第6話
家に戻り夕食を済ませてくつろいでいると、扉をノックする音が聞こえた。
「はい?どうぞ」
扉を開けたのは、いつものメイドではなく執事だった。
この人が私の部屋に来るなんて、何年ぶりだろう?
「お嬢様。ご主人様がお呼びでございます。一緒においでくださいませ」
ご主人様……お父様に呼び出されるのも久しぶりだわ。
このところ何もやらかしてないから、叱責される覚えはないのだけど。
ううん。
叱責だったら、メイドが呼びに来ているはず。
じゃあ、いったい?
執事の後をついて歩く。
自分の家の中なのに、
自分の部屋以外はほとんど行ったことがないのなんて、私くらいじゃないかしら。
「こちらでご主人様がお待ちです」
そう言って執事が立ち止まった場所は、年に一度、新年の挨拶をする際に案内される食堂でも、叱責のために呼び出される執務室でもなかった。
───応接室。
私に一番縁遠い場所。
執事がドアをノックする。
「旦那様、ユーリ様をお連れしました」
「……入れ」
低い声でいらえがあった。
叱責されるときしか聞かない声だからか、ただの返事の声でもつい身体がびくっとすくんでしまう。
扉が開き、中に入る。
部屋の中にはお父様ともう一人。
ふたりとも応接セットのソファに座っている。
「お召しにより参上いたしました。どういったご用件でしょうか」
お父様はしばらく無言で私を見つめた後に、こう言った。
「お前に、神官が
神官からの……?
え?なに?
確か今朝『おって使いが来る』って言ってたはず……それが今日、さっそく?
お父様の言葉が終わると、お父様の向かい側のソファに座っていた人が立ち上がって、私の方を向いた。
背が高い。
確かに神官の服を着ているわ。
「ユーリ様、こちらへどうぞ」
「あ、はい」
私は使いだと聞かされた神官の前まで行った。
お父様は苦虫をかみつぶしたような顔をしている……笑った顔を最後に見たのって、いつだっただろう。
「お前への文だというので父親である
神官は真面目な顔で私に向き直った。
「それでは、お渡しします。これをどうぞ」
神官が空中に手をかざすと、ふっと球のようなものが現れた。
青白く光るそれはふわふわと宙をただよい、私の手元までやってきた。
両方の手のひらで受け取ると光が増し、空中に誰かの姿が現れた。
光に包まれたその姿は、重々しい声でこう告げた。
「我はスノウクロア。メールスにより、汝ユーリ・クラウディウスの覚醒が確認された。よってこれより後、ユウリ・サントネージェとともに“ドラヴァウェイ”となることを命ずる」
それだけ言うと光る玉はすうっと私の手のひらに吸い込まれていった。
「な、なんだ?今の神託は。ユーリがドラヴァウェイ?そんなバカな話があるか。こいつは魔力を持たないデキソコナイ、クラウディウス家のハジサラシなんだぞ」
お父様が立ち上がって大声を上げる。
「クラウディウス様。スノウクロア様よりのお言葉は“絶対”であることを、お忘れのようですね。今のご神託は、メールス様からの報告を受けられてスノウクロア様が決定されたことによるものでございます」
神官が冷静に告げる。
「……あの言い伝えは、
暗がりから急に声が聞こえた。
びっくりして振り向くと、そこには見たことがない老人がひとり立っていた。
最初からこの部屋にいたのかしら?全然気がつかなかった。
「言い伝え?」
「お主には、伝えられておらなんだか。冷遇されておったようじゃから仕方はあるまいが。我が一族には古くからの言い伝えがあっての。萌黄300年代に生れし者が魔物を滅する役割を神から賜ると記されておるのじゃ」
「長老!その話は、そいつには必要ない!」
「……たった今、目の前で神託を聞いたであろう。己が選ばれず、蔑んでいた
「魔物を……滅する?」
「そう。今は我ら魔法師が魔物たちを追い払ってはいる。ただし、それはわれらが住む場所から遠ざけているだけのこと。ドラヴァウェイは追い払うのではなく、滅する役割を担うのじゃ」
そう言って長老は私に近づいてきた。
「ちょっと、髪をまとめてくれぬか?耳がよく見えるように」
言われたとおりに手で髪をひとつにまとめる。
「こんな感じでよろしいですか?」
「うむ。十分じゃ」
そう言って私の背後に回り、左耳の後を確認してきた。
「ふむ。間違いない。言い伝えどおりの刻印が、ここに現れておる」
「う、うそだ!なんでこいつが!なんで儂ではなく、こいつなんだ!」
「往生際が悪いやつよ。……神官殿。申し訳ないが、家長がこのような有様ではユーリの身に害をなさんとも限らん。身柄を預かってはもらえぬだろうか?」
「もとより、そのつもりでございます。メールス様よりのご伝言として『覚醒はしたが未だ未熟。我が下に置き修練させるので連れ戻るよう』といただいてございます」
え?ちょっと待って。
確かに運命だとか言われた気はするけれど。
意思は無視?
というか勝手に刻印まで?
耳の後ろを触ってみたけれど、特には何の変化も感じ取れなかった。
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