第8話
私は今タウンハウスの敷地内にある小さな森の中を歩いている。
この森は公爵家の庭師によってきちんと管理されている場所だが、そもそも敷地内に森があることがおかしいと思うのは私だけだろうか。
(さすが筆頭公爵家。王都にいながら森の中を歩いているなんて不思議な気分だなー)
タウンハウスの敷地内ということで私は今一人だ。
先日の一件からは今まで以上にエリザが側にいてくれたのだが今日はいない。
今日は学園が休みなのだがエリザは王太子妃教育のため城に行っている。
エリザが王太子妃になることはおそらくない。
だからもう教育を受ける必要はないのだが、まだ一応は婚約者だからと城へと出掛けていった。
どうやら教育以外にも城に行く理由がありそうだったが私は知らなくていいことだ。
知ったところで平民の私では何も役に立てないだろう。
ルシウスさんも外出しているので一人で何をしようか考えて散歩をすることに決め今に至る。
「うーん!空気がおいしいっ!王都に来てからはあんまりゆっくりできてなかったから今日はのんびり過ごそすぞ!」
そう決めて森の中を歩いているとテーブルとベンチを見つけたのでそこで休憩することにした。
「入り口から程いい距離にテーブルとベンチがあるなんてさすが公爵家の庭師さん!えへへ、ここでお昼ご飯食べよっと」
屋敷の執事さんに散歩に出掛けると伝えたところ、なんとお昼ご飯を用意してくれたのだ。
食事を終えお腹が満たされた私は辺りを見回してからベンチの上に寝そべった。
「こんな格好を誰かに見られたら怒られそうだけど…今は誰もいないしいいよね?」
ベンチに寝そべり空を見上げると木々の隙間から木漏れ日が射し込んでおり、耳を澄ませば風で葉と葉が擦れる音や鳥のさえずりが聞こえてきた。
とても穏やかな時間が流れる中、私は目を閉じた。
この世界に転生してからゆっくりと思い出すことができていなかった前世の記憶を思い出そうとしていた。
前世の私は人見知りが激しく大人しい性格だった。
私の両親は有名人だったのだが、両親ともに私を同じ道に進ませたかったようで幼い頃からその道を歩ませられていた。
けれど私の性格ではとてもやってはいけず、小学校卒業と同時になんとか両親を説得して辞めることができた。
しかし辞めたからといって今までの活動や親のことで目立たずに学校生活を送ることは難しかったが、なんとか大学を卒業して就職することができた。
就職先でも最初は色々聞かれたり言われたりもしたが、仕事が忙しくなってくるとそんなことを気にしている暇もなかった。
毎日残業、休日出勤は当たり前だったが私にとっては『誰も私に注目していない』と心が落ち着けた日々だった。
ただおそらく前世の死因は過労だと思われるのだが。
(久しぶりに前世を思い出してみたけど、今冷静に考えればあの会社ただのブラックじゃん!死ぬほど働くことで心の平穏を保ってた私って相当やばかったんだな…。今はそんなことこれっぽっちも思わないし思いたくない。うん、心の健康って大切だね!)
目を開けると太陽の陽が眩しく感じられたが少し経つと落ち着いてきた。
仰向きで寝ていた身体を横に向けてまた目を閉じる。風が心地いいのでこのままお昼寝をしてしまおうかと思ったその時、
ドサッ
少し離れた場所から何かが落ちた様な音が聞こえてきた。
私はすぐさま身体を起こし辺りを見回した。
「な、なに!?」
辺りを見回すと先ほどまでは何もなかった地面に光っているモノがあった。
ただ光っているとはいってもとても弱々しい光なのだが、その光を見た私は『助けなければ』という思いに駆られ気づけば光に向かっていた走っていた。
光の元に辿り着きその光をよく見てみるとその正体は小鳥だった。
(え、なんで小鳥が光ってるの?それにかなり弱っている…。助けてあげたいけど生き物の治療なんて分からな…)
「あっ!私の魔力で治せるかも!」
試したことはないがきっと生き物も治せると思い小鳥を地面から拾い上げ手のひらで包み込む。
小鳥が助かるように願いながら私は魔力を放出した。
(この子が元気になりますように……えっ!?)
学園で学んだ通りに魔力を放出することができたはずなのになぜか魔力の流れを制御することができなくなっていた。
制御できなくなった魔力はどんどん私から小鳥に流れていっており、弱々しかった光が少し強くなったように感じたが私の魔力は枯渇寸前だ。
(この子は…大丈夫そう。それより私の方がやばいかも。うっ、意識が…)
そうして私は手に小鳥を包み込んだまま意識を失ったのだった。
その直後、小鳥から放たれた眩い光に誰も気づくことはなかった。
「うっ…ここは?」
「オルガ!」
「エリザ?…あれ?今日は確かお城に行ってたはずじゃ…?」
「もうとっくに帰ってきたのよ。城から帰ってきてみればオルガが森で倒れてたっていうから心配したのよ?どう?身体は起こせそう?」
「どうして私倒れたんだっけ…あっ!光る小鳥は!?」
「オルガ落ち着いて!光る小鳥かは分からないけれど窓際の鳥かごにいるわよ。使用人からあなたが大切に抱えていたっていうものだからひとまず鳥かごに入れたのよ」
「よかったぁ。エリザありがとう」
私はベッドから起き上がり夕日が射し込んでいる窓際に置いてある鳥かごに近づいた。
そこには眠っている小鳥がいたが森にいた時のようには光っていなかった。
(あれ?光ってない?見間違いだったのかな?…それにしてもよく見るとモフモフしててかわいいっ!)
「それでオルガ、一体何があったのか教えてくれる?」
「え?あー、あのね今日森で…」
森で起きた出来事を覚えているだけ話したのだが、話し終わった後のエリザは難しそうな顔をしていた。
「魔力の放出を止められなくなるなんて信じられないわ。オルガの魔力放出はかなりの精度だって叔父様が褒めていたもの」
「そうなの?えへへ嬉しいな。でもどうしてだろう?この小鳥と関係があるのかな?」
スヤスヤ眠っている小鳥をツンツンと触ってみる。
やはり思った通り手触りが最高だったがふと最初に触れたときはこんなフワフワな手触りではなかったなと思い出した。
「そういえば最初に触ったときと手触りが違うような…?」
ツンツンモフモフしながら考え込んでいると突然声が聞こえてきた。
『ええぃ!そなたツンツンモフモフしすぎだ!』
「えっ!?だ、誰!?」
「オルガ?」
『そなた、我のことが分からぬのか?うーむ、まぁこの姿では仕方がないか』
「こ、小鳥がしゃべってる…!」
鳥かごを見てみると眠っていたはずの小鳥が起き上がり私を見ていたのだ。
『我は小鳥ではない!我はフェニックスである!』
「フェニックスって…え、えーーーっ!?」
突然の出来事に私の叫び声が屋敷中に響き渡るのだった。
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