第18話 TS学園の秘密

 約束の時間まで、まだ二時間半近くある。 

  

 食欲もないので、TS学園の近くでタバコが吸えるコーヒーショップで時間をつぶす。 

 喫煙可能のコーナーの空いてるテーブルにポーチからタバコを取り出してテーブルの上に置き、席を確保。コーヒーを頼んで席に着く。 

 コーヒーは夏でも冬でもホットのブラック……一口頂く。 

 そして好みのベリーフレーバーのスティックを加熱式タバコに刺してスイッチを入れしばらく待つ。 

 加温が完了したので、一服大きく吸い込み、ゆっくりと水蒸気の煙を吐く……あ〜やっと落ち着いた。 

 あ、電子タバコに変えたんだ〜 でもやっぱり葉タバコと比べちゃうとなんというか、『吸ってる』感はあるんだけど、パンチがないっていうか……多少は入ってるんだろうけど、やっぱりニコチンとタールは重要よね〜 

 車で例えるなら『ガソリン車』と『ハイブリッド車』の違いだよね……って免許は持ってるけど、車は持ってないんだけどね。 

 髪がくさくならないのだけはメリットかな? 

  

 十五時近くになったので、TS学園へ向かう。 

 いつもの様に守衛さんにTS証明書を提示し、カードリーダーに読み取らせる。 

「『OTMSナンバー1489・中島忍・女子化名・中島しのぶ』さん、今日は生物学部生体検査室一条教授とご面談ですね?」 

「はい、十五時の約束で」 

「では、連絡いたしますのでしばらくお待ちください……『中島しのぶ様がお見えになりました……はい、承知しました』では中島様、生物学部本館地下三階の生体検査室へいらっしゃってください」 

「はい……」なんかデジャビュ……あ、もうあれから半年か。 

  

 TS証明書でドアロックを解除して生体検査室に入る。 

「こんにちは、中島です」 

「お、中島く……さん、いらっしゃい」と一条教授。『くん』と言いかけ、わたしの声と格好ですかさず『さん』と言い換える。紳士だなぁ……変わった人だけど。 

  

 今日は助手も看護師さんもいなくて教授だけだ……よかった。 

「お世話になります……今日は気になったことがありまして……」 

「うん、電話じゃちょっと話しづらいって言ってたね……」 

「ええ、そうなんです。実は……」 

  

  

 検査のとき以来気になっていた、男に戻る時間も女子化する時間も前よりも長くなっていること。 

 それと変な夢を見たことなどを一条教授に話す。 

 ちょっとしたカウンセリングみたいと思ってしまう……。 

  

  

「そうだな……何から話そうか……」 

 一条教授も当然女子化・男子化の時間が長くなっていることは確認しているから話しづらそうだ……。 

  

 それからわたしが一条教授から知らされたことは……。 

  

  

 TS学園は、世界的大手製薬会社であるアストラル製薬の資本金100パーセントの子会社であること。 

  

『XXXXXX』(Sechsx)は『女体化促進剤』(FördererderFeminisierung)のことで、アストラル製薬の『人類女体化計画』の一環で『中島しのぶ』の血液・DNAを解析し製造されたものだったこと。 

  

『人類女体化計画』については『Strenggeheim』(極秘)として全貌は一条教授も知らされてはいないこと。 

  

『中島しのぶ』が受けている検査のメインは『XXXXXX』の追加投与とその効果測定、および血液の採取で、『中島しのぶ』はいわば『GestärktOTMS』――ブーステッドOTMS――であること。 

  

 同じネイルでの『TSトリガー』を持つネイルサロンTSの他の店長四名にも『XXXXXX』の投与を数回行ったが、『中島しのぶ』と同様な変化(若返り、身長・体重の減少、髪や虹彩の色の変化など身体的特徴)が見られなかったこと。 

  

『XXXXXX』の作用で可逆性TSの能力が失われる――つまり『女子化』したままになる――こと、言い換えれば『人類女体化計画』の第一段階をクリアし、『中島しのぶ』の十二年におよび蓄積されたデータに基づき、計画が第二フェーズへ移行されたこと。 

  

 それに伴い、これ以上の『XXXXXX』の投与を終了し、次回の検査を以って『中島しのぶ』は最重要『被験者』から外され、通常のOTMS扱いになることが決まったこと。 

  

 ただし『中島しのぶ』は近い将来、時期は特定できないが、『女子化』の確率はほぼ100パーセントと予見されたこと……。 

  

  

 全てを聞いたわたしは……しばらく茫然としていた……。 

  

「な、中島さん、大丈夫か?」 

「え、ええ……多少は覚悟していましたけど……やっぱり教授から直接お話を伺うと……ショックですね……」 

  

「すまん……黙ってて……」 

  

「いえ、それが教授のお仕事ですから……でもTS学園が製薬会社の子会社で人類女体化計画だなんて……まるでSF、アニメかラノベですね……あはは……ゼ○レかゲ○ナの様だ……近い将来って、やっぱり夢に出てきた残回数の一年くらいなんでしょうかねぇ……」 

  

「……それは私からは何とも言えないし、はっきりとはわからない……。ただ女子化固定は、ほぼ100パーセントだとしか言えない……」 

  

「……そうですよね……もうしばらくは男でいたい……です……」 

  

  

「……また話、聞くから何かあったらいつでもラボに来て」 

  

「はい……」 

  

  

 生体検査室を後にしてから店には戻らず帰宅した……。 

  

 わたしって……何者……? 

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