第56話 部下に冷かされる領主とは俺のことだ!

「アミーさん! 好きです!」


「坊やに用はないニャ!」


「頼むから止めてください……」


 冒険者ギルドの調査隊は五日間の調査を終えて帰っていった。

 フォー辺境伯の領都デバラスで会議を行い、我がエトワール伯爵領に冒険者ギルドを開設するか否かを審議するそうだ。


 我が領都ベルメール周辺の魔物の生息情報や薬草・鉱物資源などの情報は極秘で、俺にも教えてもらえなかった。


 調査隊責任者のアミーさんは、終始出来る女性風の振る舞いで、俺のハートにドストライクだった。

 色っぽくて仕事の出来るお姉さんなんて……最高じゃないか!


 だが、失敗もある。


 俺が色気づいたとエルフのシューさんとネコネコ騎士のみーちゃんが冷やかすのだ。

 今も俺の執務室に来て、小芝居を繰り広げている。


「あの! 俺はアミーさんに告白なんてしていませんよ!」


「告白はしてないけど、好意は寄せている」


「うっ……」


 シューさんの追求に俺は言葉が詰まる。

 恋というほどウブな思いではないが、確かに異性に対するトキメキを感じていた。

 長らく身近にいる異性が妹のマリーだけだったからかもしれない。


「ノエルは、胸が大きい女性が好きなの?」


「シューさん!」


「初めて会った時、私が胸の詰め物を外したら、とてもガッカリしていた」


「うっ……」


 俺はまたも言葉に詰まった。

 シューさんとみーちゃんが、ニヤニヤ笑いで近づいてくる。


 俺は執事のセバスチャンに助けを求める。


「セ……セバスチャン!」


「わたくしは、お茶の用意をいたしますね」


 セバスチャンは逃げ出した!


 シューさんとみーちゃんが左右から顔を近づけて、ウリウリ白状しろと迫ってくる。

 俺は仕方なしに答えた。


「大きいのが好きです」


「「おおー!」」


 二人が大げさに驚いて俺を冷やかす。

 俺は二人に冷や水を浴びせるべく、切り札を切った。


「ほら……幼くして母を亡くしたから……」


 これだ。

 母親と死別したからという理由の前では、胸が大きいだの小さいだのは下らない議論に成り下がる。

 俺は心の中で母に祈った。


(天国の母上、どうかお守りください)


 だが祈りは通じなかったようだ。

 二人は容赦なく俺を攻撃した。


「ノエルはマザコン」


「マザコンで巨乳好きニャ!」


「いや、ちょっとは同情してくださいよ……」


「その手には乗らない」


「マリーには内緒にしてあげるニャ!」


「それはどうも」


 俺は深くため息をついた。

 まあ、仕方ない。二人は俺とマリーの護衛で常に気を張っているのだ。

 そして領都ベルメールには、娯楽が何もない。

 となれば、俺を冷かして適度に緊張を解すくらいは許容しなくては。

 俺は領主で、兄で、娯楽なのだと割り切ろう。


 二人に冷かされていると、執事のセバスチャンが戻ってきて、笑顔で俺に声を掛けた。


「ノエル様。お客様です」


「客? 誰だろう?」


「ダークエルフのエクレールです」


「おお!」


 ダークエルフのエクレール!

 俺を狙った刺客だったダークエルフだ。

 妹が病気で困っていたが、どうなったのだろう?

 エリクサーは持たせたし、ここに来たということは病気が治ったのではないか?


 俺はエクレールに会うべく応接室へ向かった。

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