ep.11 二柱の死神


 思わず声に出てしまっていたようだ。

 上司の名前を耳にして、霜月の顔が冷えきっている。

 メッセージの内容を読み進めていると、途中で気になる箇所かしょを発見した。


「霜月。上司からの連絡で、ここから先は霜月にも共有するようにって来てるんだけど……」


「共有? 読んでもらってもいいか?」


「もちろん」


 画面を見ながら、共有部分を順番に読み上げていく。


「今夜の仕事について、いくつか詳細しょうさいを伝えておきます。第一に、今回の仕事は保護案件です。危険度はEですが、だからと言って油断は禁物ですよ。回収先などの情報はまた後ほど入れておくので、もし分からない事があれば霜月にでも聞いてください。それと、霜月は不測の事態への警戒を怠らないように……と書いてあります」


 お隣さんがブリザードをまとっておられる。


 どうやらこれは、あまりよろしくない連絡だったみたいだ。

 まあ、あの上司からだしなぁと思ってしまうあたり、私もだいぶ毒されてきたのかもしれない。


「初仕事に保護案件か……」


「保護案件だと何か違うの?」


「保護案件は、危険度が発生する仕事なんだ」


 危険度というのは、その仕事で起こり得る衝突や戦闘、負傷などのリスクを表したもので、新人が行う仕事の危険度はほとんどがF──ほぼノーリスクと呼ばれるものらしい。


「危険度の変動はあまり起こらないとされてるけど、保護案件はそうじゃない。ただ回収して運ぶだけの仕事と違って、この仕事は対象が亡くなる前後の時間も、近くで魂の保護をする必要があるんだ」


「その魂の保護っていうのをする時間が必要だから、危険度も高くなりやすいってこと?」


「勿論それもある。体を離れたばかりの魂は不安定でもろいから。でも、それだけじゃない」


 霜月の表情は硬いままだ。

 どうやら上司から下された初仕事は、思ってた以上に厄介なものらしい。


「魂が保護案件に指定される主な理由は、悪魔が関わっているからなんだ」


「悪魔?」


 悪魔とは、代償と引き換えに召喚した者の願いを叶える存在のことだ。

 死神と悪魔に、何か繋がりがあるのだろうか。


「人間の中には悪魔が好むような魂を持つ存在がいて、そういった魂が回収される際に、保護案件として指定を受けたりするんだ」


「それって、仕事中に悪魔と遭遇そうぐうする可能性もあるってこと?」


 死神なりたてほやほやの新人に、初仕事として任せる仕事ではない気がする。

 脳裏に、「応援してますよ」なんて言いながらわらう上司の姿が横切っていった。


「睦月の言う通りだ。初めから保護案件を当てるなんて……」


 大鎌サイズを握る霜月の雰囲気は、今にも上司を殺りに行きそうなほどだ。


「保護案件の話は帰ってからしよう。鎌の扱い方もだいぶ上達した。後は回収の手順と送り方さえ分かれば、今夜の仕事には問題ないはずだ」


 実践をしている最中、霜月には褒められっぱなしだった。


 いくら何でも褒めすぎではと思う時もあったのだが、そのおかげでやる気が尽きなかったと考えれば、結果的に良かったのだろう。


 その後もしばらく、私は霜月に教わりながら必要な知識や技術を学んでいった。




 日が傾き、周りも薄暗くなってきている。

 ここからは家に戻って、仕事の時間まで霜月と話の続きをする予定だ。


 ふと、誰かに見られているような気がして後ろを振り向く。


 見えたのは、さっきまで私達が使っていた場所と横を流れる川。

 その奥にポツンと建っているレトロな一軒家──それだけだった。


 霜月に呼ばれて前を向く。

 手を差し伸べてくる霜月に、私は自分の手を重ねるようにして置いた。



 人には見えずとも、確かにそこにいた二柱の死神は、一瞬にしてその場から消え去っていった。




序章 始まりの死動  【完】




 ◆ ◇ ◆ ◇




 ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


 初めて書いた小説だけあり、開始から数ヶ月は全てが0づくしの物語でした。

 けれど、発掘してくれた読者の方々のおかげで、少しずつ地下から引き上げられているような気がしています。


 まだまだ未熟な作者ではありますが、今後も一話一話を大切に紡いでいく所存です。

 もしこの物語を応援してもいいと思えましたら、ブックマークや星評価をよろしくお願いします。


 次章からはキャラクターも大幅に増えていく予定です。

 今後もどうぞ、『死神の猫』をよろしくお願い申し上げます。


 

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