第3話 恋愛感情はないそうです
殿下は大股でどんどん歩いて行ってしまう。私は小走りして追いつく。
これを数回繰り返した後、エドワードがふいに立ち止まり、背中を向けたまま話し始めた。
「エルザ、あのような小娘と私が遊ぼうと、そなたはどっしりとしておればよいのだ。そなたは正室であり、私の唯一の妻だ。どんなに他の女が私にまとわりつこうとも、そなたの地位を脅かすことはない」
「ありがとうございます。申し訳ございませんでした」
そんな形だけの妻を望んでいるわけではないが、まさかこれが殿下なりに考えた私に対する思いやりの言葉なのであろうか。正直、蹴飛ばしてやりたいが、この男の人間性を変えることは出来ないであろう。ここはお礼を言って、謝るのが正解だ。
「まさかパルマの者が出て来て、邪魔立てするとはな」
私も王妃教育のときに、パルマ家のことは聞かされている。パルマ家のルーツは前王朝最後の王妃エリザベスの実家だ。
エリザベスは前王朝滅亡の原因とされている。現王朝の最初の王ファーストが前王朝を倒したのは、エリザベスを奪うためだったと言われているからだ。
だが、ファーストは前王朝を倒してエリザベスを娶ったものの、諸般の事情で彼女を正室にすることは出来ず、別の女性を王妃として迎え、今の王家はそちらの血を継いでいる。
エリザベスを正室には出来なかったものの、ファーストは彼女のみを深く愛したと言われ、彼女との間に生まれた子供にパルマ家を継がせて、王家は未来永劫パルマ家を敬い、害してならぬ、との遺言を残した。
王家にとってファーストの遺言は絶対であるが、パルマ家も特別待遇に慢心することなく、舞台裏から王家を支え続け、いつしか「裏王家」と呼ばれるようになった。
また、パルマ家には代々魔法の能力が高い人物が現れ、そもそも戦力的にパルマ家には手を出せないらしい。
「しかし、なぜパルマの名前を出してまで、シエルはソフィアのパートナーにこだわるのだろうか」
「あの子のことが好きだから、ではないのでしょうか?」
「好き? バカなことを申すな。そんなつまらない感情で、裏王家が王家と揉めるはずがなかろう。いい機会だから言っておく。そなたに対しても私は恋愛感情は一切ない。そなたは優秀で魔力も高く、容姿も家柄もよい。最も王妃に適しているから娶るのだ」
「……はい、心得ております」
親に決められた結婚相手ではあっても、私はエドワードを好きになるよう努力して来た。これまでも、ここまではっきりとは言われなかったが、冷たいと感じることが多々あった。その度に何か理由をつけて、直視しないように避けて来たが、今の言葉で吹っ切れた。
好きになるのは諦めよう。その気も完全に失せた。
そう思った途端、私は自分が牢獄に閉じ込められているような気分になった。
王子に刃向かってまでも守ってもらったソフィアが羨ましい。私もシエルのような人から想われたい。
私はこの日を境に、この婚約から何とか逃れる手はないかと考えるようになった。
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