ネイルサロンTSの日常(再編集版)
中島しのぶ
第1話 プロローグ
*** プロローグ ***
TS市のとあるネイルサロン。
店長、店舗バックヤードの店長用PCで売上レポートをにらみつつ「今月の売上ノルマがあと少しで達成できるんだけどな……」大きくため息をつく。
「あ、それなら店長をご贔屓にしてるあの社長を呼べばいいじゃないですか? あの方なら、いっちばぁ〜ん高いデザインでハンドもフットも両方オーダー入れてくれますよ、きっと」と、チーフ。
「ん〜、そうだね。前回施術から……そろそろ三週間だから、連絡してみるか」
該当者を検索してカルテを表示し、電話をかける。
「あ、もしもし? 社長? ご無沙汰してます。ネイル、その後いかかですか? 少し早いですけど春の新作も出てきましたのでいかがかな〜と思いまして……」
『あら、店長さん? お久しぶり。そうね、春の新作……まだ少し肌寒いけど、いいわね〜 明日午前中なら時間あるけど、席は空いてる? あ、フット席も空いてるの? じゃ、フットもお願いしちゃおうかしら』
「はい、十一時からでしたら、ハンドもフットも連続でご用意できますよ!」
『じゃ、明日十一時に席空けておいてね〜 新作で高いの、楽しみにしてるわよ』
「はい、喜んで。お待ちしております!」
「おーい、チーフ! 明日の十一時にハンドとフット両方、それも一番高いのオーダーしてくれたぞ〜!」
「店長、やりましたね! 明日は頑張らなくっちゃですね!」
「おーい、あんまり気合い入れないでくれよなー」
「だって、店長って……ねぇ」
「……」
*** 翌日十時 ***
「店長、あと一時間でご指名頂いたお客様のご来店ですよ〜 早く用意してください!」
「う〜ん、わかってるけど、今日はどの服に……」
「なに言ってるんですか~ 店長ってば、歳の割に可愛い服似合うじゃないですか! おめかししなくっちゃですね! うふふ、どんな服がいいかな〜 わたしがいつものように選んであげますね〜❤︎」
「お〜い……」
「えー、だってわたしのおかげですよ〜予約取れたのは! だからわたしがコーデしますってば!」
「う〜そうだな……」
ジェルネイルを取り出す――よし、やるか……まずは一番塗りやすい左親指から今日は春の新作の薄いピンクのミラーネイルを塗っていく。
一本めから身体に変化が起こり始める――激痛、めまい……。うっ、骨盤が開く……股間も……痛っ……がまんがまん……。
順に人差し指から小指までネイルを塗っていく……むぁっ、む、胸も痛い……。
店長は女子化体質、OTMS(OccasionallyTransformedMultipleStudents)つまりTS娘。そしてジェルネイルを爪に塗る事が女子化のトリガーだ。
「お……い、チーフ……右手塗ってくれ……」息も絶え絶え、ゲル状の樹脂を硬化させるためLEDライトに左手を入れながら、店舗で施術しているチーフを呼ぶ。
「はーい、店長。今いきまーす。ぴーちゃん、ちょっと代わってね」
「ではお客様、オフ(ネイルを落とす事)は私が担当しますね〜」
「店長おまたせしました〜 あ〜ら、もう可愛くなっちゃって❤︎ 今日のコーデは……ん〜定番の紺ブレに絶対領域にしますね!」
「ふぇぇ〜 いくら見た目がJKっぽくてもそれは……マンネリじゃ……」
「え〜だって店長JKっぽいの好きじゃん」
「そ、それはそうだけど……」
「いいからいいから……そうだ、今日はちょっと高めのポニテにしましょうね❤︎」
こうして完全無欠のポニテ絶対領域になった店長は、お客様を無事迎える準備が整った。
*** お客様ご来店 ***
カランカラン♪ ドアベルの音がする。
「あ、カネコ様いらっしゃいませ〜」
「あ〜ら店長、今日はJKなのね❤︎ かわぃぃわねぇ〜」
「は、はい。チーフにむりやり……」
「何言ってんの、あなたがJK好きなの、わたし知ってんだから」
「うっ……」ぐうの音も出ん。
「今日は新作のハンドとフット、店長がやってくれるんでしょ?」
「もちろんですよ〜 ほらハンドのサンプルはわたしのを見てくださいね、綺麗でしょ?」
「ちょっと若すぎない? ま、たまにはいいかしらね」
「そうですよ〜 社長、お綺麗だしお若いんですから〜」
「お上手ね~ じゃ、同じのお願いしようかしら……」
こうして今月ノルマ達成も見えてきた。
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