第19話 手伝い

「……こちらにお住まいになられるのですか?」

たぬきについては諦めたのか、話題を変える勇者。


「風景がいいからな。ただ、まだ手をつけていないし、ここでなければならない理由はない。邪魔なら移動する」

人も魔人も来ない場所希望です。面倒なんで。


「このあたりから北は、人間はもちろんのこと魔人もおりません。魔素が濃すぎて、魔人となった者たちさえ意思を持ったまま在ることができず、妖魔、魔獣の類が数多く……」

俺を見て話を止める。


 何が出ても平気ですね! 


「私もこのあたりまで来るには、覚悟と時間制限が要りました。今は【聖女】の力を頂き、つり合った・・・・・ようで問題なくなりましたが」


 今までは魔素の濃さを聖痕で相殺しきれず、魔素に蝕まれてたのか。もしくは結界の魔道具を使っているか。短期間ならともかく、魔人化するやつ。


 【聖女】の力の上乗せで、このへんの魔素も平気になったのか。えー、もっと奥行こうかな?


「俺もめったに来ない。あそこに居たのは超回復するか、意思を失くすか賭けのようなものだった。今は馴染んだようだが」

たぬきもパワーアップした様子。手足短いし、丸いのに。 


「ユウヒ、今の自分の姿に疑問はないのですか?」

「……」

勇者の言葉に黙るたぬき。


 いいんですよ、たるたるしてても。たぬきなんだから。


 勇者はともかく、たぬきにキツイ環境はよくないな。一緒にごろごろできない。やっぱりこのあたりが妥当か。


「ではこのまま、このあたりに拠点を造るとしよう」

とりあえず古民家の解体からだなぁ。


 飯はもう冷めきってるし、諦めよう。レトルト肉の脂が白く固まってしまい、はっきり言って冷めると食えたものではない。温め直すにしても野蒜がな……。後で熱々の飯に載せて食えばいけるだろうか?


「たぬき、そういえば飯は? ドックフードとかの方がいいか? 人型にもなれるなら人間の飯もいける?」

魔物になる前は人間だったし、人間の食事がいいとかありそうだが、たぬきの健康的にどうだろう?


「……魔素があればいい」

ボソリと答えるたぬき。


「人間のものにしてください……。魔素を含んだドックフードなど、ユウヒが良くても私がダメです」

額を揃えた白い指で押さえて勇者が言う。


 食事がいらんという意味かと思ったが、食うことは食うのか。勇者の言葉に認識を改める。ドックフードはだめ、と。


「じゃあ、作業を始める。ちょっとビスケット食いながら休んでろ」

『聖女』の力を手に入れた時点で怪我は治ったようだが、たぬきの短い手足では手伝いにならない。


 カバンの近くに下ろして、スティック状の四角いビスケットを渡す。飯がわりになるちょっと塩気のある腹に溜まるやつ。普通の食料が尽きる前に、町に行きたいところ。


 一部屋先に仕上げて転移のための魔道具を設置しよう。他は後からゆっくりってことで。


「狼君、五日後くらいに町まで送迎頼む。では、解散で」


 俺がそう言って体の向きを変えると、少年と狼君、びくっとしたのち、固まっていた様子の体からへなへなと力が抜けるのが見えた。正面顔だめだったの? ごめんね?


 とりあえず要らん建具の回収から。異空間に放り込んでくだけなので、これはすぐ終わるはず。


「お手伝いを」

勇者が上着を脱いで腕まくりをする。


「……じゃあちょっと壁を崩してくれないか?」

正直勇者の存在というか、几帳面そうな存在はだらだらしたい身としては鬱陶しいのだが、手伝いはほしい俺。


 俺のごろごろ御殿が出来上がるまでは猫の手も借りたい。そして几帳面な人は、仕事のパートナーとしては素晴らしい。俺にも几帳面にやれという圧さえなければ……っ!


「壁も結構な魔素を含んでいるようですが」

「崩れて建物から離れたら収納ができるんで。できれば素材ごとに分けて欲しい」

後で使い道は考える。


 土が崩れたところから竹の骨組みが見えてるんだよね。


「なるほど」

納得した顔で壁を壊し始める勇者。


 剣でガッスっとね。


 勇者、破壊活動得意だな? 勢いに乗ってつい全部とかはやめてね? 器用そうだし大丈夫だと思うけど。というか、柱に土塊一つ残してないな? いいのよ、もう少しゆるくても。いや、性格的にきっちりにしないと気持ち悪いんだな?


「ん? たぬき、どうした?」

綺麗な破壊活動に勤しむ勇者を見ていたら、たぬきが寄ってきた。


「たぬきも手伝ってくれるのか?」

手足短いから無理じゃないかな? 勇者のつけた地面の斬撃の穴でも埋めておいてもらおうか。


「ユウヒ様! 手伝いなれば我が!」

少年もやってきた。


 狼君もその後ろで様子を窺っている! 児童虐待とか動物虐待にならない? 見た目年齢じゃなく過ごしてきた年齢でいいの? でも種族によって子供の期間って違うよね?


「まあ、じゃあ屋根の茅を落としてくれるか? 拭き直すから。でなければ敵対する魔物狩りとかでもいい、素材欲しいから。采配はたぬきに任せる」


 狼君のことを小さな魔物は避けてたし、たぶんいけるよね? 俺はどの程度の力があるか知らんし、どっちか楽な方でいいぞ。たぬきも魔王たぬきなんだから采配ならできるだろうし。


 あ、仕掛けた罠の方にはいかないでね?

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