愛のない結婚はごめんですわ
もぐすけ
第一章 学園編
第1話 順風満帆のはずでした
私はエルザ・ミッドランド。ミッドランド侯爵家の長女で十七歳。十歳のときに同い年の第一王子のエドワードと婚約した。
婚約に思うところは特に何もなかった。結婚相手は親が決めるものだし、エドワードは容姿に優れ、頭もいい。かなり俺様的な思考の持ち主だが、私には概ね紳士的に接してくれる。
いずれは王太子になり、王位を継ぐだろう。そうなれば、私は王妃となる。
それを見越して、すぐに親元を離れて王宮に入れられ、十五歳までスパルタ式に王妃教育を叩き込まれた。
十六歳からは、エドワードといっしょに近くの魔法学園に通っている。今も王宮暮らしだが、ようやく学生らしい生活を送ることが出来てほっとしている。王妃教育のことを思い出すと、今でも反射的にお腹が痛くなる。
この後、学園で三年間魔法を学び、卒業して一年間の軍役に就いた後、結婚するのが私の人生だ。私は自分の人生に疑問を持ったことはないし、幸せだと思っていた。
卒業まで半年となった今、目の前にいる美形の男子生徒の話を聞くまでは。
「殿下が女生徒とペアを?」
私は男子生徒に聞き直した。
「はい、相手はソフィア・ベリタティス嬢です」
ソフィアを知らないものはこの学園にはいない。今年入学してきた非常に美しい新入生で、ずば抜けた魔力と魔圧を持つ特待生だ。
だが、魔法の構文が不得手で、入学して半年経っても初級魔法しか使うことができず、特待生待遇を剥奪されるのではないかと噂されている。
「なぜ殿下がペアを?」
「ペア魔法戦でソフィア嬢が結果を出さないと、学費の免除など費用面での特待生特典を凍結すると殿下が仰せで、そうならないように殿下がペアを組むそうです」
「殿下に特典を凍結する権限はないはずよ」
「初級魔法しか使えない生徒を支援するのは、国庫の無駄遣いだと王政府に訴えるそうです」
確かに王子が訴えれば、文部大臣が動く可能性はある。
「それで、彼女はどう答えたの」
「彼女は承諾したようです」
ソフィアの家は片田舎の貧乏貴族で、一家の期待を背負って学園に入学したと聞いている。特待生待遇が得られなければ、学園に居られなくなる。そのため、ソフィアは必死だろう。
「そんな話は初耳だわ」
「はい、つい先ほど理事長室で話があったそうです」
「シエルさんておっしゃったわね、何故あなたがそんな話を知っているの?」
シエルは黒髪黒目で異国風の顔立ちをしている。容姿が非常に整っており、新入生のわりに大人びていて、妙に色気がある。
「僕は入学以来ソフィアさんにペアのお誘いをしていて、先日やっと承諾して頂いたばかりだったのです。それが先ほど断られまして、事情を聞いたところ、殿下の話が出て来たのです」
「それで私のところに来たってことかしら?」
「はい、そうです。エルザ様がいらっしゃるのに、他の女性とペアを組むのはおかしいですから」
確かにおかしい。
魔法のペアは魔力の供給を行うサプライヤーと魔法を構築するアタッカーが組んで魔法を起動させる。息が合わないと、アタッカーが魔力焼けをして、最悪の場合、死んでしまう。
そのため、男女でペアを組む場合、サプライヤーと深い関係を持つものがアタッカーを務めることが多いのだ。
婚約者のいる身でありながら他の女性とペアを組むというのも奇異な話であるし、そもそも、将来、国を背負う重責のある王子が、アタッカーを務めるなどあってはならない。
「今、二人はどこにいるの?」
「十七時から魔闘技場で練習を行うそうです」
時計を見るとあと十分で十七時だった。
「分かったわ。魔闘技場に行くわ。あなたもついて来て」
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