詰めだな!‥‥っておい、なんでそんな哀れな目でこっちを見る!?」

「いやなんかもう悲しなってきて。まさかここに来てまでふざけだすなんてちょっともう‥‥ねぇ?」

「至って真面目だって!!だから聞いてくれ!」


 そう言ってハイテンションな俺はステージに立つ2人のアイドルをひとみ宿やどしながら淡々たんたんと言葉を紡ぐ。


「ピーマンって色からして苦いし、不味まずいし食べたいって思わないだろ?それをなんで上手いハンバーグに巻いて食べんのか子供の頃は不思議でしょうがなかった。けれど近寄りがたいピーマンの肉詰めをいざ口にした時、あふ!れ出す肉汁がピーマンの苦味とベストマッチしていてこれ以上ないハーモニーを生み出すんだ」


 少しだけ似合わずカッコつけながら例え話をしていると、横から思わぬ一角の奇襲がかかる。


「私は最初から好きだよピーマンの肉詰め。あれってさー」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。ここで話を止めたら俺がただピーマンの肉詰めの話がしたかったように見えるだろ?」

「違うの?」

「違うわ!どんな食いしん坊だ俺は!!続きがあるから黙って聞け!」


 片手を出して彼女を制すると、会話の主導権を取り戻す。一安心した俺は再び自慢の例え話に話の軌道を修正した。


「ライブもそう。単純にアイドルが歌う音楽が好きで聞きたいにしてもオタクがいるからライブに行きたくない奴らが多い。けれどいざこうやって足を踏み込んでライブ会場に行けばあっという間に虜にさせられるんだ」

「えっと?ハンバーグが音楽で?ピーマンをアイドルオタクに例えたってこと?」


 この人、自分も料理のオタクで同じオタク仲間なんだって自覚ないのかな?と、コンマ2秒入って来た邪推な情報を初華は黙ってかき消した。


「まぁでもアイドルのことを少しは理解わかってくれて嬉しいかな。それで?どこがいいなーって思ったの?」

「それは、まだ良くわからねぇ。けどみんながこうして笑い合っている時間が心地よくて仕方がないってのは確かだ」

「あっそー」


 こうやって一致団結してみんなが一つのものを楽しもうとしているこの場に感動した。ある者はペンライトを振って、ある者はタオルを掲げて、ある者はレスポンスを送る。それぞれに異なった愛情表現があって、それぞれがそれを認め合ってステージから放たれる光を浴びている。

 録音音源で聴けばいいものをどうして数千数万かけてコイツらはライブに来ているのか、不思議でしょうがなかったが和解した。


「ありがとう初華。俺、ここに来れてよかった」

「あ、名前‥‥うん」


 頬を赤らめて明後日の方向を向く初華。だがそのことに大樹が気づくわけもなく、ただただ目の前で繰り広げられるステージ上のパフォーマンスに集中していた。


 自分でも勝手だと思う。さっきまで道端みちばたのゴミを見るような態度でコイツらを見下していたのに。いざ本気で楽しんでいるオタク達を見ると、俺が本当に狭い世界に生きていたのだと突きつけられる。

 きっと、夢を失った自分より下を見つけて見下すことで優越感にひたっていたんだ。


「間違いなくこれは、光を失って人生を諦めようとする人間を照らす光だ。初華、お前のライブもそうなのか?」

「どうかなー?私のライブを近くで見ないとわからないかもね?」

「そうだな、いつかお前のライブも見たくなった。アイツらと同じようにペンライトを振って」

「それは‥‥いい心がけね!」


 会話が難しい轟音の中。俺と初華は変わらず話を続けた。時折眩い光が俺たちに差し込み、彼女の長い紫の髪と虹色のように輝く瞳を光らせた。

 その時確かにアイドル一角初華は俺の隣に存在していて。コイツもステージに立てばあの2人と同じアイドルなのかと思うと、胸を震わせた。

 

「アイドルか、いいな」

 

 初めて俺が芸能界に興味を持った瞬間だった。



▼▽


「あら、ここにいたのですね怜」

「怜姉さんって言いなさいよ。昔は姉様姉様言ってくれていたのに随分と偉くなったのね。すみれ」


 大樹と初華がライブ鑑賞している頃。ライブ会場3階フロアよりさらに上、最上段に位置する特別室で可憐な女性2人が火花を散らしていた。


「ふふふ、いくらお仕事が減ってしまったとはいえこんなところで油を売るのはどうかと思いますよ?」


 口元に手を置いて皮肉を漏らすと怜の額に青筋を浮かばせた。


「喧嘩売ってんの?」

「まさか、ここに来たのもそんな退屈なお話をしに来たわけではありませんから」


 丁寧な口調は崩さずハンカチは包んだ一枚の紙を取り出すと、椅子に座る怜の膝下ひざもとに開いた。


「お母様からお返事が来ました。決行日は明後日、くれぐれも貴方の親戚やご友人、事務所の方々を会場に近づけないようにしてくださいね」

「‥‥ねぇ、本当にやるの?」


 怒気の感情を表した怜を前に、慎ましく上品な笑みを浮かべるすみれ。一つ文句を付け足してくると思ったが来ないことを確認すると、冷たい眼光を彼女に向けた。


「芸能界にとって重要なのはバランスですよ?アイドル分野であろうとその均衡を崩そうとしている人間にはそれ相応の対処しなくてはいけません。既に男は用意しています。もちろん致す場所もです。貞操ていそうを失ったアイドルなんて誰も見向きしないでしょう」


 彼女の言葉を耳にし、もはや話す言葉を失った怜はすぐに立ち去るよう手を振った。


「忘れないでくださいね。大した実績も残していない貴方がこうして純潔を守れているのは、私と同じ劇団に居たよしみなんですから。そのことをお忘れなく身のたけにあった人生を送ってくださいね。怜姉さん」


 身を震わした怜を傍目に踵を返すと、物音1つ立てずに特別室を後にした。


「芸能界の頂点に君臨するのは私たち冬月家の一族。全てを牛耳ぎゅうじる権利を手にするのはお母様にこそ相応ふさわしい」


 





 あとがき


 どうも!!作者の、暇人の極みです!!まずは第7話にしてあとがきを書く愚かな筆者を許してください!

 さて、ここまで拙い文章力の作者の物語に付き合ってくださりありがとうございました!第7話まで執筆活動を致しましたが実は第8話からが本編スタートとなります!

 今までのお話はあくまで序章という認識をしていただければ結構です。第8話は大樹における第2の人生の転機が訪れます。

 それが彼にとって光なのか、それとも闇となるのか。ぜひ期待して明日を待っていただければ幸いです。

 ちなみに私は毎日20〜0時ごろ1話ずつ更新していきますので今後とも応援よろしくお願いします!

 





 

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