第16話
ライルは視線を感じて、ふとそちらの方向を見る。
すると、ちょうどこちらを見ていたのか、ひらひらとマリアが手を振っているのが見えて、少し気恥ずかしいながらに振り返した。
尤も、ヒルデガルトやシェリーという二人は一瞥の後に会話に戻ったようだが。
「……うんうん、青春を感じるのは兄として微笑ましいもんやな」
「もう、からかわないでよ。そしてロール……いつから僕の兄さんになったのさ」
それを見てロールが冗談のような口調で言うのに、ライルは肩を竦めて言う。少しだけ目をそらしているのは照れくさいのは確かだからだ。
ヴォルフは言葉に出さないが、そんなライルとロールを見て口元を緩めている。
「まぁ、マリアは明るいし社交的、しかもあのスタイル、同じクラスっては役得やな。実際士官学園に放り込まれるってなって、周囲は正直むさい男ばかりかと思うとったけど、女の子も4人もおって華があるんはええこっちゃ」
そして、ロールがそんな言葉を舌に乗せるのに、ライルはふふっと笑ってしまう。
正直、男ばかりだろうというのはライルも同じような事を思っていたからだ。それにここまであけすけには言わないものの、男ばかりかと思っていたら同世代の女の子がいるのに浮かれる気持ちも分からなくはない。
「まぁ、マリア以外には避けられてるみたいだけどね……」
「ヒルデガルトはまぁ騎士様やからなぁ、俺もそんなええ顔されんし……シェリーは何やろな? 首席やし、学者然とした優等生かと思ったら割りと冗談も通じるノリなんやけど、もう一人のお嬢ちゃんはちょっとわからんけどなぁ……んん?」
ロールがライルの言葉にそう首を傾げつつ、最後の一人にも言及して、今も一人で食べているクラスメイトの白銀色の髪の少女をを見て、疑問の声を出した。
それに見ると、同じクラスメイトの男子生徒と少しの会話をしている。
「へぇ驚いたなぁ、あのお嬢ちゃんが誰かに自分から話しかけてるのは始めて見たわ……お、テオ! さっきノインの嬢ちゃんと話してなかったか? 何したんや?」
「え? あぁロールさん。それにライルさんにヴォルグさんも、こんにちは…………さっきのはそうですね、ちょっとした世間話みたいなものですよ」
「その世間話をできるんが凄いっていう話やん? 結構必要最小限の受け答えしかせん子やろ? いつも一人やしそれが苦ではなさそうやしな。あと、同じクラスやしタメ語でいこうや……エミール相手とはちゃうんやから」
ロールがそういうと、テオは笑みを作って言った。
テオ・マルシャンは穏やかな雰囲気の少年で、同じくクラスメイトで、他国の王族であるというエミール・ドルレアンの付き人のような事をしている。
「いえいえ、これも性分のようなものですから。それにエミールさんも同じようにこの学舎では敬語は不要と仰っているんですが、同じようにお断りしているだけなのですよ……それに僕は皆さんのように何かに秀でているわけでもないですし」
「そんなに自分を卑下するもんでもないやろ、あれに合格したんやから……それにしても、あれがそんな殊勝な事を言う感じには見えへんけどな……」
ロールが少し険のある声を出して、それにテオが困ったようにふわりと笑う。
ライルとヴォルグは顔を見合わせて、少し助け舟を出そうとするも、更にもう一人の声がかかった。
「ふん……士官学園に入学したからには身分差をひけらかすような趣味はないというだけだ。尤も、毎週のように休みには繁華街へ繰り出すような志が低い人間にはそれも殊勝に感じられるのかもしれんがな…………」
「…………なんや、いきなり喧嘩売ってくるやないか」
「ちょっと、ロール、今のはロールの言い方も良くなかったよ? エミールも気を悪くしたならごめん、謝るからこんなところで揉めないでよ」
「そうだな、後はまぁロールが繁華街へ行っているのは事実だが、授業や訓練に支障はきたしてはいない。自由時間はそれぞれどう使おうとも良いだろう」
ライルがそれぞれにとりなすように言うと、ヴォルフもそう告げる。
このロールとエミールは、入学して初日になんでもない会話から揉め、そこからも事ある度にこうしてギスギスした会話を繰り広げているのだった。
(まぁ、少しいい加減なところがある平民出身のロールに、勤勉で真面目なエミールは合わないのはそうなんだろうけれど)
ロールをなだめつつライルはそうため息を付いた。
◇◆
「さっきはすみませんでしたね、ライルさんも巻き込まれた形になってしまいました」
「いやいやこっちこそだよ。まぁロールもあれで色々見てるし、悪いやつではないんだけどね」
午後、実技の訓練の中でテオを同組になったライルは、改めての謝罪にどんでもないと首を振り、ロールについてもフォローを入れる。
「ええ、そうですね。僕のことや、それこそさっきのノインさんのことも見ておられるようですし、少し不真面目なような言動とは別に視野が広い方だと思います。ただ、エミールさんと合わないのは、ポーズでもないのでしょうが」
そして、それに対してのテオの言葉に少し意外さを覚えた。
テオはそんなライルに少しくすりと笑って言う。
「ふふ、僕はこうしてエミールさんの補佐として士官学園に来ていますが、元々商人の息子なんです。商談の基本は観察。魔法も剣技も普通以上にはなりようもありませんが、その分クラスの皆さんのことは見ているつもりです…………皆さん凄すぎて、実習で足手まといにならないようにと思っていますが」
「ふふ、確かにそうだね。エミールだけじゃなくて、ヴォルフもヒルデガルトも本来なら関わらないような身分の人だし、マリアやシェリーも魔法の天才と言っても良いんじゃないかな? ソラルはちょっと不思議なところはあるけれど実力は確かだし……後はノインもよくわからないけどね、明らかに僕らより少し幼い気もするから」
クラスメイトとなったうち、それぞれを頭に思い浮かべながらライルはそう呟いた。
「僕にとっては貴方もですけれどね。そして、ノインは14歳だそうですよ? まぁ、『ということになっている』、と言っていましたが」
「へぇ、じゃあもしかしたら僕と同じような出身かな? それにしてもテオよく知っているね」
ロールほどではないが、ライルもこれまで見ていて、ノインが自分の事を話すところを見たことが無い。テオにそう問いかけると、テオはちょっとした縁で、と柔らかに微笑んで言った。
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