第43話 こんな税を考えたのは誰だ!

 果物採取は無事に終了した。

 沢山のオレンジが採取出来た。


 何より、執事のセバスチャンのスキルが覚醒し、クロスボウで活躍をした。

 セバスチャンは、五頭のホーンラビットを仕留め自信をつけた。

 表情や話し方も明るい雰囲気で、帰り道は笑顔だった。


 開拓村の広場に馬車を停めると、村長がやって来た。


「ご領主様! ありがとうございました! それで……、税はいくらでしょうか……?」


「しばし、待て……」


 しまった! 税! 税金だよ!

 そんなの考えてなかった!


 とりあえず村を豊かにすれば、お金が入るとボンヤリ考えていた。

 だが、領民から税金を納めさせないと、村を運営できない。

 俺は自分の立ち位置が、日本でいうと地方自治体の市長に近いポジションだと認識した。


 俺は執事のセバスチャンを馬車の裏へ引っ張って来て、税金について尋ねた。


「税金はどうすれば良い?」


「この場合は物納でございます」


「物納?」


「はい。農作物の収穫があった場合は、収穫した農作物の何割かを領主に納めます」


 なるほど!

 収穫物を税として納めるから物納か!


「セバスチャン。何割くらい税を取れば良いんだ?」


「それは領主の考え次第です。他の税との兼ね合いもございます」


「他の税?」


 考えてみれば、前世日本では税金を払う側だった。

 貴族に転生したが、借金だらけの貧乏貴族で税収は右から左。

 税について学ぶこともなかった。


 俺は執事のセバスチャンに説明を求めた。

 どうやら色々な税があるらしい。


 例えば……


 ・人頭税

 これはわかりやすい。

 前世日本の住民税だと思えば理解しやすい。

 領民一人につきいくらと徴収するらしい。

 現金、または、農作物などで物納だ。


 ・地代

 固定資産税だ。

 利用する農地に掛かる税金。

 現金、または、農作物などで物納。


 ・作物税

 今回の果物採取は、この作物税あたる。

 前世日本の所得税だと思えば理解出来る。



 執事のセバスチャンから、ここまで税の説明を聞いて多いなと俺は感じた。

 だが、まだあるらしい。



 ・塩税

 塩にかける税金。


 ・砂糖税

 砂糖など贅沢品にかける税金。



 まあ、この辺は日本でもあった。

 酒など一部の嗜好品に税金が掛かっていたので、まだ、わかる。

 だが、だんだん怪しい税が増えていく。



 ・労役

 領地の水路建設や道路工事などで、領民がタダで働く。

 つまり領民働かせ放題税。


 ・徴兵

 戦争が起った際に徴兵する。

 税なので、給料は支払われない。



 まあ、仕方ない側面もあるだろうが……。

 働かせ放題、戦わせ放題は不味いだろう……。



 ・水車税

 水車で小麦の粉挽きをするなど、水車を利用すると徴収される設備使用料。

 水車以外の施設でも発生する。

 現金、または物納。



「セバスチャン。セコくないか? 水車を使わせて領地が豊かになれば、税収が増えるだろう?」


「ええ。無料や低額で水車を使わせている領主も沢山います。一方で、領民から絞り取ろうとする、しわい領主もおります」


「うーむ……」



 ・通行税

 関所を設けて、通行する人から現金を徴収する。

 高速道路料金と考えれば、理解出来る。

 しかし……。


「セバスチャン。通行税など取ったら商人や旅人の行き来が減るだろう?」


「おっしゃる通りでございます。ですので、通行税を取らない領主もおります」


「ここまで来るのに、俺たちは取られてないよな?」


「貴族からは、税を取りません。貴族は税を取る方です」


 貴族は憎まれそうだな……。



 ・市場税

 領主が市場を開き、農民が農作物を販売した場合に課せられる税金。

 現金、または物納。


「セバスチャン。農作物には、一度税をかけてるよな?」


「市場に出すと、もう一度税がかかります」


「それじゃ、領地経済が活発にならないだろ?」


「難しゅうございますね」


「うーむ……」


 まったく誰が税金を考えているのだろう。

 領民から絞り取ることばかりを考えている。


 もっと領地経済を良くしよう。

 領地を豊かにして、税収を上げようという考えはないのだろうか?


 次は、どんな税金だ?



 ・結婚税

 結婚の時に納める税。

 現金、または物納。



「待て! セバスチャン! 結婚は農作物の収穫ではない。物納はおかしいだろう?」


 執事のセバスチャンは、言いづらそうにしている。


「その……物納でございます。農作物ではございませんが、花嫁を一晩領主に……」


「あー……」


 俺は天を仰いだ。

 どこのバカだ!

 こんなクソみたいな税制を考えたのは!


「セバスチャン! エトワール伯爵領で、結婚税はナシだ!」


「承知いたしました」


 領民が結婚したら、逆に祝い金を送りたいくらいだ。

 まったく! 絞り取ることばかり考えている!


 俺はプンスカと怒ったが、セバスチャンが上手くなだめてくれて、少し冷静になった。

 さて、税を何割にしようか?


 セバスチャンによれば、作物税は領地によってマチマチで、五割の領地もあれば、七割や八割とる領地もあるそうだ。


 セバスチャンの言う通り、他の税との兼ね合いもある。

 それに開拓村は、見ての通り貧しい。

 そもそも税金が払えるとも思えない。


 それなら……。


「セバスチャン。作物税は四割。そして、人頭税や地代は、村が軌道に乗るまでは免除。これでどうだろう?」


 俺は、日本の江戸時代の税制である四公六民を参考にして、作物税四割を提案した。

 俺の感覚だと、作物の半分近くを持って行かれるので嫌な感じだ。

 一方で人頭税と地代を免除したので、領民の手元に税が払える物がある時に払えば良いシステムになる。

 これなら受け入れられやすいのではないか?


「それに他領より税金が安ければ、領民が増えるかもしれないだろう?」


 執事のセバスチャンは、驚いた顔をした。


「四割なら、かなり低い税率です。人頭税と地代を一時免除するのは、非常に温情のある措置でよろしいと存じます。領民の心をつかむのに役立つでしょうし、領民が増えるかもしれません」


「そうか!」


「しかし、四割の税収ですと、エトワール伯爵家としてやっていけません。金策はいかがなさいますか?」


 執事のセバスチャンに合格点をもらえたと思ったが、税収が低すぎてやりくりできないとダメだしが来た。


 俺は領地経営について考えていたことを、執事のセバスチャンに説明する。


「手始めに、領地の名産品を作って販売する。エトワール伯爵領の収入の柱は、名産品販売の利益にするつもりだ」


「なるほど。ドライフルーツでございますか?」


「他にも考えている。それで、名産品の販売で稼いでいる間に、農地を広げ、農産物の収穫を増やす。時間はかかるが、将来的には農産物の収穫と名産品の販売の二本柱にしたい」


 魔の森は、農地を広げにくい。

 相当な時間がかかるかもしれない。

 農産物の収穫だけをあてにする一本足打法では、エトワール伯爵領は立ち行かなくなる。


 だから、複数の名産品を開発して商人に売る。

 名産品の生産には領民も参加させて、領民の収入を増やす。


 こうして領地を富ませていこうと思う。


 俺のプランを執事のセバスチャンに、身振り手振りを交えて説明すると納得してくれた。


「ノエル様が、そこまでお考えでしたら申し上げることは何もございません。作物税は四割にいたしましょう」


 こうしてエトワール伯爵領の作物税は四割に決まり、俺は大量のオレンジを得た。

 妹のマリーが、セッセとドライフルーツに加工した。


 ちなみに以前開拓村にいた代官は、七割も作物税を取っていたらしい。

 領民たちは、四割と低率の作物税に喜んでいた。

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