白旗を上げているのに負傷した話。

ベッドの上であおむけになり、スマホを見ていた。

腕を伸ばし、顔の前にスマホを掲げる状態で。

スマホの向こう側で何かが動いた気がしたので、視線をそちらへやった。

   

天井に黒光りする生き物がいた。


さらには、ジッと私を見ている。 

  

ぁぁ、ヤツが現れたのか。

私はヤツが大嫌いだ。

戦う気すら芽生えない大敵である。

私の負けであるので、どうか私の前に現れないでいただきたいと日々願っている。

 

それなのに、私の目の前に現れる。

他の家族の前には現れないのに。

  

ヤツらは、すぐに目を合わせてくる。

おそらく私の戦闘能力を見繕っているのだろうが、そんな必要はないと伝える術がないので、心の中で白旗をあげながら「どうぞお行きになってください」という気持ちを込めて視線をはずす。

  

私はまだあおむけの状態で、相変わらずスマホを顔の前に掲げている。

画面を見るふりをして、ヤツを見ないように我慢して30を数える。

  

30を数えた再び天井へ視線をむけたら、まだいる。

そして、また目があう。

   

ぁぁ。どうしよう。

   

そう思うとほぼ同時に、ヤツは私にめがけて飛んできた!

  

んぁ!

低い声で叫びながら、私はスマホをどこかへ投げつけた。

   

つぎの瞬間、何かが私の上唇と鼻の間めがけて飛んできた。

そして激痛。

   

訳が分からず騒ぐ私。恐怖で手まで震えている。

   

恐る恐る私に飛んできたものを見たら、さっきまで顔の前に掲げていたスマホだった。スマホの角が私の顔に落ちてきたらしい。

 

あまりの痛みに、さすってみると、ムクムクと腫れてきているし、口の中には血の味もしてきた。

 

そして、ヤツはいなくなっていた。

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