第26話 ニのボス

 イノシシとウシ。今私達の前にいるのはその二体。

 どちらも巨大。突っ込んでこられたら一発で負ける。

 私達が今しているのは逃げること。

 だが、逃げてばかりではいられない。

 なぜなら、私達はこの階で休憩がしたいから。そして、ボスを倒さなければこの先には進めないから。

 やるしかないのだ。私達が進むためにも。

 とか考えておきながら、私は何も作戦とか浮かんでこない。

 そういうのを考えるのは得意ではないのだ。


「ヴォルフーどうしよう……」


 私はヴォルフの背に乗ったままだったので相談した。


「さっきはセリが考えてなんとかなっただろ?なんか浮かんでこねえのか?」

「浮かんでこないから困ってるの!」

「って言われてもな」


 ヴォルフそう返事をした。

 確かに一度目のボスを倒した時は私の案だった。けれど、あれは上手く当たっただけである。今目の前にいる、というか、動き回っている二体を倒そうと思うとどうしたらいいか思いつかないのだ。

 傷をつけずに倒す方法を考えたい。


「ライオスとニコは無事⁈」

「無事だ。セリナも気をつけろ」


 私は少し離れたところで逃げ回っている二人に声をかけた。

 ライオスはニコを守るようにしているようだ。守るように戦うのは大変。

 守る者がいるから強くなれる。ライオスはそのタイプかもしれない。それなら心配はいらない。それに、ライオスがケガをしたとしてもニコはすぐに助けるだろう。


「さて、私も集中しなきゃだね」

「お前はこの状況をどうにかする方法だけ考えとけ」


 ヴォルフにそう言われた。

 走り回るのは任せろと言われているみたいだった。頼もしい限りだ。

 私は言われた通り、考えてみることにした。方法、か。

 イノシシとウシ……

 スピードが速く、身体が硬い。ただそれだけ。他にはなにもない。毒を持っているわけでもない。

 しかし、ウシを見ていて気づいたことがある。あれは目についたものしか攻撃してこない。イノシシは無差別だが。

 それならば、どうにかなるかもしれない。

 使っていなくて忘れかけていた私の新しいスキルも使える。


「よしっ、やろう!」

「なんか思いついたか」


 私は拳を握って意気込んだ。

 使い方とかそんなの分からなかった。

 それでも、使うことができる私のスキル。

 思うだけ、念じるだけで良かった。

 そしてできた。私の分身五体分。

 

「それでなにを⁈」


 ライオスが遠くから不思議そうに見ていた。


「少し下がっててね」


 私は自分の分身をイノシシの周りに行かせた。そしてぐるぐると、イノシシの周りを走らせる。こちらの倒し方は単純。目を回らせ倒れてもらうだけ。それだけだ。

 思った通りにはなった。

 まだ分身は消さない。ウシが残っているから。今度はウシの視界に入るようにジャンプしたり大声を出させたりする。

 ウシは視界に入った敵を攻撃する。

 だが、沢山のものが視界に入ってしまえばどこに行けば良いのか分からない。

 

 つまり——

 自分がどこに行けばいいのか迷って足が絡まり倒れる。私の思っていた通りとなった。

 そして消えた。私の分身達もいなくなった。どういうシステムになっているのかは分からないが、倒れたと判断したら自動的に消えてしまうのだろうか。

 それは少し悲しい。それがこのダンジョンのシステムならば仕方のないことだ。


「終わりましたね」


 ニコが言う。

 ケガはしていないようだ。


「セリナの新たなスキルが役に立ったな」


 ライオスが言った。

 最初のボスを倒して得た力が役に立った。

 使わなくてもどうにかなったかもしれないけれど、せっかく得たものだからね。

 使ってみたかったのだ。


「まっ、全員無事で良かったな」

「そうだねーって、ライオスなんか一瞬光った⁈」


 私の見間違いかもしれないが、光ったような気がした。


「む?もしや今度は俺にスキルが増やされたのだろうか」


 ライオスは冷静にそう言った。

 スキルの付与。次はライオスだったのか。

 やはりこのダンジョンではそのようになっているのかな。

 光ったから驚いた。


「なにか変わったような感じはあるんですの?」

「うーむ、速く走れそうな気はするが……あと、滅多なことでは傷がつきそうにないな。身体が硬くなったようだ」


 ライオスが説明してくれた。


「傷がつきにくくなったなら良かったね」


 私は笑った。

 ケガには気を付けて欲しかったから、ケガしづらくなるのならそれに越したことはない。


「そうだな」


 そうして私達は十階までを攻略し終えたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る