12
サードン王国国王クレフト・サードン――謁見の間に入ると彼はバルコニーから国を眺めていた。
「魔王ヌバラディール・ペペ――まさかこうして顔を合わせる事になるとはな」
「全くだ。このような一介の国王の元へわざわざ足を運ぶ事になるとはな」
そうぼやくように言いながら真っすぐ赤絨毯の上で歩みを進めたペペは、そのまま階段を上がっては国王の為の王座へと腰を下ろした。その行動を目にし、一驚に喫するミシェルと衛兵。
「ちょっと! 無礼よ!」
思わずと言った様子で声を上げるミシェルを止めたのは振り返ったクレフトだった。
「よい。落ち着け」
その言葉に頭を下げ一歩下がるミシェル。
そしてクレフトは王座に腰掛けるペペを見上げた。
「それで? 一体魔王が何用だ?」
「率直に言おう。吾輩の傘下となれ」
ペペの台詞にミシェルは苛立ちを露わにしながらもクレフトの手前、それを堪えている様子。
一方でその命令のような申し出に流石は国王と言うべきか眉一つ動かさないクレフト。それどころか彼は鼻を鳴らす様に一笑して見せた。
「この世界を闇で覆い尽さんとする魔王が、たかが一国に対してそんな事を言ってくるとは、意外な事よ」
「それは吾輩とて同じこと。だが今は状況が変わった。本来、貴様らの希望となるべき存在が暴走したのだからな」
「勇者か……。それでも魔王にとってそれは微々たる誤差ではないのか? どの道、この世界を取るつもりなのだろう?」
それは煽るというより痛いところを突いては上手く立ち回っていると言った方がいいのかもしれない。クレフトは魔王へ真剣な眼差しを向けながら、彼が直接出向いたのを好機と受け取ったのだろう、静かに攻めへと転じていた。
だがそんなクレフトごと吹き飛ばす様にペペは高らかに笑い声を上げた。
「何か勘違いしているようだな。これは思い掛けないゲームに過ぎん。勇者の思い掛けない強欲に乗った――単なるゲームだ。この世界を取るのに何の障壁も無いのはつまらんだろう。吾輩と勇者。果たしてどっちがこの世界を取るか、壮大なゲームに過ぎん」
彼の中で一筋の光でも見てたのか、微かに眉を顰めるクレフト。
「ではまず、お主の望みを聞こう」
だがやはり大国の王。相変わらずの口調で続けた。
「吾輩の元につけば貴様らは何も変わることは無い。ただ貴様らの戦力の一部を必要な時に吾輩へ差し出すだけでいい。――それと魔力は注がせてもらう。人間のままでは役に立たんからな」
「戦力の一部に魔力を?」
「この国で最高の戦力は誰だ?」
その問い掛けに目を瞑るクレフトの中で答えは決まっているようだった。
「ではサードン王国国王騎士団団長を貰おうか」
ペペは答えを渋るクレフトを他所にミシェルへと視線を向けそう言葉を続けた。
「どうするつもりだ?」
「吾輩の魔力を注ぎ、必要な際に呼び出す。だが、その代わりこの国を勇者の手には落とさせん」
再度目を瞑ったクレフトは国王として国とを天秤に掛けている様子だった。
「国王様! このような者に頼らずとも――」
「日に日に勢力を広げてる奴らをどう凌ぎ続ける? 貴様一人でどうにか出来るとでも?」
ミシェルの言葉を遮ったペペは先程の事を思い出せと言わんばかりに鼻で意地悪く笑い飛ばした。
そしてそれは紛れもない事実。彼女は苦虫を嚙み潰したような顔を浮かべたまま何も言えずにいた。
「ミシェル騎士団長。意見を聞かせてはくれぬか?」
「アタシは……」
今すぐにでも断りたいがペペの言う事も否定出来ず葛藤があるのだろう。言葉の後、謁見の間には暫しの沈黙が流れた。
「ならばこうするとしよう」
そんな沈黙を破るペペの声にクレフトとミシェルはほぼ同時に彼を見上げた。
「この国の代表として貴様が」
そう言ってペペは真っすぐミシェルを指差した。
「そして吾輩の代わりにこ奴が」
ミシェルへ向いていた指はそのまま移動しルシフェルへ。
「戦う。交渉で納得しないのなら、力づくで奪い取るとしよう。魔王らしくな」
その挑発的な態度にミシェルの表情は崩れるが、そこは騎士団長と言ったところか国王の御前、辛うじて冷静さを欠く事は無かった。
「どうだ? クレフト・サードン。貴様と吾輩の番犬、どちらの牙が鋭いか比べてみようではないか。見世物にすらならんのが残念だがな」
フッ、と嘲笑を浮かべるペペだったが、一方でクレフトは眉一つ動かさなかった。
「ミシェル騎士団長。そなたに判断は任せよう」
「受けて立ちます」
先程の迷いとは打って変わりミシェルは即答した。国王の言葉を遮るような事はしなかったものの、最初の時点から答えが決まっていたのは改めて訊くまでもなかった。
「では騎士闘技大会の会場で行うとするか」
「さて、吾輩の力を分け与えるに値するか。実際にこの目で確かめてみるとするか」
そして王座から立ち上がったペペはクレフトらと共に闘技場へと向かった。
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