第256話 テラjrの迷い

 これで、魔王軍の四天王の内3人を倒すことが出来た。後は、3人の魔人だけだ。


 一気に次の階層に潜ってもいいのだが、竜人のことも、少しは考慮した方が良さそうなので、少し休憩することにした。


 「スピア、ちょっと頼みたいのだけど、いいかな?」


 「何?」


 「竜人軍の様子を調べて欲しいんだけど」


 「何だ、そんなこと。いいよ」


 スピアは、直ぐに風が吹くように消えてしまった。それから、私はマリーに思念伝達で、連絡を取った。


 「マリー、今、話しても大丈夫か?」


 「はい、テラjr様。何でしょうか?」


 「私達は、もうすぐ、最後の階層に向かっていくつもりだが、竜人軍は、どんな様子だ」


 「特に問題なく、魔物を倒しながら、進んでいます。テラjr様たちが、強い魔物を倒しているので、ほとんど被害が出ていません。もうすぐ、第3階層に潜る所です」


 「マリーも危険だと思ったら、直ぐに離脱するんだぞ」


 「はい。ご心配かけて申し訳ありません」


 「無理はするな」


 「はい」


 私は、マリーとの思念伝達を切って、スピアの戻りを待った。シロッコス達は、休憩を取りながら、食事をしていた。特に、怪我人もなく順調に、此処までやって来れた。これは、こちらの力や作戦がうまくいっているからではない。単に、運が良かっただけだ。だが、これからは、そんな運に頼ることはできない。思わぬ痛手を負ってしまいそうだ。


 私は、シロッコスを呼び寄せて、これからの事を相談することにした。


 「テラjr、何でしょうか?」


 「これからの戦いについて、シロッコスは、どのように考えている?」


 「魔王がまだ、完全復活していないので、攻撃を掛けるのは、今の内だと思います」


 シロッコスからの返事は直ぐに帰って来た。


 「確かに、魔王が復活する前に倒したい。しかし、直ぐに魔王は復活するのだろうか?」


 「それについては、定かではありませんが、マナをどれだけ吸収するかに掛かっているでしょう?」


 「そうだ。魔火山がいつ噴火するか、それに掛かっている」


 「その時期が分かるのでしょうか?」


 私は、少し考えてみた。魔火山の噴火は、大気のマナの密度によって決まるのだろうか? それとも、他の条件があるのだろうか? そして、まだ、私は聖剣を使っていない。そのため、魔人を完全に殺してはいない。また、聖剣で殺したら、もう、2度と復活しないのだろうか? これについては、疑問だ。というのも、魔人は、魔王が召喚する。従って、魔人は死んでいても、召喚されそうだからだ。


 そして、魔王は、聖剣で、完全に殺せるのだろうか? ひょっとしたら、完全には、殺せないのかもしれない。


 だが、今、それを考えても仕方がない。取り敢えず、倒してからの話だ。


 「わからない。だが、こちらの戦力は、今のままでいいのか?」


 「かなり厳しいと思います。これまでの魔人以上に強力な魔人と考えた方がいいでしょう」


 「そうだな。ここまで攻め込んで来たので、人間界に魔物が溢れてくる心配は、解消したのでは?」


 「確かに、この魔大陸に入る前とは、状況が異なっていると思います。そういう意味では、当初の目的は果たせています。ですが、直ぐに魔王軍は、元の勢力を取り戻すことが出来るのではないですか?」


 「確かに、それほど、時間は掛からないかもしれない。だが、このまま攻め込んで、確実にこちらが勝ちを得られるのか? 私は、疑問だ」


 「確かに、厳しいと思います」


 シロッコスと話している間に、スピアが戻って来た。


 「ただいま!」


 「どうだった?」


 「特に問題はなさそうよ。新たに魔物がや魔人が復活していることもないので、竜人軍に危険は及んでいないわ」


 「わかった」


 私は、もう一度、マリーと思念伝達で連絡を取った。


 「マリー、確認したいことがある」


 「はい。何でしょうか?」


 「竜人軍は、私達のことを知っているのか?」


 「多分、知らないと思います。私自身、何時通り過ぎたのか、気が付きませんでした」


 「ありがとう」


 私は、マリーとの思念伝達を切って、最後の決断をすることにした。


 私は、デーモン・シールドの全員を呼び、これからの事を相談することにした。


 「おそらく、後1か2階層で、魔王に対峙することになる」


 デーモン・シールドの皆も、頷いている。これから、最後の決戦になることは、知っているようだ。


 「いつ、魔王が完全復活するのか、それは、分からない。そして、完全復活したときに、私達で勝てるのか、それも分からない」


 私は、現在の状況を隠すことなくすべて話すことにした。


 「私自身も、戦ってみないとどうなるのかわからない。ただ、これまでのように無傷という訳にはいかないだろう」


 「覚悟は、出来ています」


 レオナルドが、声を出した。他の者も、皆、同意しているようだ。


 「私も、覚悟はできています」


 珍しく、サーキが、声を発した。表に出ることが得意でないサーキですら、もう、決意が出来ているようだ。


 「皆の気持ちは、わかった。だが、私は、一人も失いたくない」


 私は、もう一度みんなの顔を見渡した。何人かは、少し、驚いたような顔をしている。戦いに来て、死にたくないという者はいない。それをリーダーが言うのか、という、怪訝とした顔をしている者もいる。


 「皆には、申し訳ないのだが、私は一旦退却して、戦力を強化してから、ここに戻って来たい」


 全員が納得しているわけではない。だが、このまま攻めてもこちらの被害が大きくなりそうだ。


 「その時には、また、皆に力を貸して貰いたい。どうだろうか?」


 「分かりました。その代わり、その時は、必ず、声を掛けてください」


 不思議な事にまた、サーキが声を出した。他の者も、渋々了解したようだ。


 私は、最後にマリーに撤退することを思念伝達で伝えた。そして、隠密魔法で、全員の姿を消してから、魔大陸を抜け出した。

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