第2話 臭い

「おっはよーございまーす」

「昨日はよく寝られた? ――って何を食べてるんでしょう?」


 肉の串焼きを食べながらダンジョン入り口にやってきたあたしを見たレナさんの一言。


「えへへへ……実は朝食を食べるのを忘れて宿に出ちゃって、ちょうど行商の人が屋台で売ってたのを買っちゃいました」

「もう……朝食はしっかりバランスの取れたものを食べないとお腹の消化に悪いのよ?」

「しゅいましぇーん」


 あたしはさっさと肉の串焼きを全部食べきり、


「準備万端です! 行きましょう!」

「その前にトイレはすませてきた?」

「はいっ。しっかり全部出しきってしましたよ!」

「それならいいわ。では行きましょう」


 レナさんは笑顔で歩き出す。

 それにしてもキレイだな~髪の毛もキレイだし、なんかいい匂いするし、服もすごいキレイだし、歩く姿もキレイって完ぺきな人すぎる~


 あダンジョンの前にたどり着いたレナさんが門番たちに話しかけ、


「お願いしますぜ」

「お気をつけて」

「ありがとう」


 そうダンジョンの扉がガタガタと開き始める。


 ダンジョンから流れ出てくる異様なオーラを感じ、あたしの身も引き締まった。

 ここからが本当の戦いなんだ……ううん、大丈夫。ずっと練習して鍛えてきたし、レナさんがついているし、きっとやれる!


「武器を持っ。行きますよ」

「はっはい!」


 あたしたちはダンジョンの中に入っていく。やはり魔物の出すオーラのようなものがすごい。身体を押し返そうとしているように感じる。


 レナさんも魔法の杖を構えつつ、


「このダンジョンは第8階層までは攻略済みなの。でも、一旦引き下がって返ってきたときにまた魔物が登ってきていることもあるから、油断しないで」

「わっわかりました」


 あたしは大きく深呼吸。大丈夫! やれる! あたしなら絶対にやれる!


 そう一歩一歩ダンジョンに足を踏み入れていく……まだ第1階層なのにこの威圧感。入り口も近いのに、これがあの世界を滅ぼそうとした魔王軍……


 ……………


 いや? オーラじゃない? オーラならもっとこう寒気とか重さそういうのを感じそうだけどこれは違う。これは……この感覚は…


「臭い」


 ……思いっきり口に出してしまった。

 そう! 臭いのだ! というかこれさっき宿屋のボットン便所の奥底から臭ってくるのと全く同じやつだ! つまり……


「ウンコ臭い!」


 ……またまた口に出して言ってしまった。

 

 それを聞いたレナさんはくんくんと鼻を鳴らし、


「確かに臭いけどいつもどおりよ? 不審なところはないわね」

「この臭さでいつも通りなの!?」


 このウンコ臭さちょっと考えられないよ! なんなのこの廊下にウンコが撒き散らされているみたいな臭さ!

 あたしは鼻を摘みながら、


「あ、あのこれは一体……」

「ダンジョンはトイレがないのよ。でも便意を催したまま戦っていたら戦闘力が著しく低下するわ。基本は携帯式のトイレを使うけどそんな時間がない場合はその辺に全部出してしまうのが基本的よ」

「……ヒエッ!」


 あたしは思わず地面から飛び上がる。もしかしたらこの地面はウンコまみれ!?


 しかし、レナさんはあたしに構わす話を続けて、


「あと、魔物も排泄はするわ。連中はトイレや衛生なんて概念なんてないからその辺に普通に垂れ流すし、何なら手ですくって壁に塗りたくってるのもいるわよ?」

「いやあああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」


 あたしは思わず全力でダンジョンから逃亡してしまった。

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