第212話 パワフル&エレガント
「棚倉くん、あれちょっとデカすぎへんか?」
ユニコーンダンガムとにらみ合い、なかなか次の一歩が踏み出せずにいる初代ダンガムのコクピットで両津がうめいた。彼が見つめる後部カメラの映像には、立ち上がった大型観光バスの姿があった。いや、バスではない。サイズ的にはほぼ同じだが、それは観光用の大型ロボットだ。
「デカブツが一台増えたじゃない!」
無線から奈々の愚痴が聞こえる。
「確かにデカイですわ。あの身長なら、私たちのロボットの二台分以上ありますわね」
「ヤバいですぅ」
奈央と愛理のため息が無線からこぼれた。
今目の前にいるUCダンガムですら、身長約18メートルもあるというのに、あいつはそれに輪をかけた大きさだ。おそらく20メートルを有に超えているだろう。
正雄も、正面ディスプレイにワイプ状に表示されている後部の映像に目を走らせる。
「ありゃあ月野ロボットの大型観光ロボ『パレガRU1BSDY-FNEDAC』だな」
さすがロボットマニアの正雄である。後部カメラに写っている巨大な姿をいちべつしただけで、その型番まで言えてしまった。
パレガは大型観光ロボだ。車で言うところの大型観光バスにあたり、その腹部に60人用の座席を装備している。トイレと洗面所も完備しており、東京大阪間の長距離運行にも対応している。その名は、パワフル&エレガントの略称だ。ちなみに定価は5000万円を超えている。
その巨体が今、駐車場に停車中の自家用ロボットを蹴散らしながら、どんどん両津たちの所へ近づきつつあった。
「あんなもんに背後から攻められたら、どうにもならんで!」
両津の言うとおりだ。初代とニュー火星大王の二台体制でも、UC一台に翻弄されている。この状態で後ろから攻撃を受けるなんて、まさに地獄である。
「あのぉ」
索敵シートに心音と一緒に座っている大和が、小さく手を上げた。
「館山くん、どうしたんや?」
「あれ、観光ロボってことは、腹部から胸部にかけてほとんど窓ガラスでしょ?」
「そうだな。観光用だからな」
UCの動きから油断なく目を離さないまま、正雄がうなづく。
「だとしたら、模擬弾でも効くんじゃないかと」
正雄の目が、何かを考えているように一瞬左右に動いた。
「パレガの窓は強化ガラスで……それでボディの強度を上げているはずだ」
「なるほど!それを全部カチ割ったら動きが鈍くなるかもしれへん!」
「いいアイデアだ」
だが、パレガを射撃すると言うことは、その瞬間UCに背中を向けることになる。そんなチャンスをあいつが逃すはずは無いだろう。危険である。
「ニュー火星大王さんもいるんだし、きっと大丈夫だよ〜」
ひかりの、とんでもなくのんきな声が響いた。
「棚倉くん」
今度は心音の声だ。彼女は相変わらず大和の上に座っている。
「野沢くん?」
「ライフルって、後ろ向きに撃てないの?」
「後ろ向き?」
「だって人間じゃないんだし、前にしか撃てないってこと、ないんじゃないの? 索敵は私と大和だし、照準はオワコンがやってるんだから」
「オワコンちゃうわ!」
なるほど、それも道理である。人間の戦い方に縛られる必要は無いのかもしれない。しかも相手は軍用ではなく、観光用ロボットだ。装甲がほどこされているはずもない。
そんな会話を繰り広げている間も、パレガはもうあと数メートルのところまで近づいていた。その様子を楽しんでいるのか、UCはピクリとも動かない。
「おい、ユニコーン!」
正雄の声が、初代の外部スピーカーから外に向かって響いた。
そしてライフルの構えを解き、右手でグリップを握ったままそれを肩に担いだ。銃口は後ろ向きだ。
『おや、降参ですか? わたくしのUCとあれと、二台の巨大ロボットが相手では、あなた方は分が悪いですからね』
「そう思うか?」
次の瞬間、正雄はニヤリと笑い、ライフルのトリガーを思い切り引き絞った。
ズガガガガ!
初代はUCとにらみ合ったまま、背後で接近中のパレガに銃弾をあびせたのだ。
じっくりと狙っていた両津の照準は正確だ。
粉々に砕け散る強化ガラス。シャーシの歪む音が聞こえる。
模擬弾の連射は下から上へと蛇のように這い登り、運転席の直前で止まった。だが、おそらくコクピット周りの操作系も破壊されたに違いない。パレガはプシューっと排気音を立てると、微動だにしなくなった。
「さぁ、これで俺たちの勝負を邪魔するやつはいなくなったぜベイビー!」
『身の程を知りなさい!』
それまでのクールさはどこへ行ったのか、UCのパイロットは大きく叫ぶと初代ダンガムに飛びかかった。
初代は、肩にかついでいたライフルを構え直してUCに向ける。
「あかん棚倉くん!もう弾切れや!」
「なに?!」
だがUCの腕は、初代に届くことはなかった。
掴みかかろうとしたUCの右腕めがけて、何かが投てきされたのである。
ガキーン!
UCはそれを何かで跳ね返す。
その右手には、いつのまにかロボット用の短剣が握られていた。
逆手である。
「やっぱり忍者やん!」
両津は思わずそう叫んでいた。
UCめがけて投てきされたそれは、はじかれてくるくると回り、初代の後ろあたりの地面に突き刺さる。
『邪魔が入ったようですね』
UCが視線を向けた先に、三台のロボットが立っていた。
「お姉ちゃん!」
奈々が思わずそう叫ぶ。
機動隊のロボット部隊・トクボの機動ロボット「キドロ」だ。
トクボ部はここへの接近中に電波を検索、奈々たちがロボット標準無線のチャンネル22を使って会話していることを探り当てていた。
「奈々!あなたどうしていつもトラブルに巻き込まれているのよ?!後でちゃんと説明してもらうからね!」
「うん!」
姉に怒られそうな雰囲気なのに、奈々は少し嬉しそうな表情だ。
「奈々ちゃん、お姉ちゃんが来てくれて良かったね!」
ひかりが奈々に明るい笑顔を見せる。
「そこに刺さっているのはキドロ用の特殊警棒です!それを使って!」
「了解した!」
正雄はそう叫ぶと、特殊警棒を地面から引き抜いた。
そしてひと振り。ジャキンと伸びる二段式だ。
「奈々ちゃんのお姉ちゃん!遠野ひかりです!奈々ちゃんの親友です!」
ひかりのトボけた声が、各ロボットのコクピットに響いた。
だが、この場を支配しているのは異常な緊張感だった。
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