第20話 バラ園
ベアトリス様からバラ園に誘われた私は、側近四人組に一言声を掛けることにした。まあ、少年達はバラに興味がないと思うけど。
……いや、あったらあったで別の意味で美味しいな、と思ったのは私が腐っているからだろうか。BLも大好物だし。
「私、ベアトリス様とバラ園に行って参りますので、ここで失礼いたします。皆様とご一緒させていただきとても楽しかったです。それでは、皆様ごきげんよう」
ベアトリス様とゆっくり庭園を案内して貰うつもりなので、側近三人組とはここでお別れかな、と思い、挨拶もしておく。
「ん? バラ? 別にキョーミねーけど俺も行く」
「……たまにはいいかも」
「ボクは白バラがみたいなっ」
「お供しますよ」
来ないと思ったから声を掛けたのに、全員付いて来るって……。予想外である。
……っていうか、クロヴィス! お前、興味がないなら来んなっ!!
ベアトリス様とバラ園で二人っきりの至福時間を過ごせると思っていたのに……! まさか気を使ったのが仇になるとは。
(仕方ない、今日は諦めるか。まあ、次の機会があるかもしれないし! また誘ってくれるようにお願いしよう!)
バラの植え替えを手伝うとか、剪定するとか肥料をあげるとか、手伝えることはたくさんある。……っていうか、ベアトリス様と初の共同作業をしてみたい!!
そしてあわよくば、バラを少し分けて欲しい。ありとあらゆる手段を用いて保存するから。
「では、参りましょう。皆さんこちらへどうぞ」
ベアトリス様がにこやかに微笑んで、私達を案内してくれる。これがホントの天国への誘い……!
ちなみに、テラスの隅には階段があり、そこを降りるとすぐ庭園に出られるようになっていた。
「わぁあ……!! 間近で見るとまた違う美しさですね……! 素晴らしいです!!」
一見、自然に育っているように見える花々だけれど、地面に落ち葉や花びらは全く落ちていない。
きっと庭師さんが、ものすごく気を遣って植物達を育てているのだろう。
「とても腕が良い庭師さんがいらっしゃるのですね!! はぁ……本当に素晴らしいです……! いつまでも見ていられます!!」
「ふふ、お褒めいただき有難うございますわ。庭師も喜びますわ」
ベアトリス様と一緒に花が咲き乱れる庭園を散策……! なんて素敵なのでしょう!!
この世界にデジカメが無いのが悔やまれる。ベアトリス様の写真も動画も全部欲しい!! 高解像度で!! この奇跡の美しさを、どう世界に知らしめれば良いのか……!!
「お、虫見っけ!」
「……拾わないでよ」
「クロヴィス、無害な虫なら殺さないでねっ」
「ベアトリスやミシュリーヌ嬢が怖がりますから、元の場所に戻して下さい」
「………………………………ちっ!!」
せっかくベアトリス様とお散歩して、幸せの余韻に浸っていたと言うのに、シャルル以外の三人組の声がうるさくて台無しである。
それにしてもシャルルは良いお兄さんだなぁ。ベアトリス様を守ろうとする姿勢が素晴らしい!
「こちらがバラ園ですわ。わたくしの一番のお気に入りですの」
生け垣があるその先に、満開のバラが咲いているアーチがあった。そのアーチだけでも見事なのに、アーチをくぐってみると、そこはもう別世界だった。
テーマごとに分かれているらしいバラ園は、色んな色のバラで作られているアーチが各所に配置されていて、庭の間を流れる清流に沿って美しいバラが咲き誇っている。
その川面に咲き誇るバラが映り込む景色は、とても美しく、まるでおとぎ話の世界に迷い込んだかのよう。
咲いているのは勿論バラだけではなくて、ネベタやラベンダーなどの小花やハーブも一緒に植えられていて、ピンクと薄紫のコントラストがとてもロマンチックだ。
「ふぁああ……!! 正に天国……!!」
この景色を人が生み出したのか、と思うほど美しいバラ園には沢山の品種のバラが咲き、まるでバラの美術館のようだ。
一重咲き、八重咲き、カップ咲き、フリル咲き……。世界中の品種が集まっていると言われても納得してしまう。
「このバラ園を、ベアトリス様も一緒にお手入れされているのですか……?」
「はい……っ! まだまだ勉強中ですけど」
バラ色に頬を染めて、少し恥ずかしそうに言うベアトリス様の破壊力は凄かった。やっぱり天使がお手入れすると、そこは天国になるのだろう。全てのバラが輝いて見える。
「すごい……っ! すごいですベアトリス様っ!!」
どうか語彙力がない私を許して欲しい。もうベアトリス様がすごすぎて、すごいという言葉しか出てこない。
「ほ、本当ですか……? ミシュリーヌ様がそんなに褒めてくださるなんて、とても嬉しいです!」
ベアトリス様の笑顔と背景のバラの相乗効果は凄まじかった。マジで目が潰れるかと思った。
更にバラ園を見学させて貰うと、これまたバラに包まれたガゼボを発見する。
ガゼボにはテーブルやチェアーが備え付けられており、のんびり休憩ができるようになっていた。
「わぁ……っ! こんな素敵な場所で飲むお茶はすごく美味しいでしょうね!」
どこもかしこも素敵すぎて溜息しか出ない。
今度生まれ変わる時は、ベアトリス様にお世話されるバラになりたい。
「ふふ、では次はここでご一緒にお茶をいたしましょう。バラで作ったお茶やジャムはとても美味しいんですの」
「ほ、本当ですか?! 是非! 是非お願いします!!」
まさかこんなにも早く次のお誘いをいただけるとは思わなかった。
(ベアトリス様と一緒にベアトリス様が育てたバラに囲まれて、そのバラをふんだんに使ったお茶でティータイム……!! まるでこの世の幸せが集まったかのよう!!)
齢五歳にしてすでに一生分の運を使い果たしたかもしれない……。もしくは前前世で何か善行でもしたのだろうか。村人を救ったとか……?
とにかくこんな機会はめったに無いと思う。それにベアトリス様が私のためを思って提案してくれたのだ。ならば私もベアトリス様が喜ぶことをしてあげたい。
「じゃあ、その時は先程お約束したクッキーをお持ちしますね! それとまた別に新しいクッキーも!」
私は咲き誇るバラを見ながらあるものを思い付いた。お屋敷に帰ったら一度試作してみよう。
「まぁ! 新しいクッキーですの? どんなクッキーでしょう?!」
「クッキーばっかりでお恥ずかしいのですが……。私、ベアトリス様に喜んで貰えるように頑張ります!」
「嬉しい! 楽しみにしていますわ!」
ベアトリス様が楽しみにしてくれる……それだけでやる気MAXだ。
「え、新しいクッキー?! 俺も食べたい!! 俺も参加したい!!」
「はぁ?!」
またクロヴィスが話題に入ってきた。お前はお呼びじゃねぇ!! 邪魔すんな!!
思わず素の声が出てしまったけれど、またもやベアトリス様との大切な時間を邪魔されたのだ。鉄拳を飛ばさなかっただけでも褒めていただきたい。
「いや、これはベアトリス様と二人だけで──……」
「えー! お前らだけでずりぃ! 俺も美味いの食いたい!!」
「……新しいクッキーとやらに興味がある。僕にも新しいアイデアが浮かぶ予感」
「幸せは分け合わないとっ!」
「すみません、皆んなミシュリーヌ嬢のクッキーに感動したみたいで。あ、勿論僕もですけど。だから新しいクッキーが気になって仕方がないのですよ」
シャルルが三人組をフォローする姿に、私はさすが未来の宰相だと感心する。
要点をまとめて相手に伝え、さりげなく要求を飲ませるように誘導するその手腕は大したものだ。
……この若さですでに苦労しているんだな、と心配になるけれど。
「……ミ、ミシュリーヌ様、わたくしは大丈夫ですから……」
渋る私を見かねたのか、ベアトリス様が私を宥めるように言う。ベアトリス様を困らせたい訳ではない私は、業腹だけど要求を飲むことにした。……業腹だけど。
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