問い
「俺はサヤマ・ハルオってもんだ。あんたの名前は?」
ハルオは相変わらず無愛想な青年に訊ねた。
「スノーホワイト」
青年は落ち着きを放った声で答えた。
「すげぇカッケーじゃん。だから氷みたいに冷たそうな顔してるのか──あ、すまん悪かった」
ハルオはまずいことを言ってしまったと思い、すぐに彼に詫びた。
「いや、別に」
「ほんっとにごめん。悪気はなかったんだ。失礼なこと言っちまった直後で悪いんだけど、ここがどこだか教えてくれるかい?」
「ここはアルディフォリア王国の北にある『黒の森』だ。この森は木が日光を遮っていて昼でも暗い。この辺りには凶暴な獣はいないが、もう少し奥には凶暴な獣がわんさかいる。あまり奥へは行かないほうがいいだろう」
スノーホワイトと名乗る青年は淡々と喋る。
「忠告どうも。この国はアルディフォリアってのか。いい名前だ」
「僕からも聞いていいかな」
今度はスノーホワイトがハルオに訊ねた。
「なになに?何でも聞いてくれ」
「多分、君は向こうの世界でやりたいことをやれずに死んだんだろう?この世界でやりたいこと、もしくは望みはあるか?」
そう言いながらスノーホワイトは自分の両掌に視線を落とし、じっと見つめた。
「ん?やりたいこと?もちろんあるぜ。それよりあんた何して──」
スノーホワイトの手が冷気を帯びた青白い光を放った。
「うおっ!何だそれ!?魔法か?」
ハルオは驚いた声を上げた。
光が落ち着くと、スノーホワイトの手には、ハルオがあっちの世界の漫画やアニメでよく見た、リボルバー型の拳銃があった。その拳銃は硝子のように透き通っていた。
「そ、それって氷でできてるのか?」
「ああ。スミス&ウェッソンM29。6.5インチのやつだ。弾も氷でできてる。火薬も生成してあるが、その方法は言えない。それに魔法とはちょっと違う」
「すっげえ!!ちょっと触らせてくれよ」
「駄目だ。それより僕の質問に答えてくれ」
「そうだった。俺さ、前の世界でガチ恋してたお天気お姉さんがいたんだけど、そいつに男がいたんだ。まんまと騙されたってわけだ。俺は人生に嫌気がさして、無差別にカップルを襲撃しようとしたんだけど、わけわかんねえやつに殺されちまって。だから俺、この世界でモテまくりたいんだよね。誰からも好かれて、愛される人生を送りたいんだ。たとえ好きな女に男がいたとしても、その男をぶっ殺してその女を手に入れるくらい強くなりたいし、金持ちにもなりたい。ようするに勝ち組ってやつだ。この世界なら俺は勝ち組になれる。そんな気がするんだよ。これ見てくれよ、ほら、あっちの世界で手当たり次第に放火してやろうと思ってポケットにライター入れてたんだ。この世界は火を起こすのもひと苦労だろ?だから俺がこのライターで火をつければ、みんながあっと驚くはずだ。みんな俺のことを魔法使いだと思って崇めるぜ。そうしたら俺はたちまち王様だ。とにかく俺は、俺だけが愛される世界が欲しいんだよ。それが俺の望みだ」
ハルオがスノーホワイトの方を向いて熱弁を振るっているあいだに、彼は拳銃の撃鉄を起こし、いつでも発砲できる状態にした。
「なんだい、撃ってみせてくれるのか。面白そうじゃん。じゃあ適当な小動物でも──」
ハルオが言い終える前にスノーホワイトはハルオの額に銃を撃った。
実銃さながらの銃声が森に鳴り響いた。
頭を撃ち抜かれたハルオの身体が後ろに倒れる。
それっきりハルオが身を起こすことはなかった。
スノーホワイトはハルオの死を確認し、手中の銃に手を合わせて銃を消してしまうと、何事もなかったかのようにその場から立ち去った。
二人の男が焚き火の火を消そうとしている所にスノーホワイトがやってきた。
「終わったか」
「終わったのか」
二人が聞いた。
「ああ。もう済んだ。この先でやつの死体が転がっている。あとは頼む」
スノーホワイトはそう言って男たちに金貨を一枚ずつ渡した。
「感謝するぞホワイト」
「礼を言うぞホワイト」
「いや、礼を言われるほどのことではない」
「しかしな、ホワイト」一人がスノーホワイトに言った。
「同胞を手にかけるというのは、なかなか心苦しいのではないか?君もかつては──」
ホワイトは間を置かずに、男の話を遮るように口を開いた。
「いいや、何とも思わない。この世界を守るためにやっていることだ。この世界の人々に危害を加えるような輩は僕がすべて始末する。それだけのことだ」
ハルオに氷のような顔だと言われていたその目つきが少しだけ険しくなった。
「そうか。ならいい。あとは任せろ、また来客が現れたら知らせる」
「すまない」
スノーホワイトは森から立ち去り、帰路についた。
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