魔女っ娘の尋問
神奈は当摩を占い屋台のテントの中に連れてくると、おもむろにタロットカードをいじりはじめた。そうやって無言で占っていたのだが、しばらくして口を開け。
「うん、やっぱりわからない。さっぱりわからないわね」
と言った。わからないのは当摩の方だ。
「一体何が?」
「あなた魔術師じゃないわよね?」
「そんなわけないだろ。俺は至って平凡な学生だって、というか神奈ちゃん高等部からずっと同じクラスだったじゃん、今年で三年目だよ」
「顔と名前くらいは微かに記憶にあるような気もするけど……私がこんなことを見落とすはずはないわ」
「微かに記憶にあるだけっすか……」
当摩の方はじつは神奈にずっと憧れていた。確かに外見がすこぶる良いのもあるが、それ以上にアメリカ大統領より重要なんて言われる『三大魔女』でありながらクラスのどんな人間にも分け隔てなく優しく接する人柄に憧れていたのだ。
「こんな魔術耐性見たこともない、あなたあのヤクザたちが死んでるように見えたわけよね?」
「確かにかなりグロイシーンに見えたけど」
「そう……」
また神奈は考えこむ。
「まあいいわ……あなたしばらく私に付き合いなさい」
「えっ⁉ 付き合えって?」
「具体的にはオカルト研究会の活動と異世界探索ね」
「そんなこと急に言われても……」
当摩は困惑した、特に異世界探索には少しビビッていたのだ。
「なに? 甲子園を目指しているわけじゃないんでしょ?」
「確かに俺の見た目は野球部っぽいが、漫研なんだよね」
「じゃあ、すぐに辞めて明日からオカ研に入りなさい」
取り付く島もない。
「あのぉ……異世界ってモンスターとかと戦うんだよね?」
「必要があればモンスターを狩ることもあるわね」
「そういうの……凄く苦手なんだけど」
「私と一緒なら、死んだり霊体が傷付くことは防いであげる」
「はぁ……」
(それは戦ったりしなくていいってことなんだろうか?)
聞くのが怖い。
「魔導ゲームブックは持っているの?」
「持ってないです」
魔導ゲームブックこそ魔術革命のきっかけになった物だ。
枕元に置いて寝ると異世界に行った夢が見られるという、どっかの
発売日は千九百九十九年十二月三十一日。その日を境にオカルトは迷信ではなくなった。
魔術を科学で解明することは出来ない。魔術は
それはこれらが概念であるためだ。
位置エネルギーというもので少し説明してみよう、位置エネルギーは航空力学などの計算に使われる概念の一種だ。物が高いところから低いところへ落ちるときのエネルギーだ。
富士山頂の石は多大な位置エネルギーを秘めている。しかし、その石をどんなに調べようとそんなエネルギーは検出されない。
もっと身近に数字で示してみてもいい、宇宙のどこを捜しても数字の一は落ちていない、しかし数学を迷信だという人間はいないだろう。
神様も感じることはできる、世界の調和の中にその存在を感じることができるからだ。しかし宇宙のどこを捜しても神様はきっと落ちてない。
魔術には大きく分けて
違いは明白だ。明らかに効果が見てとれる魔術が大魔術、一見して効果がわからないのは小魔術だ。
先ほどの神奈の幻術は完全な大魔術だ。タロットなんかはきちんとした魔術の才能のある人が使えばちゃんと占えるが、基本的には小魔術に分類される。
魔導ゲームブックは最も普及した大魔術の
「明日の学園の放課後、オカ研の部室に出頭しなさい、そこで渡してあげるわ」
「それって強制なの?」
「強制よ」
(さようですか……なんか嫌な予感が隠しきれん)
「あなたを思って忠告しておくけど、あなたは魔術的に見てとても不安定な状態よ。それを解消せずにそこらをうろつき回ったら何が起こるかわからない」
「えっ! そ、そんななの?」
「あと三大魔女以外の野良魔術師に見つかったら百パーセント誘拐されて、モルモットにされるわ」
「ええっ! マジかよ」
黒崎神奈はこんなことで冗談を言うような娘じゃない。
「そ……それって直るの?」
「現段階ではなんとも言えないわね。あなたのその状態がどんな原因で起こったのか詳しく調べないと」
「う……うん、なんだかよくわかんないけど、頼むよ。俺も一応長生きしたいし」
神奈は頬杖をついてしばらく考えこんだ。
(やっぱり、こうやって見ると神奈ちゃんって凄い美人だな)
「とりあえず。これを持っていなさい」
神奈が差し出したのは、普通の神社のお守りだった。それもこの辺ではわりにポピュラーな神社のものだった。
「無病息災のお守りだけど、私の魔術が何重にもかかっているわ。これがあればあなたに危険が及んでも、それを事前に察知できるわ」
「へえ……魔女のお守りって、なんか魔法陣とかかと思ってた」
「魔法陣とかでも作れるけど、私は古今東西あらゆる魔術を使いこなすことができるわ。三大魔女なら当然よ」
「そ……そうなんだ。このお守りはありがたいものなんだね」
神奈が少しだけドヤ顔ふうな笑顔を見せた。
(神奈ちゃんってこんな顔もできるんだ)
「おんなじお守りを中国の金持ちに売ったら相場は五億円くらいかしら」
「ぶほっ! ご、五億⁉」
「転売しても効果は消えるわよ。それどころかかなりの
「は……はい、大切にします」
クスリっと神奈が笑う。なんだかとても嬉しそうだ。
「とりあえずはこんなものかしら、明日の放課後、必ずオカ研の部室に来なさい」
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