18
突然の乱入者にピリつく空気。互いの出方を伺っているのだろう、ルシフェルとアストルは動かぬまま眼光を向け合っている。
すると何かの合図があった訳では無いが、アストルの体に視認出来るような稲妻が走ったかと思うと――次の瞬間にその姿は消えていた。床へ雫が滴るように微かだが走る稲妻が左右交互に前進し数歩でルシフェルの元へ。それは一秒も満たぬ瞬きより素早い。
そして気が付けばルシフェルの背後を取り斬りかかるアストル。
だがそれすらも反応して見せたルシフェルは振り返るとその一振りを受け止めた。刃が交わると火花が散る様に辺りへ駆ける激しい稲妻。雷を纏うアストルの剣に対し、ルシフェルは魔力を刀へと纏わせている。二つの刃は何事もないと言うように平然と鍔迫り合いを繰り広げていた。
完璧に釣り合った天秤のようにビクともしない両者だったが、先に動きを見せたのはルシフェル。だが何か攻めの一手を指す訳では無く引き抜くようにその場から退いてしまった。
その直後、アストルの目の前へ轟音と共に現れた突き刺すような落雷。網上で放置された肉のように真っ黒に焦げた床には、深々とした罅が刻まれていた。そして辺りに立ち込めるは霧のような白煙。
だが閃光が消えたその白煙の中、既にアストルは剣を槍投げのように構えていた。帯電などという言葉で言い表していいものなのか、その剣はそのものように雷を纏っている。
そして互いの姿が微かに確認できる程の視界の中、アストルはその剣を放った。それは宛ら落雷。アストルの手から放たれる瞬間に生じた閃光を僅かに確認出来るだけだった。
句読点すら入る隙間の無い刹那――ルシフェルの魔力をより濃く纏った刀身は僅かな面積で剣先を的確に受け止めていた。刀身と剣先がぶつかり合う瞬間、その衝撃を表現するかのように辺りへ駆ける雷光。その一点では微かに震える程の力がぶつかり合っていた。
しかしルシフェルはほんの数秒抵抗を見せただけで、すぐさま刀を傾け誘導するように剣を背後へと通過させた。そしてそのまま背後の壁へ剣が激突すると、落雷を逆再生したかのように天へと雷が上がり、周囲の壁を力を見せつけるか如く破壊。
それを目で確認するルシフェル。その頬にはすれ違い様に刀へ纏わせた魔力をすり抜け、刃と化した雷の一本が頬へ浅傷を残していた。
そして視線をアストルへ戻すルシフェルだったが、彼の方を向くや否や顔を傾けさせた――直後、彼の頬を背後から飛んできた剣が横切る。そしてそのまま剣はアストルの手中へ。
「なるほど。そこら辺のとは違うらしい」
「そりゃどうも」
表情を崩さぬまま口調だけ微かながら柔らかにアストルは言葉を返した。
そして刀に魔力を纏わせたままルシフェルが構えを取ると、アストルも身構え――二人は同時に地を蹴った。
まず互いの一刀目が綺麗に交差し受け止め合うと、そこから始まった攻防戦。たった一つのミスが命取りになってしまうプロ棋士の指し合いのように激しく、どちらが攻めに転じどちらが防御に回っているのかすら外部からでは分からない。
だがそれも長くは続かなかった。
それはルシフェルの一突きをアストルが僅かに顔を傾け躱し、その隙を突き振り下ろした剣を左手で受け止められた時。次の行動へ移ろうとしたアストルだったが、顔横にある刀が刃を自らの首へ向いた事に視界端で気が付くと、直ちに大きく後退しそれを躱した。空気を感じるほど彼にとっては間一髪の入れ違いで刀は空を斬った。
しかしそれで再度仕切り直しとはいかず、ルシフェルは瞬時に地を一蹴するとアストルの空けた間合いを詰める。
それに合わせアストルは雷を纏った剣を横一閃。それは雷の斬撃が宙に数秒残るほどの強力な一撃だった。
ところがルシフェルはその更に下――姿勢を低くしその一撃を躱していた。
そして刀を構えるが――そんなルシフェルを待ち受けていたのは宙に浮く雷で形成された剣だった。その数は五本と多くは無いが、タイミングと距離からすれば相手を仕留めるには申し分ない数。アストルは最初からそれを狙っていたのだろう、ルシフェルを見下ろしながら躱された事に対して表情に変化はない。
「(え!? ヤバい?)」
いつの間にか出現させた王座に腰を下ろしていたペペは表情こそ変わらぬものの静かに息を呑み肘置きへやった手に僅かながら力が入る。
一方で眼前へ現れた雷剣を見上げるルシフェルの表情に一切乱れはない。まるで全てが順調に進んでいるかのように、彼はそのまま構えていた刀を振った。
魔力を含んだその一振りはこれまでと違い――だがアストル同様に、斬撃を残しながら横一閃。その力も凄まじく、自身へ放たれた雷剣ごと斬り捨ててしまった。
しかしそれにいち早く第六感でも働いたのか、アストルは回避の行動を取っており、その首ごと落とすには至らなかった。
一回、二回とリズミカルに退き先程よりも距離を取ったアストル。ルシフェルが追って来ていない事を確認しながら片手を喉元へ。そこには切先に撫でられ際に出来た短くも血雫を流す傷が。
「やっぱり今は引くのが賢明か」
鎧越しの指先に付着した鮮血を見つめながらアストルは一人呟いた。
だが逃がさんと言わんばかりに刀を構えるルシフェル。
しかしそれとは相反してアストルは剣を鞘へと納めた。そして血の付着したままの手を軽く広げて見せる。掌の上空には今にも破裂しそうな雷の塊が現れ、それは徐々にその大きく。
そしてルシフェルが動くよりも先にその塊を握り潰すと指の間から漏れた雷光は天井をすり抜け天へと昇った。
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