それは風に舞う木の葉のような
「そんなに固くならなくてもいいじゃ無い。リラックスリラックス。これから長いんだから、そんなに緊張してたら持たないよ」
にこやかな笑顔でそう話す雄大さんのそばで、私は足下の畳をじっと見ていた。
と、言うよりそうする意外何も考えられなかったのだ。
私の雄大さんへの予想は正しかった。
だが、この状況でどうすればいいのだろう。
「蛇に睨まれたカエル」と言う言葉がふと浮かんだが、さながら蛇に食べられるのをただ待つしか無い絶望的な気持ちだ。
「何が目的なの?」
「ここに誰か来ても彼が上手く対応してくれるだろうから問題ないか。では単刀直入に聞こう『情報』はどこにある?」
「情・・・報?何、それ」
私は混乱した頭で言葉を絞り出した。
何の情報なの?
雄大さんは私の前にしゃがみ込むと、それまでの笑顔を消し無表情になって言った。
「もう一度聞く。情報はどこにある」
「ほ・・・ホントに知らな・・・」
そこまで言ったところで私は息を飲んだ。
雄大さんの手に手品のように現れた銃が、私の心臓に押しつけられたのだ。
「しゃべるか、心臓を打ち抜かれるか選べ。あ、ちなみに心臓を撃たれると苦しいよ。すぐには死ねないし、大動脈解離の酷いバージョンだから想像を絶する激痛だし」
「ホントです・・・知らないの」
私は恐怖で歯をガチガチ鳴らしながら、必死に言った。
「あ、そう」
まるで世間話のように気楽な口調で言うと、雄大さんが引き金に添えた指に力を入れるのが分かった。
「嫌!許して!知らない・・・知らないんだって!」
泣き叫びながら怒鳴るように言ったが、彼の指は止まらない。
そして・・・
カチン。
銃は乾いた音を立てただけで弾は出てこなかった。
「あ・・・」
私は顔を涙でベタベタにしたまま恐怖と安堵で気を失いそうになったが、何とか踏みとどまった。
意識を失ったらどうなるか。その事への恐怖が勝ったのだ。
「初歩的な拷問だよ。しかし、訓練を受けてない女の子がここまでしらを切れるとは思えない。本当に知らないのか?」
「だから・・・知らな・・・いんです」
泣きながら話す私に雄大さんは気だるげに言った。
「考えてみればアイツらも君に話したら、何かの拍子に漏れるリスクも高いし、そこまで馬鹿じゃ無いか。と、言うことは君が知ってるってのはブラフ。詰まらない小細工だね。ってか、とことん屑だな。それで斎木蒼がどんな目に遭うかも分かるくせに・・・オッケー、路線変更だ。今から君を別の場所に連れて行く。そこで徹底的に調べさせてもらうよ。身体の中まで」
「身体の・・・中?」
「そのままの意味。外科手術。身体の中に隠されている可能性がいよいよ高くなってきてるからね」
「そんなの・・・嫌です」
また激しく歯がガチガチと鳴る。
酷く震え始めているようだ。
「悲しいかな、ここでの君の価値は風に舞う木の葉よりも軽い。ただ、長い付き合いのよしみでちょっとくらいは質問に答えてあげるよ」
「何で・・・私なの?お父さんとお母さんが何に関係あるの?」
雄大さんは少し考えるように小首をかしげたが、すぐ私の方を向いた。
「本来はその質問はNGなんだけど、いいだろう。特別に教えてあげるよ。ご両親にも見捨てられてた哀れな君への餞別だ」
見捨て・・・られた?
意味が分からない。
思わず身体を硬くした私に向かって、雄大さんは同じく表情を硬くしていった。
「君はご両親についてどこまで知ってる?」
「それは・・・外国の雑貨屋に色んな商品を卸しているって。後はお人好しでのんびり屋って事くらい・・・」
そこまで話すと、雄大さんは笑いながら手で制した。
「ストップ、ストップ!ヤバい、ツボに入っちゃった。マジでウケる。いやいやいや~知らないってのは恐ろしいね。うん、一気にテンション上がってきた。よし!張り切って言っちゃうか」
そう言うと雄大さんは片手で膝を打つと、私を楽しそうに見た。
「君のご両親・・・あの屑たちは、違法薬物の国内最大のネットワークを作った連中なんだよ」
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