魔力測定


「おめでとうアリア。これでお前も、一人前の貴族だ」

「アリア、立派になって……」


 部屋を出たわたしをお父様が、兄が感激の表情で出迎える。


 ……娘の、妹の成長というのは、やはり嬉しいものなのか?



「後は魔力測定か。アリアにも、ポーレットのような才能があると良いのだが……」

「きっとありますって! 俺なんかよりもずっとすごいのが……」

「どうでしょう……正直普段私が接している限りでは、特段魔法が得意には見えないような……」


 そう話すお父様や兄やアンを見ながら、食事を済ませたわたしは呼吸を落ち着ける。


 ……簡易的な魔力量の確認なら、専用の宝玉があればどこでも行える。わざわざ王都の大聖堂にまで来ることはない。


 にも関わらず、成人の儀と魔力測定がセットで行われるのは、魔力の種類まで含めた厳密なチェックが、この大聖堂にあるクリスタルでしかできないから。


 兄も、この大聖堂での魔力測定で、その魔力の高さや適性が認められたのだ。


 

 ……とはいえ、別にわたしは魔力なんていらないのだけど。

 そんなのが無くても、魔法を使うのが苦手でも、貴族の娘としてやっていけないわけでは全然無いし。


「ではアリア様、こちらへ」


 わたしは専用の部屋へ案内される。


 ……その部屋は、一旦大聖堂の建物裏手から出たところにある小さな石造りの小屋の中。


「……外が騒がしいですね」

 アンの声。

 そう言われて建物の外に出ると、たしかに歓声とも、怒声ともつかない声がかすかに聞こえる。


「うむ……要塞の方か」

 小屋の向こうには、隣接する第一要塞の建物がすぐそこにある。

 お父様の言う通り、なんとなくそちらの方から大きな音がするような……?


「まあ、きっと中で罪人が暴れているとかそんなものだろう。……じゃあアリア、頑張ってくるんだぞ」

「はい、お父様」


 わたしは部屋の中へ。

 六畳間ほどの空間の中には、天井近くに鉄格子がはめられた明かり採り用の小さな窓。

 古びた木製の椅子。

 そして、鉄製の土台に置かれた、わたしの身長ほどの巨大なクリスタル。


「では、椅子に座って魔力を集中させてください。足から床を通り、クリスタルが魔力を感知して反応します」


 そう言って、係の人が扉を閉めると、部屋の中は暗くなる。

 窓から差し込むわずかな光に照らされた椅子にわたしは座る。


 姿勢を正し、目をつむる。



 ……ここで何もやらなければ、魔力なしとでも判定されるのだろうか。

 なら、その方がいいな。


 お父様やアンは残念がるだろうが、こればかりは仕方ない。

 跡継ぎは兄がいる。

 わたしに貴族の娘としての利用価値があるかと言われると、そんな気もしない。

 別に転生前の知識で目立つ気もない。


 貴族の恩恵にそれなりに預かることさえできれば、わたしは一向にかまわないのだ。


 ……そう考えると、急に体から力が抜けて、眠くなってきた。


 

 ――昨夜会った、あの男の顔が頭の中に浮かぶ。

 

 あそこまでじゃなくても、悪くはない顔のどこかの貴族の次男三男あたりに嫁いで、王国内のどこかの領地の屋敷で、慎ましく暮らす。


 子どもは……でも産んだほうが良いよね。出産ってすごく痛いらしいのだけど、大丈夫かしら。


 政治的な話は兄とかに任せて、最低限の儀式だけ済ませて、後はモブの気分で生きていく。


 うん、悪くない転生ストーリーだ……


 



 ドーン!!!







 ……轟音が、すべての妄想と眠気を吹っ飛ばし、わたしを目覚めさせた。


 比喩じゃなく、本当に空気が震えている。


「……え?」


 いつの間にかぐっすり眠っていたようで時間感覚が無いが、さすがにこれは、何かが起きている……のよね?



「なんだ?」

「どうした!」

「第一要塞の方だ!」


 明かり取りの窓の方から、騒がしい声がしてくる。


 魔力測定なんてしてる場合ではないんじゃないか?

 

 ……わたしはさっきまで座っていた椅子を窓の下に運ぶ。

 その上に立つと、思った通りちょうど窓のところに目線が来た。


 方向的に、この先は第一要塞のはず……



「えっ……!?」


 この世界に転生して半年、間違いなく一番大きな声が出た。









 ――第一要塞が、燃えていた。

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