第202話 撃墜

「映像、来ます!」

 トクボ指揮車内に田中美紀技術主任の声が響いた。

 今回のトクボチームは、機動ロボットのキドロを搭載した巨大なトラック・キドロトランスポーターが三台と、トクボ指揮車が一台の計四台である。指揮車は大型バスほどもサイズのある特別仕様で、通常タイプと比べてより多くの弾丸やキドロ用バッテリーの搭載が可能なタイプだ。四台は今、東京ロボットショーが開催されているビッグサイトへ向けてひた走っている。

「ここは?」

「間もなくビッグサイトの入り口付近に到達します」

 白谷部長の質問にそう美紀が答えたと同時に、メインディスプレイの映像にビッグサイトが見えてきた。監視用ドローンからの映像だ。

 まだ遠目だが、その入口前に巨大な三体のロボットが立っているのが分かる。

「デカイな」

「はい。あれは今年のロボットショーの目玉で、人気アニメのロボットを再現したものです。初代とUC、そしてVダンガムの三機です。どれも身長20メートルを超えています」

 アニメのダンガムシリーズはオタクにとって基本中の基本だ。美紀にとってこの三機の基本仕様は、知っていて当然の基礎知識と言える。なぜなら、美紀はオタクなのだから。

「なんだか様子がおかしくないか?」

 白谷の疑問に、指揮車の一同がモニターに目をこらす。

 ドローンが近づくにつれ、現場の様子がよく見えるようになってきた。

 三機のうち真ん中のロボットが、ライフルのようなものを構えている。

 その腕が真っ直ぐ水平に伸ばされて……突然映像がホワイトノイズに変わり、ザザッと雑音を上げて途切れてしまった。

「あの……撃墜されたようです」

 美紀が困惑したように言う。

「ロボットショーの展示ロボが、どうしてライフルを持っているんだ?」

「たぶんデモ用で、イベントショーなどで使われるのではないかと。弾丸はおそらく模擬弾だと思われます」

「模擬弾?」

「ショーや訓練などで使われる、硬質プラスチック製の弾丸です。ですが、監視用ドローン程度なら撃ち落とせると思います」

「と言うことは……人間に向けて撃たれたらまずいな」

 ドローンのフレームやプロペラの材質は、カーボン繊維強化プラスチック(CFRP)だ。CFRPは炭素繊維とプラスチック樹脂を組み合わせた複合材料で、その特徴は軽くて非常に強い。それが一発で撃墜されたのだ。人体に命中した場合の被害は想像に難くない。

 その時、二人の後ろでコンソールに向かっていた一人の男が声を上げた。

「湾岸署から入電!デモ用のロボット一機が、黒き殉教者の一味に乗っ取られたそうです!」

「他には?」

「現在はあの一機のみのようです!」

「引き続き湾岸署と連絡を取って、その後の情報を逐一もらうようにしろ」

「了解!」

 トクボ部の四台は、首都高速台場出口に迫っていた。


「棚倉くん、これからどうする気や?」

 声をひそめて、両津が小声でささやいた。

「決まってるぜ。こいつに乗り込むのさ」

「こいつって、初代ダンガムに?!」

「当たり前だぜ、ベイビー」

 ついさっきのことだ。ビームライフルを構えていたUCダンガムが何かを見つけたのか、両津たちがいる方向とは反対にライフルを発射したのだ。

 ズゴン……と、鈍い音がして何かに命中。その小さな物体は墜落した。

 そのスキを狙い、正雄は両津を引っ張って初代ダンガムの後ろ側に身を隠したのだ。

「私たちも一緒に乗るわよ!」

 そこには心音と大和もいた。心音は気分が高揚しているのか、頬が少し赤い。大和はいつもの困り顔だ。

「いい度胸だ。みんなで乗ろうぜベイビー!」

「いやいやいや、ダンガムって一人乗りやろ? 四人も乗られへんのちゃうか?!」

 両津の疑問は当然だ。彼が知っているアニメのダンガムのコクピットは一人用である。どう考えても四人が乗るのは不可能だろう。

「やってやれないことは何も無い!」

 正雄がニヤリと笑う。キラリンと音がしたかのように、見えた歯が輝いている。

「あるって!」

 そう叫びかけた両津に、正雄がシーッとジェスチャーをする。

 確かに、今見つかってしまえば正雄の作戦はパァである。それどころか、UCにどんな目にあわされるのかを考えると空恐ろしい。

「じゃあ、アイツに見つからないように、ゆっくりと昇るぜ」

 ダンガムの搭乗ハッチは腰の上あたりだ。そこまで、脚部の後ろ側に足がかりが続いている。四人は、UCの死角に隠れながらそれを登っていった。

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