第43話 旅立ち
王と交流した後、ミナトは与えられた離れへと戻る。
部屋がいくつもあり、タロも過ごせる広い部屋もある立派な離れだ。
聖女一行も、そこに滞在している。
「ミナト、タロ様、おかえりなさい」
「ただいま! アニエス、今日は早いね!」「わふわふ!」
ミナトは幼児で、タロは犬なので、事後処理をしなくていいので暇だった。
だが、アニエスは大人なので、色々やることがあって忙しかった。
神殿騎士の幹部であるヘクトルや、神殿長も忙しい。
サーニャは神殿長の護衛やら調査に駆り出されて忙しい。
ジルべルトとマルセルは、他のもとの比べれば暇だったが、それでも、結構忙しかった。
「ひとまず、大まかにですが、無事後始末が終わりました」
「おお~」「わふわふ~」
「ミナトとタロ様は心配なされなくても大丈夫ですが……聞きたいですか?」
「ん、教えて。サラキア様も知っておいた方がいい気がするし」
ミナトが見たり聞いたもの以外、サラキアが知れることは限られるのだ。
「わかりました。まず――」
アニエスは語る。
ドミニクと呪神教団の幹部信徒は、全員捕らえられ、すでに処刑は執行されたという。
平信徒は全員を捕まえることはできなかった。
だが捕られられたものは、鉱山送りになったという。
「奇跡的に、今回の騒動による死者はゼロです。けが人は治療済みで、後遺症も特にありません」
「本当によかったね!」「わふわふ!」
街に平和が戻り、王宮の防備も従前以上のものになった。
「民のみんなは?」
「王宮を中心とした騒動だったので、影響は軽微です」
瘴気による精神支配は、かけらを取り憑かせた支配より弱いのだ。
それに、瘴気を吸い込んで、すぐにミナトが助けたので、影響はほぼなかった。
ただ、王宮から神殿に騎士たちが大挙して押し寄せたりしたことには民も気づいている。
だから聖女が大活躍して解決したという噂を流したのだという。
「僕とタロが目立たせないために、ありがと」「わふわふ」
「いえいえ! おかげで寄付金が増えましたから!」
そういって、聖女は笑う。
「王都はもう大丈夫そうだね!」「わふぅ!」
「ミナトとタロ様は、やはり旅を続けられるのですか?」
「うん! 世界中の困っている聖獣とか精霊助けないとだし」
「わふわふ!」
「それで、えっと」
「ええ、わかっていますよ。事件のせいで少し遅れ気味ですが、今情報を集めています」
「ありがと!」「わふ~」
王宮と神殿が、協力して精霊や聖獣の情報を集めてくれているのだ。
近いうちに、ミナトとタロは王都を出立することになるだろう。
「……あ、そうだ! 神像を作ろう!」
「わふ!」
「ね、いい考えでしょ! お守りになるからねぇ」
「わふわふ!」
その日から、ミナトとタロは一生懸命、神像を作った。
ミナトの神像作りの腕前はどんどん上達している。
もう、サラキア像を見ればサラキアが美少女だと分かるぐらいになった。
「タロもうまくなったねぇ」
「わふわふ!」
タロは嬉しそうに尻尾を振った。
タロの作る至高神像には、首の部分ができていた。
さらに三日後、隣の国に暴れている聖獣がいるという情報が入って来た。
「暴れている……きっと、何か事情があるんだね」
「……わふ」
「もう少し時間をかければ、もっと詳しい情報を手に入れて見せますが……」
アニエスが心配そうに言うが、
「大丈夫、ありがと! 急いだほうがいいし!」「わふわふ!」
そして、ミナトは早速次の日、出発することになった。
出発することを決めたミナトとタロはまずピッピとフルフルのもとへと向かう。
「ピッピ! フルフル! 王様とピッピのお父さんもそろってるね!」
「ぴ~?」「ぴぎ?」「あ、ついに発たれるのですね」「ぴぃ~」
精霊聖獣の情報を神殿と一緒に集めていた王はミナトが何を言いに来たのか理解したようだ。
「うん。早速だけど、明日王都を出発することにしたんだ」「わふ~」
「ぴ~?」「ぴぎっ」
「うん、急だけど、困ってる聖獣がいるっぽいからね! 詳しいことはわからないけど」
「ぴ~~」「ぴぎ~~」
「え? 一緒に来てくれるの? 大丈夫?」「わふ?」
ピッピは父と、フルフルは王と仲良く暮らした方がいいとミナトは思っていたのだ。
「ぴぃ~」
ピッピの父は回復したから大丈夫だと言って、ミナトとタロに頭を下げる。
「ぴぴい。ぴいぴいぴぴい」
ピッピの父は静かに語る。
幼いピッピは、使徒とともに旅をして成長するべきなのだ。
もし、ご迷惑でなければ、連れて行ってほしい。
そういうと、ピッピの父は改めて頭を下げた。
「ピッピは本当にそれでいいの?」
「ぴ!」
ピッピは力強く返事をした。
「じゃあ、よろしくね」「わふ」
ミナトとピッピ親子が話している間、王とフルフルも話していた。
「フルフル、本当に行ってしまうのか?」
「ぴぎ~~」
「なんといっているのかわからぬが……さみしくなる」
「ぴぎぴぎ」
王はぎゅっとフルフルを抱きしめる。
「ぴぃ~~ぎぃ~」
フルフルが鳴くと、
「ぴぎ?」と鳴きながら、小さなスライムが一匹やってくる。
「あ、スライム十二号! フルフルが呼んだの?」
それは聖獣スライムの一匹だ。
「ぴぎぴぎ~」
「えっと、フルフルがいうには、リッキーのお世話をするために一匹強いのを呼んだんだって」
「フルフル……私のためにそこまで……」
「ぴぎ~~」
ミナトがフルフルの言葉を伝えると、王は目に涙を浮かべた。
「ぴい~?」
「あ、そうだね、ピッピのお父さんとも契約しよっか。名前何がいい?」
「ぴぴぃ~」
「番号型と、そうじゃないやつがあるけど」
「ぴぃ~」
「ピッピに似た感じがいいの? むむう。じゃあ、パッパで」
ピッピの父だからパッパ。
ミナトにはネーミングセンスがなかった。
「ぴ~~」
だが、パッパは大喜びで、ミナトと契約を済ませたのだった。
その日の夜は、王と神殿長、そして聖女一行とミナトたちは一緒にご飯を食べることになった。
「ミナト! ついに完成したの!」
「いいものができたと自負しておりますが……お口に合えばいいのですが」
サーニャがニコニコと、神殿長が少し不安げに、食卓に持ってきたのは、
「あ、パンだ!」「わふわふ!」
「そう、中には小豆を甘く煮て作ったあんが入っております」
「おおお!」「わわふうふふ!」
それは、この世界に誕生したばかりのあんパンだった。
「た、たべていい?」「わわふ?」
「もちろんです!」
ミナトとタロは異世界あんパンにかぶりつく。
「もぐもぐもぐ……」「わむわむわふ……」
「どうでしょう?」
「おいしい!」「わふぅ!」
「おお!」
神殿長はほっとした様子で、やっと笑顔になった。
「本当においしい! うわぁ、おいしい」「わふわふ!」
ミナトとタロは語彙力がないので、おいしいとしか表現する能力がなかった。
だが、柔らかいパンは柔らかくて、バターの香りがしてほのかに甘い。
餡は粒がしっかりしていて、それでいて柔らかく、甘さ自体は少し控えめだ。
パンの甘さと餡の甘さは、調和がとれており、最高のあんパンに仕上がっていた。
「あ、こっちはこしあんだ!」「わふっわふ!」
こしあんパンも、粒あんパンに負けないおいしさだ。
餡はしっとりしていながら、ずっしりしていて、上品な甘さで、いくつでも食べられそうだ。
「ミナト様がおっしゃっていた、ホイップクリームをいれたものも用意しておりますぞ」
「おお!」「わわふ!」
ジルベルトたちもクリームあんパンを食べる。
「うまいな」
「でしょ!」「わふ!」
ミナトとタロは、なぜかどや顔で胸を張った。
「こちらは、あんにバターを乗せて包んでおります」
「おおお!」「わわわふ!」
ミナトとタロは大喜びでたくさんあんパンを食べた。
異世界あんパンは本当においしくて、ミナトとタロは幸せな気持ちになったのだった。
次の日の早朝。日が昇る直前。
ミナトとタロ、ピッピとフルフルは、王宮を出発することになった。
大きいタロがあまり目立つので、民がまだ起きていない時間に出立することになったのだ。
「じゃあ、行ってまいります」
ついていくのが当然といった様子で、アニエスたち聖女一行が旅装をして準備している。
「ミナトとタロ様を頼みましたよ」
神殿長はしっかりとアニエスたちに言い含める。
王宮に滞在している間に、神殿長も、ミナトのことを呼び捨てするようになった。
そうするよう何度もミナトがお願いしたからである。
王はタロに抱き着き、それからミナトを抱きしめた。
「ミナト様。タロ様。我が国は御恩を永遠に忘れませぬ。我が国にできることがあれば、いつでもなんでもおっしゃってください。全力で協力するとお約束します」
王は小声で、ミナトとタロにそう言った。
「ありがとう」「わわふ」
「これは私とミナトとの約束ではなく、ファラルド王国とサラキア様、至高神様との約束です」
そう王は真剣な表情で言った。
「ミナト、タロ様。お土産です、旅の途中でお食べください」
神殿長が用意してくれたのは、大量のあんパンとクリームパンだった。
それぞれ五十個ずつある。
「ありがとー、すごくうれしい」「わふ~」
ミナトはその菓子パンを全て、神器サラキアの鞄に詰め込んだ。
これで、あんパンとクリームパンが腐ることはない。
いつでもふわふわのあんパンやクリームパンを、食べることができるのだ。
「あの、ミナト、タロ様。このパンを売りに出してもいいでしょうか?」
「もちろん! 広まった方が、僕もたくさん食べられるからうれしいし」「わふ」
「ありがとうございます。なるべくはやく各地の神殿で買えるようにしますね」
ミナトと神殿長が、菓子パンについて話し合っている間、
「ぴい~」「ぴ~~」
ピッピとパッパは別れを惜しんでいた。
パッパは「しっかりお仕えするのだぞ」といいながら、くちばしで羽繕いする。
「ぴぃぴ~」
ピッピは「体に気を付けてね」と言っていた。
そして、王とスライム十二号はフルフルを別れを惜しむ。
「ちゃんと王都に戻ってくるのだぞ」「ぴぎ~~」
十二号は「王都はまかせて! 使徒様をよろしくね」と言っている。
「ぴぃぎぃ~」
フルフルは「任せて!」と力強く言った後、ミナトのところにやって来た。
「ぴいぎ」
「ん、いいよ。通訳してほしいんだね」
「ぴぃぎ~~ぴぎぃ」
「リッキー。お腹出して寝たらダメだよ」
ミナトが通訳すると、王はぎゅっとフルフルを抱きしめる。
「うん……これからはフルフルがおなかを温めてくれないものな」
「落ちてるものを食べたらだめだよ」
「そんなことしないよ。それは、五歳の時に一度だけだよ」
「ちゃんと寝ないとだめだよ。好き嫌いしないでちゃんと食べてね」
フルフルは四十歳を超えた王に、五歳児に対するようなことを言う。
王が五歳の時。死にかけていたフルフルに幼い王はご飯を分けて助けたのだ。
だが、それから一週間、五歳の王が下水道で生き延びられたのはフルフルが面倒を見たからだ。
王が死なないよう、お腹を温め、変なものを食べないよう、食料を探し水を浄化したのだ。
フルフルの中で王はまだ面倒を見ないと死んでしまう子供のままだった。
フルフルも頭では王はもう大人で、拾い食いとかしないことぐらいわかっている。
だが、親にとっていつまでも子供が子供であるように、フルフルにとって王はまだ幼児だった。
「フルフル。もう私には大きな子供だっているのだよ。そんな心配してくれなくても」
「ぴぎ~」
「だが、ありがとう」
王はフルフルを抱きしめて、声をあげて泣いた。
別れを済ませ、ミナトたちは王宮を出る。
王都から出る直前、振り替えると王宮の壁の上に王と神殿長パッパとスライム十二号がいた。
ミナトは王たちに向かって手を振って、王都から外に出る。
ミナトとフルフルはタロの背中に乗り、聖女たちは馬に乗り、ピッピは上空を飛んでいる。
幼竜はミナトの服の中で眠ったままだ。
「次に行く隣の国ってどんなところ?」
「そうですね。寒い国です」
アニエスが笑顔で言う。
「寒いの? 夏なのに?」
「ええ、ここより北にあるのに加えて、標高が高いんです」
「へー楽しみだね」「わふ~」
そのとき、ミナトの服の中で、幼竜が少し動いた。そんな気がした。
―――――――
1巻がついに本日12月15日に発売となりました。
カバーイラストや特集ページのリンクを近況ノートに掲載したので、ぜひご覧ください。
https://kakuyomu.jp/users/ezogingitune/news/16817330668117663431
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