創作苦労話:敬語の使えない主人公

『ミストリアンクエスト』を投稿する以前――。

YouTubeなどで「なろう系辛口批評動画」を多く拝見しておりまして。


その時に、とても多く目にした批判ポイントが――


「主人公がタメ口で話す」

「主人公が敬語を使えない」


――と、いったものだったんですよね。



そうした動画のコメント欄にも――


「主人公がタメ口だと読む気が失せる」

「主人公が敬語を使えるだけで好感が持てる」


――と、いった意見が大量にあふれており。


これはまずいな、と。



何せ、『ミストリアンクエスト』の主人公・エルスは敬語が使えない主人公なのですよね。実際には敬語を使いたくても過去のトラウマのせいで使えないのですが、読み手にとってはそんなことはどうでもいいことです。


正直、主人公の口調はキャラづけの一つ程度にしか考えておりませんでした。

このまま投稿したとしても、まるで相手にされなくなってしまう。


そもそも、この作品の初期の段階では「傍若無人な主人公がトラブルを起こしまくり、結果的に様々な問題が解決する」といった感じの構成でした。


これでは、最初から相手にされないのではないか――

そう思い、投稿の前に全面的にストーリーを見直しました。



まず、プロローグの段階でヒロインに「主人公は礼儀知らずの馬鹿野郎だ」と言及させました。実際にはヒロインは、そんな酷い言葉は言いませんけどね。


次に、ぎりぎりストーリーには影響しない程度のフランクな敬語を使わせました。

「よろしくお願いしまーッス!」と、いった感じですね。

また、これが「彼なりの精一杯の礼儀正しさだ」と説明を加えました。


そして、過去には礼儀正しい少年だったが、その時の事件の影響で性格を改変した――と、いった場面を回想をさせました。



主人公は元々礼儀正しく、大人しい少年だったのですが――

幼い頃、魔王による襲撃の際に足が震えて身動きができず、目の前で父親を見殺しにしてしまった過去があります。

そして結果的に、ヒロインの両親までも命を落とす惨事を招いてしまいました。


そして、そんな彼を救ったのが、「ゴロツキ」扱いをされて疎まれていた、粗暴な冒険者でした。

主人公は冒険者に憧れ、後に「勇者」の称号を得た彼のような口調を真似し、弱々しかった自分の性格を上書きしました。


元々、魔法の才能に恵まれていた主人公でしたが、それ以降は剣の修行に励み――結果的に、剣術は平均的、魔法は才能こそあるが制御が出来ておらず中途半端というポンコツ具合に育ちました。


もしも、あの時、足が震えず――父親の指示通りに救援を呼びに行っていれば――もしくは、彼だけでも自力で逃げることができていれば――父親もヒロインの両親も助かっていたでしょう。

主人公も魔法で無双しまくる、無双系の主人公になっていたかもしれません――。



そういった過去が後に語られる場面があるのですが、プロローグでこれを説明するには重過ぎる上に、序盤でこれをやると完全に物語の進行が止まってしまいます。

そこでなんとか、「敬語」の部分だけを先に持ってくることに致しました。


結果的に、「粗暴ではあるが実直で気持ちのいい主人公」という評価を頂戴することができましたので、この修正はやっておいて良かったと心の底から思っております。


正直、この評価が一番嬉しいんですよね。もちろん、どんなコメントも嬉しいのですが、努力が報われただけに喜びもひとしおです。



最も簡単な解決方法は、単純に「主人公に敬語を使わせる」だけで良かったのですが、それをしてしまうと彼のアイデンティティを崩壊させることになってしまいますからね。

彼らの冒険の綴り手として、現在の主人公が形成された過去を否定することは出来ませんでした。


たかが「敬語」ひとつですが、とても苦労した部分でした。


そんなお話でございました。

最後までお読み頂き、ありがとうございます。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る