漫才?
王立ユグドラ魔術学園は成績順にS、A、B、Cのクラスがある。年に何回かクラスの入替えテストがあり、クラス落ちする場合もあるので、みんな必死に頑張るんだ。
ザワッと『俺達』が歩いて行くと、周囲がざわめいた。
はぁ~だからこの『二人』と歩くのは嫌なんだよ。
軽くため息を付きながらチラッと横を見た。
右側には、俺の『婚約者』である美しい女の子がいた。
まだ12歳という幼さが残るとはいえ、腰まで伸ばした美しい【赤髪】を靡かせて、出ている所は12歳とは思えないほど出ているせいで、そのアンバランス差が周囲の男達の視線を釘付けにしていた。
「あら、シオン?何かしら?貴方も私(わたくし)に見惚れていたのかしら?」
フフンッと口元を釣り上げて微笑む俺の婚約者【ルビー・ローズ】公爵令嬢が意地悪そうに言った。
こいつは口は悪いが、実家が公爵家で礼儀作法や魔法の腕は一級品だ。この歳で『二つ名』持ちであり【紅蓮蝶の魔女】と言われている。
そして機嫌を損ねると黒焦げにされるので、俺は適当に機嫌を取る癖が付いていた。
「ああ、そうだよ。美しい婚約者を見ていたんだ」
不貞腐れたように言う俺はルビーをチラッと見ると───
ルビーは、あわあわっ、しながら動揺していた。
「な、ななな、なにを言っていますの!?」
ルビーはテレ隠しの為に、シオンに強烈なボディーブローを喰らわせた。
「ゴフッ!!!?」
その場で膝を着く俺に笑い声が聞こえてきた。
「くっ、あははは!いつもの夫婦漫才は最高だね♪あははははっ!」
腹を抱えて笑うイケメンは、幼馴染みの【アッシュ・グレー】と言う。こいつは国内外でも有名で、『全属性の魔法』が使える【勇者候補】の筆頭である。肩まである金髪の髪に、女子受けする甘いマスクで、老若男女ともに人気がある。
( ´Д`)=3はぁ~
だからこいつ等と一緒に居たくないんだよ。
俺の容姿は平凡だ。父親譲りの真っ黒い髪に、何処にでもいる様な顔。そして女子と同じぐらいの低い身長が、この二人に挟まれて歩くと、その平凡差が際立つんだよな。ルビーも長身長で俺より身長高いしなっ!
(コンプレックス)
「笑い過ぎだ。馬鹿アッシュ!」
痛みに耐えながら文句を言うとアッシュは両手で俺の顔を優しく掴むと自分の顔を近付けて言った。
「大丈夫だよ。ルビー嬢に振られたら僕が貰ってあげるから」
は~な~せ~~~
ジタバタ暴れる俺にアッシュは飛んできた火球を避けるために後ろへ飛んだ。
「離れなさい!変態め!!!」
「危ないじゃないかルビー嬢。それに僕は変態じゃないよ?ただシオンを好きなだけだよ」
おわかりだろうか?
アッシュはとても変わった感性の持ち主である事を。天才と馬鹿は紙一重なのだ。
(なんか違う)
「シオンは私の婚約者よ!手を出したら消し炭にして、畑の肥やしにしてあげますわ!」
アッシュは両手を広げて、やれやれといった仕草で言った。
「だって仕方がないじゃないか?それだけシオンがステキなんだから。ルビー嬢はそうではないのかな?」
「え゛っ!?そ、それはシオンはステキですけれど……………ゴニョゴニョ」
チョロッ!?
ルビー!チョロイよっ!?
いつもアッシュに言いくるめられるんだよなぁ~
「アッシュ、いい加減に女の子にも目を向けたらどうだ?お前なら選び放題だろうに…………」
「えっ?僕は女の子【も】好きだよ?」
シオンとルビーは、えっ、そうなの!?みたいな顔でアッシュを見た。アッシュも失礼な!みたいな顔をした。
「どんなタイプが好きなんだ?」
「う~ん?そうだね。ルビーの様に無駄な脂肪が付いていなくて、ルビーみたいに乱暴じゃなくて、ルビーみたいに童顔じゃない、スレンダーな女の子かな?あっ、シオンの妹ちゃんが理想だね!」
あぁー、こいつはダメだぁ~~~
俺の妹を狙っている以前にルビーに殺されるな。
後ろを見るとゴゴゴゴッ……………と、全身を怒りで燃やしているルビーが見えた。
「…………コイツテキ、コロシテイイ!」
「いやいや!落ち着け!ほ、ほらっ、クラス表を見に行こうぜ!」
流石に殺人はヤバイと思い、シオンはルビーを羽交い締めにして、引きずるように連れて行くのだった。
「あはははっ、ちょっと悪ノリし過ぎたかな?」
笑顔でそう言うと、アッシュは目を前髪で隠すとサッと、周囲を見渡した。
『これで、僕とルビーがシオンと仲が良いと周囲は思ったはずだ。余計な奴らが邪魔してこないようにしないとな』
アッシュはすぐに服装を正した。
『でも、自己評価が低いのがシオンの玉にキズだよ。あの童顔で、【美少女】にしか見えない容姿!低身長で、もし短パンを穿いて僕って言ったら、僕っ娘属性の美少女……………ハァハァ♪萌える!』
アッシュは脳内で妄想しながら、ニコニコと後を追った。アッシュは目に見えない悪意からシオンを守ろうと決めていた。
すでに学園での派閥争いは始まっているのだ。油断すればすぐに蹴落とされるのだから。
ここはそういう学園なのだ。
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