誰にも似てない

鳥尾巻

青い目の少女とわらべうた

 小さい頃、よく苛められた。家族には外国の人はいないのに、私だけ瞳の色が青かったから。村の男の子たちにからかわれて、泣きながら家に帰った。

 

 そんな時、7つ年上の兄は私を抱っこして、わらべ唄を歌って慰めてくれた。


うちのとうちゃん にんどころ

うちのかあちゃん にんどころ

うちのじいちゃん にんどころ

うちのばあちゃん にんどころ 

ほそみち たどって 

だいどう だいどう こちょこちょこちょ


 右の頬をよっつ

 左の頬をよっつ

 おでこをよっつ

 顎をよっつ

 優しく指でつついて

 鼻筋を辿って頭をなでなで

 最後はこちょこちょ


 赤ちゃんだった私によくやってたんだって。こうすれば泣いていてもすぐ泣き止んだから。

「にんどころ」っていうのは「似てる所」って事。「だいどう」は「かわいい」って意味。

「うちにはお祖母ちゃんいないよ」って言ったら、兄は「じゃあ、そこはご先祖さまにしようか」って笑ってた。

 兄はモノシリだ。私以外は青くないけど、うちの家族はみんな目の色が薄い。そういうご先祖さまがいたんだよって教えてくれた。


「私に似てるご先祖さまって目が青いの?」

 

「多分ね。奈々は目の色以外は家族に似てるよ」


「うふふ、良かった」


 安心した私がそう言ったら、兄は一瞬だけ悲しそうな顔をした。すぐに笑って頭を撫でてくれたけど、その時の私は子供すぎて、その表情の意味までは考えなかった。



 あれから12年。18歳の今日、私はお嫁さんになる。

 私たちは、水神さまに愛された贄の一族。村で災厄が起きた時、神さまに差し出される為の。

 大昔、干魃かんばつが起きて、青い目の娘が水神さまに雨をお願いする代わりに、お嫁さんになったのが始まりなんだって。

 それ以来、一族の中でも瞳の色が一番青い者が、神さまのお嫁さんになるの。目さえ青ければ、男でも女でも関係ない。


 満月の夜。白い花嫁衣装を着て、湖の縁にある鳥居まで独り歩く。知らず知らずのうちに、子供の頃に聞いた歌が口から漏れる。


「うちのとうちゃん にんどころ

うちのかあちゃん にんどころ

うちのじいちゃん にんどころ

うちのばあちゃん にんどころ……」


 うちにはお祖母ちゃんがいない。神さまのお嫁さんになったと聞いた。なんてことだ。一族の秘密を聞いた時はびっくりした。神さま人妻でもいいんだ……って。


 鳥居の前に辿り着いた私は、湖の縁に立って月を眺めた。黄色の望月。鏡面のようなくらい湖には銀の月。この場所で月を見られるのはこれで最後かもしれない。

 

 さようなら、お祖父ちゃん、お父さん、お母さん、優しいお兄ちゃん……。

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