05.これが運命か(ベルSIDE)
いきなり光って召喚された。魔王である俺を召喚するとは、運の悪い奴だ。にやりと笑って身を任せる。
目を開けると、月明かりの下でドラゴンの幼体が鳴いていた。痛い、助けてと叫ぶ指先は、切られて踏み躙られていた。人族か、奴らはなぜか弱者を虐めることに喜びを見出す醜い種族だ。
俺を呼んだのは、この子か。魔力量はさほど多くない。声をかけても、きょとんとした顔だ。俺を召喚しておきながら、まったく自覚がないようだ。なるほど……興味深い。
戦うことを知らぬ幼竜を助け、拾い上げた。途端に何かがカチンと嵌ったような、不思議な安堵を覚える。腕の中で泣きじゃくる子どもの、指を舐める仕草に惹かれた。
痛いと涙を溢す姿は、ドラゴンという強者の種族に似合わない。だが、この幼子なら許せる気がした。ぺろりと舐めて癒す。傷を消し、指を元通りに整えた。口に入った血を吐き捨てようとしたところで、子どもは思わぬ言葉を口にした。
「綺麗」
どきりと胸が高鳴る。これは……間違いない。俺はこの幼竜に求愛された。体液を差し出し、相手を褒める行為は俺の世界で求婚を意味する。まだ幼いながら見どころのあるドラゴンだ。
いろいろ理由をつけたが、正直、一目惚れだった。艶のある鱗は月光の銀色、青と赤のオッドアイ。青い血を持つ、上位種族だ。ころころと変わる表情や、丸みを帯びた体のライン、何もかもが素晴らしい。
何より、この俺を見て泣かないのが決め手だった。別世界の竜種だからか? 俺がいた世界では、誰もが俺を恐れて近づかなかった。顔を見れば泣き、触れれば命乞いをする。一様に同じ態度を取られれば、さすがに辟易するものだ。
魔王として最高位についたが、それも虚しくなる孤独の中にいた。命を助けたとはいえ、幼竜は無邪気に俺の腕で笑う。その笑顔から目を離せなくなった。
「ウェパルです!」
尋ねれば勢いよく名乗った。それはいいが、いきなり本質を示す真名を名乗るのは……俺を口説いているのか? 支配されることを恐れず、俺に真名を差し出すなど。別世界に召喚されたため、常識が違う可能性に気づいて名を呼んだ。
ぱっと反応した様子から、真名は有効だと知れた。無知なのか、無防備なのか。だから人族に捕まったのだろうな。両親の行方を聞けば、いきなり呼び出されたという。だが、この場に召喚を扱える人族はいなかった。殺したからではなく、元からいない。
呼び出した者がいないのに、この場に呼ばれ窮地に陥ったウェパル。魔力量が明らかに不足しているのに、正式な手順を踏まずに俺は召喚された。
――これが運命か。
なるほど、俺はウェパルと番うために強さを得たらしい。この世界にも魔王がいるなら、最高位に立てばよいだけのこと。異世界を制覇するのも悪くない。
「ベル様」
にこにこと名を呼ぶウェパルは、俺の真名を発音できなかった。幼いからか? 弱者は強者の真名を呼べない法則が、ここでも発動しているのか。可愛いウェパルは笑顔を振り撒く。
俺の服をきゅっと握り、一生懸命話をしてくれる。この手を離したくなかった。まずは、両親を探して……伴侶に貰い受ける宣言をしなくては。実際に番うのはかなり先だが、誰かに奪われてからでは遅いからな。
浮かれながら転移魔法を使った。愛らしいウェパルを落とさぬよう、両手でしっかり抱きしめて。
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