第21話 小麦粉料理3

足で踏み伸ばした後、寝かせた生地を薪から錬成した木の棒、麺棒を使って正方形に伸ばしていく。


引っ付かないように小麦粉を掛けながら慎重に、薄くし過ぎない程度に破れないように。


「ここまで薄くしていいのですか?」


料理長はフォルテの真似をして伸ばしているが、薄くし過ぎないと説明した言葉が、料理長の思う薄くし過ぎないよりも薄くなっている事に不安を覚えたのだろう。


言葉だけで説明するのは難しいのだ。


「大丈夫だ。これくらいになるまで、なるだけ均一に伸ばすんだぞ」


フォルテは自分が伸ばした生地を見せて手本にするように教えた。


料理長が生地伸ばしに奮闘している間に、次に使う道具の錬成だ。


包丁と、木の板に少しの段差と取手をつけた物で、麺切り包丁とこま板と呼ばれる道具である


料理長が伸ばし終わったようなので、これから生地を切る作業へと移る。


「それじゃ、生地を布団を畳むように折るぞ。引っ付かないように小麦粉を振るのを忘れるなよ」


「布団?を畳むですか?」


料理長の頭には疑問符が沢山浮かんでいる。


フォルテはついつい前世のように説明したが、この世界では伝わりにくい様だ。


「見てろ。こう三つ折りにな」


フォルテが手本を見せて生地を三つ折りにすると、料理長はなるほどと納得した様子で真似をする。


「それじゃ、切るぞ!こうして板を上に置いたら押さえつけたらダメだぞ?優しくだ。端の部分を切り落としたら、板の方に包丁を傾ける。そしたら板がズレるだろ?この傾け方を一定に保って切っていくんだ」


そうして切れた物を茹でてできるのがうどんだ。


うどんを均一に切る為に包丁の傾けと板を利用しようと考えた先人は素晴らしいと思う。


「この位でしょうか?」


料理長が質問してくる。どうも心配性の上に、後で他の料理人に伝えようとしっかり聞いてくる。その横で、しっかりとメモをとっている料理人がいる事からもやる気が感じ取れる。


「そうだな、それ位でいいぞ。初めは慣れなくて不揃いかもしれないが、慣れれば綺麗に揃った太さが切れるようになる。ここまで来ればあじはかわらないさ。勿論、揃っていた方が火の通りが同じになるから揃えた方がいいがな」


ここまで来ればうどんは茹でるだけ。


大きな鍋にたっぷりのお湯を沸かす様に指示する。


麺を切り終わったようなので、茹でる前につゆの準備だ。


ブーモタマネギオニーから取った出汁と椎茸コウタケから取った出汁を合わせで、醤油で味を整える。


これは温かいうどん用の他に、冷たいざるうどん用に濃いめの物を2種類用意しておく。


小さい皿に少量取り分け、味をみる。


うん。豚と玉ねぎの甘み、それから椎茸の香り。そして、この日本人として馴染み深い醤油の深み。


丼で飲みたいくらいだが、それは麺と一緒になるまで我慢だ。


「よし。お前達も味をみてみろ」


フォルテは料理人達に少しずつつゆを味見させる。


「さっきのしょっぱいのが、こうなるんですか……」


料理長はつゆがなくなった皿をまじまじと見つめた。


「これで終わりじゃないぞ。最後の仕上げをして国王に振る舞う。いや、お前達も一緒に食べろ!」


「え!そんな、畏れ多い」


「食の楽しみを知るには大勢で食べた方がいいんだ。おい、ケミーニア、国王達にそう伝えて食べる用意をさせておけ!うどんはのびたら美味くないんだ!」


フォルテの指示を受けてケミーニアは国王達に伝言を伝えに厨房から出て行った。


「後は麺を湯掻いて、冷たいのは水で締める!後は焼きうどんだな!」


焼きうどんは醤油味とソース味の2種類用意する。


温かい豚南蛮風うどんとざるうどん、野菜と豚コマ肉たっぷりの焼きうどんが2種類。


参加者は国王と王妃に王子、王女。

宰相夫婦に公爵夫婦、それから城の料理人達。

勿論フォルテも参加する、王族らしからぬ、うどんのフルコースの晩餐会が、フォルテの手によって開催されるのであった。

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