第49話 マジックバッグの交渉成立

 マジックバッグを商人たちに売ろうとしたら、フォー辺境伯からストップがかかった。

 どうしてだろう?

 フォー辺境伯は厳しい顔を俺と商人たちへ向けた。


「マジックバッグは、ダンジョンから出る! このデバラスの町において、目玉商品の一つだ!」


 どうやら競合するからダメということらしい。

 困ったな……。

 フォー辺境伯はお隣さんで、エトワール伯爵家に良くしてくれている。

 南部貴族の有力者の一人でもある。

 ここで関係を悪くしたくない。


 だが、俺も一国一城の主だ。

 ここで簡単に引き下がるわけにはいかない。

 領地貴族は独立自営なのだ。


 俺は気持ちを強く持ちつつ、社交的な柔和な表情を保って会話を続けた。


「フォー辺境伯。詳しく話を聞かせて下さい」


「うむ。我が町にはダンジョンが四つあってな――」


 フォー辺境伯によれば、領都デバラスにはダンジョンが四つあり、このダンジョンこそが領都デバラスが栄える源泉だそうだ。


 ダンジョンは、前世日本のゲームに近い。

 ダンジョン内に魔物が出現し、宝箱が現れる。

 その宝箱の中からマジックバッグがドロップするそうだ。

 マジックバッグはレアなドロップアイテムらしく、冒険者ギルドでオークションにかけられる。


 オークションで落札した金額の内、六割を冒険者、二割を冒険者ギルド、残り二割を税としてフォー辺境伯が得るという。


「なるほど……。その状況で私がマジックバッグを大量に販売すると、色々バランスが崩れますね……」


 俺はマジックバッグに関する一連の流れを聞いて考えを巡らせる。

 需要と供給のバランスでいうと、需要=マジックバッグが欲しい人が多い。

 だが、供給側=冒険者、冒険者ギルド、フォー辺境伯としては、オークションで高値がついて欲しい。


 俺がマジックバッグ市場に参入して、価格が下がるのは勘弁して欲しいと思っているのだろう。

 少なくともフォー辺境伯は。


 フォー辺境伯は、俺の発言を聞くと前のめりになった。


「そうだ! マジックバッグは、月に二個か三個オークションに出品される。エトワール伯爵が、マジックバッグをどうやって入手するかは聞かないが、場を荒らすのは止めて欲しいな!」


 ゴンゴンと釘を刺されてしまった。


 だが、俺もお金がいる。

 ここは退却せずに交渉だな。


 俺は一度アイスティーの入ったグラスに口をつけ考えを整理する。

 俺のゴールは、マジックバッグの販売で金銭を得ること。

 色々な条件面は、フォー辺境伯に譲っても良いのだ。


 俺はフォー辺境伯に向き直り、余裕の態度で足を組み替え、笑顔でゆったりと話し始めた。


「フォー辺境伯。状況は理解しました。そこでご提案ですが……、私がここデバラスの冒険者ギルドにマジックバッグを持ち込むのはどうでしょう?」


「ん……? エトワール伯爵が、マジックバッグを冒険者ギルドに持ち込む?」


「ええ。私が商人たちにマジックバッグを直接販売するのではなく、この町の冒険者ギルドを通しましょう。そうすれば私のマジックバッグも、この町のオークションに出品されます」


「ふむ……」


 フォー辺境伯の表情から厳しさがとれた。

 真面目な顔で俺の提案を考えているが、先ほどのようなキツイ雰囲気はない。

 悪くない感触だ。


 俺のマジックバッグが、ここデバラスの町で開催されるオークションに出品される。

 落札額の二割がフォー辺境伯の懐に入る。

 フォー辺境伯の収入が増えるのだ。


「そうだな。悪くない。だが、大量にマジックバッグを持ち込まれては、落札額が暴落してしまうぞ」


「それは私にとっても旨味が減ります。そうですね……、当月にオークションに出品されたマジックバッグと同数では?」


「同数か……、月に二つオークションにマジックバッグが出品されたら、エトワール伯爵が二つマジックバッグを冒険者ギルドへ持ち込むと?」


「そうです」


「多いな! 取引量が倍になる。単純に考えれば落札額が半分になるぞ」


 ふむ……。

 マジックバッグの需要は多そうだから、半額にはならないと思うが……。

 ポイントは、そこじゃない。


 基本的にフォー辺境伯は、自分の場が荒らされるのを嫌がっているのだ。

 もう一歩俺が譲ろう。


「じゃあ、月に一つ!」


 フォー辺境伯が、俺から視線を外しジッと考えている。

 損得勘定をしているのだろう。

 俺を閉め出せば、俺の感情が悪くなる。

 それに、マジックバッグを欲しがる商人たちも不満を持つだろう。


 俺は自分の領地で取引するのではなく、フォー辺境伯の冒険者ギルドにマジックバッグを持ち込むことで、フォー辺境伯にもお金が入るように配慮をした。


 この辺りを総合的に考えて、フォー辺境伯がどう判断をするか……。


 しばらくして、フォー辺境伯が笑顔で右手を差し出してきた。


「うむ。良いだろう!」


 交渉成立だ!

 俺はフォー辺境伯が差し出した手を握った。


 毎月マジックバッグが一つ。

 オークションなので金額は安定しないが、定期収入があるのは安心材料だ。


 商人たちも喜んでいる。

 自分たちがマジックバッグを手に入れるチャンスが増えるのだ。


 マジックバッグの交渉では、俺はかなり譲ってしまった。

 譲らざるを得なかった。


 それはなぜかといえば、俺に、エトワール伯爵家に力がないからだ。

 むう……。これではいけない……。


 早く力をつけなくては!

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