4-4:ポ〇モン感覚で増えていく仲間

「・・・シュコォーー・・・」

 恵美須屋に帰ってきた俺と旭、そして見知らぬ男の人と見知らぬ女の子を見た恵美須さんの”シュコー”は、いつもよりも長く、なにかしらの含みがある様な”シュコー”だった。ため息交じりなんだろうな。まぁそりゃそうか。男の人は集団との戦闘で血が付いてる(尤も、相手のヤツなんだが)し、俺が担いだままの女の子は何を言うでもなくよだれを垂らしている。これを目の前にして、逆になんと言えばいいのか。俺が恵美須さんだったらとりあえずその場から去ろうとするね。

「戻りました。」

「いや”戻りました”やないねん。・・・色々説明せぇや、東・・・」

「いやぁ、それがね、かくかくしかじかでして・・・」

 経緯を説明すると、恵美須さんはまた「シュコォー・・・」と深いため息をついた。

「あんなぁ東・・・お前、わしの話聴いてた?」

「えーっと、大体は。」

「ほななんで苦力に手ェ出したんや。」

「それはまぁ、その・・・ただこの子が不憫で、見るに堪えなかったからです。」

 と、俺は本心を話した。実際、この子をどうにかしようと思ったキッカケは、ただそれだけだ。

「シュコォー・・・あんなぁ、東。よぉ聴け。」

「はい・・・。」

「お前、仮にソイツを助けられたとして、その後何ができんねや?」

「何って・・・保護?」

「どない保護すんねん。衣、食、住。ちゃんとしたもんが人間には必要やねんぞ?」

「それは・・・まぁ・・・」

「大体、お前の立場を考えてみい。お前は外から来たビジターで、しかもここに住まわせてもろてる身やぞ?」

 ・・・確かに。ここに住んでるが、俺の持ち家ってワケでもない。しかも恵美須さんの言う衣食住、その三つを俺は恵美須さんに世話してもらってるワケだ。保護されてる奴が誰かを保護しようだなんて、そもそもが甘い考え・・・なんだろうな。

「その上、ソイツは人間や。犬やら猫やら拾て来るんとはワケが違う。自分がどんだけアホな事したか、よぉ考えろ。」

「・・・すいません。」

「・・・せやけどまぁ・・・シュコー・・・言うててもしゃーないし、連れてきたもんもしゃーない。お前が責任もって面倒見ぃ。」

「・・・うす。」

「テキトーに返事すなや。ちゃんと”はい”ぐらい言えや、ボケ。」

「・・・はい。」

 恵美須さんの言う事は、もっともである。力のない俺が、もっと力のない何かを助けようだなんてのは、思い上がりも甚だしい。その場その場の感情、それに馬鹿みたいに突き動かされる自分が、恥ずかしくなった。


「その子の衣食住なりはお前の金から引いとくからな。・・・部屋はお前の部屋を一緒に使えや。」

「・・・一緒、すか?」

 色々と許してもらったところ申し訳ないが、少しそれには驚いた。恵美須屋にも掃除すれば空き部屋くらいあるだろうに。しかもこの子、女子だぞ?俺が手を出すとか考えないのか?

「・・・お前、まさかコイツに手ぇ出すつもりやないやろな。」

「そんな、まさか。」

「・・・・・・あくまで、お前を信じて譲歩しとるんじゃ。」

「でも、なんで一緒に?」

「それは後で説明したるわい。・・・シュコー・・・・・・で?お前はなんやねん。」

 と、恵美須さんが件の男の人を指さして言った。華麗な話題転換だなぁ。

「ん?俺?」

「せや。急に現れよって。どっから湧いて出てきたんや。」

「なんやその言い草、人の事虫みたいに言いよって。」

「わしからしたら突然湧いた虫と一緒や。」

 ひえー、男の人もちょっとイライラし始めたぞ。恵美須さんに殴りかかったりしなきゃいいけども・・・

「・・・ちッ、なにゃ、自己紹介からはいったらええんか?」

「当たり前やろ。」

「あ~、俺は”長堂ちょうどう いさみ”や。23歳、東部の方に住んどる。」

「東部か・・・シュコー・・・で?東とはどういう関係なんや。」

 そんな結婚前提のカップルに詰め寄るお父さんみたいな言い方しなくてもいいじゃないすか、恵美須さん。

「コイツとは、玉猪龍のパチンコ屋でおたんじゃ。俺が勝った分ガメられて、その犯人が逃げたんをコイツと一緒に追いかけたんや。で、その後ソイツを捕まえて、コイツの提案でここに来た、っちゅーワケや。」

 長堂烈、ねぇ。まぁ確かに、しい体つきだな。・・・自分でもしょーもない事をと思ったけども。

「・・・捕まえた?」

「あぁ、忘れったわ。ほれ。」

 今まで黙って話を聞いていた旭が、引き摺ってたらしいぐた~っとした男を放り投げた。それはもう、物として扱って無いかの様に、どさっと。


「・・・コイツ・・・・・・」

「”新兵器”の試し撃ちや。効果てきめん、言うところかな!」

 旭が”チャキッ”と音を立てて、拳二個くらいの銃・・・の様な鉄の塊を見せびらかした。

「なんだ?それ。」

「お、東も喰らうか?これ。」

「嫌だよ・・・喰らったらになるんだろ?」

「せや。もれなく。」

「保証までついてるなら尚更嫌だ。」

「ちぇっ。しょーもないなぁ。結構したんやで?コイツ。」

 旭が銃らしいそれを撫でていた。・・・というか、そもそもの話・・・

「なんなんだ?それ。」

「あぁ、言うてなかったっけ。」

 うん、言っても無かったし、そもそも言う暇すら無かったぞ。

「これな、”スタンガン”やねん。」

「・・・これが?」

 よくよく見ると、鉄の塊に見えたところはどうやら銃の銃身らしい。先の方を見ると、無理矢理開けられた様な、4つの穴があった。銃口と銃身が一体化している。これも違法製造らしさ、なんだろうか。

「・・・だが、スタンガンってーと、こう、バチバチ音を立てながら相手に押し付けるアレの方がしっくりくるんだが。」

「ちっちっち・・・」

 旭が舌打ちしながら人差し指をクイクイと動かす。こういう時の旭は決まって、俺をナメきっている。

「変に銃の事知ってる思ったら変に銃の事知らんねやなぁ、東は。」

「どういう事だ?」

「お前知らんのか、”テイザー”。」

「ていざー?」

「せや。アメリカのポリなんかにはもう正式に採用されとる”射出型スタンガン”や。これの引き金を引くと、何ボルトかの電気を流す針が飛び出んねん。で、それが当たったら最後・・・相手はんや。」

 ・・・なるほど。それで割と距離がある獲物を無力化できたのか。というか、今日の朝方に取りに行ってた新兵器ってのは、コイツの事か。

「ちなみに訊いとくけど。」

「ん?なんや?」

「何ボルトの電流で設定されてるんすか?」

「さぁ。」

「え。」

「作ってくれた友達がなんや言うとったけど、よーわからん。こっちで加減する設定もでけへんしな。まぁ、アレをみるに10万ではすまんやろな。」

 ・・・その友達、何気にすごいもん造ってんな・・・まぁそもそも考えて、10万ボルトくらってピンピンしてる人達もすごいんですけどね。


「あー・・・ここ、万事屋なんやっけか?」

 長堂さんが突然、恵美須さんに問いかけた。

「・・・シュコー・・・せや。なんや、依頼か?」

「まぁ、依頼っちゅーか、頼みっちゅーか。」

「・・・・・・シュコー・・・なんや、手短に言え。」

 俺の愚行諸々にイラついているであろう恵美須さんが、八つ当たり的に言った。なんかマジで、色々ごめんなさい。

「ほんちょい、ここで働かせてもらわれへんやろか。」

「・・・は?」

 恵美須さんから”シュコー”が消えた。俺と旭も”は?”という顔で長堂さんを見つめる。

「・・・なんで見も知らん様なお前をここで雇わなあかんねや。」

「ここ、玉猪龍を追っとるんやろ?コイツから聴いたで。」

 と、長堂さんが俺に向かって指をさす。とりあえず、俺は会釈をしておいた。

「・・・お前、無駄な事ばっかやりよって・・・」

「すいませんでした。」

 恵美須さんのお怒りの前に、心から謝っておこう。平に。

「玉猪龍はな、俺の”親父”と因縁があるんや。」

 因縁がある相手の営業してるパチンコ屋に行ってる長堂さんも長堂さんだと俺は思います。でも今は無駄な事は言いません。言える立場じゃありません。

「お前の”親父”?・・・ウチ、関係ないやんけ。」

「それがなぁ、そうとも言いきられへんのや。」

「・・・なんや、ニヤニヤしよって。気色悪いのぉ。」

「へへ。ここ、萩之組の傘下やろ。」

 え、知ってるんすか長堂さん。って事は、この人もそういう筋の人なのか?

「・・・なんや、なんで知っとんねや。」

「”エデングループ”、それが俺の親父がやっとる、まぁ、企業やな。」

「・・・ほぉ。」

 エデングループ、と言う名前を聴いた途端、恵美須さんの態度が変わった。・・・何か萩之組とエデングループであったんだろうか。でもまぁ、その、なんと言うか、俺は外から来たビジターでして。なにも知らないワケでして。

「あの、長堂さん・・・」

「ん?なんや?・・・あぁ、東やっけ。」

 俺は女の子をとりあえず恵美須屋の外に置いてあったパイプ椅子に座らせて訊いた。

「あの・・・”エデングループ”って何ですか?」

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