供養 ◇
頭の中でめっちゃ『サウダージ』流れてる……何故だブラッドリー……。
昨日、T氏からのお題を一旦書けたんですけど、倫理的にどうなんだろうとふとなって没に。下のは没の没。
こんな感じの話にしたいなーみたいな予告。なのできっと色々変わります。
◆◆◆
物心ついた時には、富樫は真っ白な紙に向き合い、絵を描いていた。
最初はクレヨン、年齢と共に鉛筆へと変わっていき、中学入学と同時にスマホを与えられてからは、イラストサイトやSNSに自身の絵を投稿するようになった。
描いているのは主に、妖怪や幽霊の絵だ。
父親の趣味で、富樫の家には数多の妖怪絵や怪談小説があり、幼少の頃よりそれらに親しんできた富樫は、好んで妖怪や幽霊の絵を描くようになった。
使う色は白と黒のみ。富樫はクレヨンを使っていた頃からその二色しか使ってこず、白と黒のみで描かれる絵はどこか鬱々とした美しさを見る者に感じさせ、富樫の絵のファンはそれなりにいた。
他の色を使わない理由は特にない。白と黒だけで描きたいものを描けるからそうしているだけだ。
ひたすら毎日、絵を描くだけの富樫。そんな彼も高校生になり、バイトをしてみたいと思った。親から小遣いをもらっているが、画材なり美術書なり、学生の小遣いだけではとても足りなかった。
さてどうするかと求人情報を探している時──変なものを見つけた。
『幽霊の絵を描いてみませんか?』
指定する場所に赴き、指定した幽霊を描くだけの、簡単なお仕事。
服装自由、交通費全額負担、特別手当てアリ、用心棒付き。
何よりも仕事内容に強く惹かれた富樫は、気付いた時には必要事項を記入した上で応募していた。応募してから気付いたが、富樫は幽霊を直にその目で見たことはなかった。
自身のうっかりに富樫は気落ちしかけるが、すぐにこのことを伝えなければと、急いで求人情報に記載された番号に連絡すれば──そんなことは気にしなくて大丈夫ですよと返答をもらえた。
『幽霊を視る為の特別な眼鏡があるので、就業中はそれを掛けて頂きます』
安心して通話を終えた富樫は、初バイトの日を指折り数えながら日々を過ごし──当日、求人情報にも記載があった用心棒との初顔合わせで、初めて、もしくはやっと、このバイト大丈夫なんだろうかと疑念を抱いた。
「用心棒の黒木だよ。たまに襲ってくる幽霊とかいるけど、そん時はぼくがこれでばちこーんってやるから、君は安心してお絵描きしてて。あ、これ眼鏡。終わったら返してね」
帯も布地も全て黒い着流しを身に纏う、伸びた前髪で目が隠れてしまっている黒髪の青年、黒木と名乗ったそいつは──純白の大きなハリセンをその手に持っていた。
待ち合わせていたのは目的地の最寄り駅。時間は正午を少し過ぎた辺りで、傍にはそれなりに賑わっている商店街があるせいか人通りは多く、通行人の視線がいくつも黒木に、黒木のハリセンに突き刺さっている。
富樫も通行人と同じくハリセンに釘付けになり、何も言えずにいたら、ハリセンを持っていない方の手で軽やかに黒木が肩を叩いてきた。
「初めてなんでしょ? 大丈夫、最初から死ぬ危険性のある案件は回さないと思うし、そうならないようにぼくが守るから、心配しないで」
「……死ぬ?」
「死なない死なない」
「……」
後悔しても、もう遅い。
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