第41話 果物採取へ行こう!

 俺たちは、マジックバレルを村人に交代で持たせて、村へ戻った。

 マジックバレルは重量軽減機能がついている。

 中身は黒い水の沼、つまり大量の石油なのだが、マジックバレルに収納すれば、普通の樽と変わらない重さである。

 魔導具は便利な物だ。


 川がきれいになったことが村人全員に伝わった。

 俺たちが村を歩いていると、村人たちが笑顔で頭を下げてくる。


「ありがとうございました!」

「ご領主様! すごい助かりますよ!」

「洗濯が出来なくて困ってたんです!」


 俺は、ウムウムと領主らしく鷹揚に対応する。

 何といっても俺は十三歳の少年領主なのだ。


 この開拓村の村人が、どんな人たちなのかはわからない。

 中には領主が子供だからと、なめた対応をする村人がいるかもしれない。


 そうなったら不幸だ。


 俺は領主として、なめた対応をした村人を罰さなくてはならない。

 罰さなくては、村の統治が成り立たなくなるからだ。

 村人と仲良くしたいし、信頼関係を築きたいとは思うが、なめられてはいけない。


 ならば、最初から領主らしく堂々と振る舞って、村人に誰が統治者か態度でわからせた方が良い。


 俺たちは、村の中央にある広場に帰ってきた。

 この広場に馬車が停めてあり、馬車はキャンピング仕様に変形してある。

 テーブルや椅子も広げて、生活スペースも出来ている。


 ちょうどお昼時だ。

 執事のセバスチャンが、食事の支度を始めた。


 俺は椅子に座り考えていた。

 次は何をしようか?


 妹のマリーが、俺の顔をのぞき込んできた。


「お兄様! どうしたのですか?」


「マリー。次は何をしようかと考えていたんだ」


「私はドライフルーツが作りたいです! この村に来る途中、フルーツがなっていましたわ! フルーツをとりに行きましょうよ!」


「フルーツの収穫か……」


 悪くないアイデアだと思った。

 村人も何人か連れて行けば、彼らの食料確保にもなる。

 マリーが村人にドライフルーツ作りを教えれば、村の特産品作りにもなる。


 だが、村から外は魔物が出る。


 ここは護衛の意見を聞いておこう。

 俺はネコネコ騎士のみーちゃんとエルフのシューさんに意見を求めた。


「フルーツ採取をしたいのですが、みーちゃんとシューさんは、どう思いますか? 村人も連れて行きたいのですが、護衛は大丈夫でしょうか?」


「連れて行く村人は五人くらいニャ。危なくなったら馬車に乗せて逃げるニャ」


「私も同意見。魔物自体は、それほど強くないが、戦闘力のない村人にとっては脅威になる。あまり人数が多いと守り切れない。五人以内にして欲しい」


 俺たちがいる開拓村は、魔の森の中にある。

 昨日、フォー辺境伯が、村の周囲を見回ったついでに魔物を狩ってくれた。


 フォー辺境伯によれば、村の周囲はそれほど強い魔物はいないらしい。


 ホーンラビット――額に角を生やした大型のウサギ。

 フォレストウルフ――鋭い牙と爪を持つ大型の狼。仲間を呼ばれると厄介。


 この二種類を狩ったそうだ。


 フォー辺境伯たち竜騎兵にとっては、あまり強い魔物ではなくても、開拓村の村人とはそもそも戦闘力や戦闘経験が違う。

 それに村人は武器や防具を身につけていない。

 村人が魔物と戦うのは無理だろう。


 魔物との戦闘は、ネコネコ騎士のみーちゃんとエルフのシューさんを頼るしかない。


 俺は二人の意見を受け入れた。


「わかりました。お二人の言う通り、村人の同行は五人にしましょう。危険な状況になったら馬車に乗せて逃げます」



 食事が終わり、俺は村長のベント老人を呼んだ。


「ベント老人。果物の採取に向かう。護衛はこちらで行うので、希望者を村人から五人募ってくれ」


「かしこまりました! いやあ、ありがとうございます! 魔物が怖くて、果物は放置していたんですよ」


 ベント老人は喜び村人たちを集めて人選を始めた。


 俺は馬車からクロスボウを取り出し、故障がないか確認をする。

 俺のクロスボウの腕は大したことないが、牽制や時間稼ぎくらいにはなるだろう。


 俺がクロスボウを確認していると、執事のセバスチャンが近づいてきた。


「ノエル様。私にもクロスボウをいただけないでしょうか?」


「セバスチャン!」


 俺はセバスチャンの言葉に驚いた。

 セバスチャンは穏やかな人柄で荒事とは無縁だ。


 確かに俺が『クロスボウなら遠距離から攻撃出来る』と話したことがあった。

 だが、自分から進んでクロスボウを求めるとは思わなかった。


 それに、セバスチャンはメンタルヘルス的に不味そうな感じだった。

 無理は禁物。心配だな……。


 俺はセバスチャンを思いやった。


「大丈夫なのか? 無理はしなくて良いぞ」


「お気遣いありがとうございます。しかし、こういった環境ですから、私も色々と試してみませんと」


「わかった。クロスボウを用意しよう」


 俺は執事のセバスチャンが離れるとフーッと息を吐いた。

 心配だな……。


「ニャン♪ ニャニャニャ♪ ニャニャニャニャ♪ ニャンニャ♪ ニャンニャ♪ ニャン♪」


 何だろう?

 みーちゃんが軍艦マーチを歌っている。

 機嫌が良いのかな?


 俺は馬車の裏へ回り、人目がないことを確認してから、生産スキル【マルチクラフト】でセバスチャン用のクロスボウと矢を生成し、執事のセバスチャンに渡した。



「ご領主様! 五人集めて参りました!」


 村長のベント老人だ。


「よーし! 出発だ!」


 俺たちは、果物の収穫に向かった。

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