第12話 東風吹かば(一章最終話)
俺とネコネコ騎士のみーちゃんは、王都の裏路地を王宮のソレイユ宮殿へ向かって静かに歩いていた。
「まったく……王都から早く出れば良いニャ……」
「そう怒るなって、早く済ませるから」
俺たちは、エトワール伯爵家の王都屋敷から脱出した。
襲撃者をまき、王宮に近いところで馬車を停め、俺とみーちゃんがソレイユ宮殿へ向かった。
だが、みーちゃんはソレイユ宮殿へ行くことに反対だったので、さっきから小声で文句を言っている。
「マリーが心配ニャ。かわいそうに、怖がっていたニャ」
「セバスチャンがついているから大丈夫だよ。俺の心配もしてくれよ」
「ノエルより、妹のマリーの方が小さいのニャ」
親猫が子猫の心配するようなものだろうか?
おかしいな。
女神様が俺を心配して、みーちゃんを遣わしたはずなのに。
俺の扱いが、雑になっているような……。
「ノエルは、みーちゃんと話す時は、態度や口調がくだけるニャ」
「そうかな?」
「そうニャ。セバスチャンと話す時は、もっと貴族っぽいニャ」
この異世界に転生して貴族の子息として生きてきた。
貧乏貴族ではあるけれど、貴族としての立ち居振る舞いが自然と身についたのだろう。
だが、みーちゃんと話すと、前世日本の感覚が戻ってしまうのだ。
そのせいで、俺の態度や口調がくだけていたのだろう。
「気をつけるよ」
「みーちゃんは気にしないニャ」
小声でおしゃべりをしている間に、ソレイユ宮殿の城壁に着いた。
高い壁が続いている。
「ここから入るのかニャ? ノエルはジャンプしても届かないニャ」
「大丈夫。考えがあるんだ。みーちゃんは、城壁の近くに人がいるかわかる?」
「わかるニャ。人の気配はないニャ」
「ありがとう。では……スキル発動! マルチクラフト!」
俺はソレイユ宮殿の城壁に向かって生産スキル【マルチクラフト】を発動させた。
俺は生産魔法を使って城壁に使われている石材を、石の素材ブロックに変えた。
石の素材を城壁から取り出したので、城壁には一メートル四方の穴が空いた。
「よし! 行こう!」
「ニャァ……。こんな生産スキルの使い方があるニャ……。女神様もビックリニャ」
俺とみーちゃんは、城壁の穴からソレイユ宮殿の敷地に侵入した。
そして城壁の内側に入ると、また生産魔法を使って城壁に空いている穴を埋めた。
確かに本来の生産スキルの使い方から逸脱しているかもしれない。
生産スキルとは……一体……。
みーちゃんが、ひとこと言いたくなるのも無理はない。
「完全犯罪ニャ!」
「シーッ! さあ! 進むよ! 人の気配を探ってね!」
「任せるニャ!」
俺はスキルで次々と壁に穴を開けては塞ぎ、みーちゃんの協力もあって安全にソレイユ宮殿の中を移動した。
十五分ほどで、目的の場所に到着した。
「ここが目的地かニャ?」
「そうだ。国王が貴族や外国の使節と謁見する場所だよ」
ここは太陽神の間だ。
昼間、ここで国王と宰相マザランに屈服させられた。
父の借金について文句を言うのは、まあ仕方がない。
だが、領地を取り上げたり、襲撃者を仕向けて殺そうとしたりするのは、明らかにやり過ぎだ。
「何をするのかニャ?」
「そこに立派な玉座があるだろう」
「金ピカニャ!」
「黄金の玉座ってヤツだ……」
俺はニヤリと笑った。
「ノエル……何を考えているニャ? あの椅子を盗むのかニャ?」
「いや、違う。俺はね……。世話になったお礼に、玉座のデザインをリニューアルしてあげようと思ってね……」
「ニャ? デザインニャ?」
「ああ」
俺は黄金の玉座に近づくと、手をかざして生産スキル【マルチクラフト】を発動させた。
「スキル発動! マルチクラフト!」
黄金の光が七色の光に変化し、黄金の玉座が姿を変えた。
「ニャニャ! トイレになったニャ!」
そう! 俺は黄金の玉座を金ピカ洋式トイレに変えたのだ!
黄金の玉座が、黄金の便座に!
みーちゃんは、クスクス笑い出した。
「嫌がらせにしてもヒドイニャ! これを見たら怒るニャ!」
「いや、怒ってるのは、俺の方だから。これがメッセージさ」
「メッセージ? このトイレが、どういうメッセージになるのニャ?」
「クソ食らえ!」
「ニャハハハ!」
立派な太陽神の間に鎮座する黄金のトイレ……。
月明かりに照らされて神々しいほど光り輝いている。
きっと女神様も祝福しているだろう。
まあ、トイレが祝福されるものなのかどうか知らんが。
俺はスッキリした。
気分爽快だ!
「さて、行くか!」
「ニャ! 南ニャ!」
俺とみーちゃんは、来た時と同じように壁にスキルで穴を開け、通り終れば穴を塞いで無事にソレイユ宮殿から脱出した。
俺たちを乗せたゴーレム馬車は王都を出て、街道を南へ向かった。
南方にある新領地へ。
さようなら、王都!
さようなら、俺の子供時代!
東風吹かば
匂いおこせよ
梅の花
あるじなしとて
春な忘れそ
―― 第一章 完 ――
間話を挟んで、第二章に続きます。
ここまでお付き合いをいただきありがとうございました。
本作品は、久しぶりにパンツァーで書き進めております。
面白かった!
続きが読みたい!
と思ったら、下のボタンから★評価をお願いします!
作品フォロー、作者フォローもしていただけると嬉しいです!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます