第6話 生産スキル【マルチクラフト】
「ノエル! おめでとうなのニャ! スキル【マルチクラフト】が活性化したニャ!」
「おお! ありがとう!」
ネコネコ騎士のみーちゃんが、スキルの説明を始めた。
俺が女神様からもらったスキルは。生産系のスキルで【マルチクラフト】だ。
スキル【マルチクラフト】は、何でも作ることが出来る。
ただし、材料は用意しなくてはならないそうだ。
「無から有は成せないのニャ」
「なるほどな」
「それから魔力を消費するニャ。補助スキル【魔力増強】も覚醒したから大丈夫だと思うニャ。一応、魔力切れに注意するニャ」
「魔力も増やしてくれたのか! ありがとう!」
至れり尽くせりだ。
本当にありがたい。
「じゃ、早速スキルを試してみるニャ! 何か作るニャ!」
「そうだな……」
スキル【マルチクラフト】で、物作りするには材料が必要なのだが……。
俺は屋敷を見回したが何もない。
家具や金目の物は既に売り払ってしまった。
生活をするために最低限の服や食器しかないのだ。
いや……あった!
窓だ!
窓にはガラスがはまっている。
現代日本の板ガラスのように薄くない。
ガラス職人の手作りなので、かなり厚ぼったいガラスだ。
だが、材料としては十分だ。
「ガラスのコップを作ろう!」
俺は窓に近づいた。
ガラスに手をかざし、目をつぶる。
頭の中にしっかりとガラスのコップをイメージする。
昔、日本で使っていたガラスのコップだ。
しっかりとイメージが出来た。
俺は目を開いてスキルを発動した。
「スキル発動! 【マルチクラフト】!」
手のひらから金色の光りが渦を巻いて飛び出し窓ガラスに衝突する。
金色の渦はガラスのコップを生成するのに必要なだけ窓ガラスをのみ込む。
七色の光りが俺の手から溢れた。
手に硬質な感触が伝わったので、俺は慌てて両手で七色の光りを包み込むようにした。
俺の手は、ガラスのコップをつかんでいた。
「出来た! 本当にスキルが発動した! やった!」
俺は喜んで飛び上がった。
みーちゃんが、満足そうに笑顔でうなずく。
「うん、うん。よく出来ているニャ。魔力の方はどうかニャ?」
「いや、特に何も感じないよ」
ガラスのコップを生成する程度は、ごく微量の魔力で済むようだ。
これで色々な物を作って売れば、我がエトワール伯爵家の窮状も解決出来るぞ!
「ノエル。窓ガラスが一部なくなってしまったけれど。良かったのかニャ?」
「ああ。この屋敷から出て行かなくちゃならないから構わない。そうだ!」
俺は金策を思いついた!
この屋敷を材料にして、高く売れそうな物を今日中に作りまくるのだ。
「更地になるまで、作りまくってやる!」
「ニャニャ! 凄い迫力だニャ……」
みーちゃんが、俺の気迫に後ずさる。
だが、俺は燃えている。
きっと今、俺の両の眼から炎が立ち上っていることだろう。
「セバスチャン! セバスチャン!」
大声で執事のセバスチャンを呼ぶ。
屋敷の奥からすぐにセバスチャンがやって来た。
「ノエル様。お呼びでしょうか? はて? そちらの……獣人? の? 方は?」
「ニャー! ネコネコ騎士のみーちゃんニャ! ノエルの友だちで護衛をするニャ! よろしくニャ!」
「は、はあ。よろしくお願いいたします。みー様」
執事のセバスチャンは、みーちゃんの存在に戸惑っているが、それどころではない。
俺の新たなスキルと新たな商機!
「セバスチャン。このコップを見てくれ」
俺はセバスチャンにスキル【マルチクラフト】で作ったガラスのコップを手渡した。
「これは随分薄いグラスですね……。それに軽い。よほど腕の良い職人が作ったのでしょう」
「セバスチャン。ガラス製品は、どのように作るか知っているか?」
「はい。金属製の筒の先に熱したガラスを付け、フーッと息を強く吐くのです」
「なるほど。吹きガラスか」
「左様でございます。あとは、窓ガラスのような板状のガラスは、板の上に熱したガラスを置いて伸ばすのでございます」
「職人が何人かでガラス工房で製造するのか?」
「はい。親方と弟子数人で工房を運営します。百人近く職人がいる大きな工房もございます」
想像通りマニュファクチャだな。
工房単位の手工業だ。
「セバスチャン。このコップは高く売れるか?」
「そうでございますね……。それなりの値段で売れると思いますが、装飾がないので高くはならないでしょう」
「そうか! 装飾か!」
ちょっと派手目な感じが良いのかな?
それならカットグラスを作れば売れそうだ。
「ノエル様。このグラスはどうなさったのですか? 当家にこのようなグラスはなかったと存じますが?」
「俺がスキルで作った」
「えっ!?」
「見てろ」
俺は窓に近づき、窓ガラスに手をかざした。
意識を集中して、ガラスのコップをイメージする。
「スキル発動! 【マルチクラフト】!」
魔力が黄金の光りとなってほとばしり、スキルが七色の光りを発する。
俺の手の中にカットグラスが現れた。
前世日本で見かけた、高級な感じのカットグラスだ。
ウイスキーグラス型の口が広いタイプで、グラスの底から上に向かってシュッシュッと切れ目が入っている。
「なんと! ノエル様がスキルを! 生産系のスキルでしょうか?」
「そうだ。ただし、材料が必要になる」
俺は窓ガラスを指さした。
窓ガラスは材料として使ったので、一部が欠けてしまっている。
「ははあ……なるほど……。まあ、今日中に出て行くのです。穴が空いたところで問題ございません」
執事のセバスチャンも大概だな。
「どうだろう? 売れるかな?」
「そうでございますね。商人に売るのでしたらワイングラスやガラス製の花瓶がよろしゅうございます」
「わかった! じゃあ、屋敷中の窓ガラスをワイングラスと花瓶にするよ!」
「それでは、私は商人を集めて参ります!」
俺とセバスチャンは、目を見合わせてニンマリと笑った。
「ニャア。二人とも悪い笑顔をしているニャ」
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