④ハードル若しくはそれに準ずるもの

 今回も、ホラーとはかけ離れた、学校の体育由来の「怖いもの」の話になる。ホラーっぽい話は、また追々できればと思う。


 中学生になると、ドッジボールみたいな遊戯めいたことを体育の授業の時間を割いてまでやらされることはなくなった代わりに、球技にせよ陸上競技にせよ、より本格的な種目が取り上げられるようになった。

 ハードル走も、中学校で初めて触れた種目の一つだ。一定の間隔で配置されたハードルを跳びながら速も出さなければならないのがハードル走であり、テンポよくハードルを跳ぶには、きちんとしたフォームをもってしなければならない。

 定期テストの点数のお陰でどうにか「1」は付けられずに済む、というくらい体育が苦手だった私は、もちろん、正しいフォームなど身に付けることはできず、今となっては忘れてしまったが、おそらく、ハードルの手前で立ち止まっては不格好に跳んでごまかしていたのだろう――と、思う。


 ある日のこと、跳ぼうとして上げたつもりの脚が上がっていなかったのか何なのか、自分でも全くわからないのだが、ハードルを跳び損ねて、左脛をハードルの上部に強かに打ち付けてしまった。脛は言わずもがな人体の急所の一つである。語彙力がなくて申し訳ないが、とにかくめちゃくちゃ痛かった。大人になってから軽い交通事故で車に腰をぶつけられた時より痛かったかもしれない。

 授業の残り時間をどう過ごしたかは覚えていないが、授業後の休み時間にジャージを脱いだら、ぶつけた箇所の中心部は擦り剥けて傷になって、その周りも青あざになり、腫れ上がっていた。一応は跳ぶつもりでハードルに向かって行った結果がこれである。


 怪我の程度を確認した時点で保健室に行けばよかったところだが、思春期だからか、「保健室に行きたいとか言い出しにくいな」という迷いがあり、私は我慢することを選択した。

 したのだがやっぱりとんでもなく痛かったので、一時間耐えた後、教師に申し出て保健室に行った。ちなみに、この時の教師は、私がスカートをめくって腫れた脛を見せたところ、今すぐ保健室に行けと言い切った。きっと第三者的に見ても、割と派手な怪我だったのだろう。


 この時の怪我は、痛かったとはいえ骨を傷めたわけでもなく、何の後遺症もなく治癒した。

 しかし、この一件を機に、私はハードル走ができなくなった。ハードルの前まで来ると、ピタッと脚が止まってしまう。踏切体勢など取れるはずもない。ハードルの手前で立ち止まってばかりの私は、もちろん体育教師には怒られたが、わざと脚を止めているわけではなく、自分ではどうしようもなかった。

 どうやら、「ハードルでなんかすごい痛い思いをした」という経験から、ハードルを跳ぶことができなくなったようだと推測した。いわば精神的な後遺症である。

 影響は似たようなことをする別の種目にも及び、走り高跳びの時も、バーの手前で脚が止まってしまうようになってしまった。


 球技はボールが怖いから駄目。

 跳ぶ系はなんだか踏み切れないから駄目。


 じゃあ単純に「走る」とかはどうなのかといえば……端的に、体力がなくて駄目。駄目尽くしである。そんなだから学校の体育をずっと憎んで生きてきた。大学にまで「体育実技」の必修科目があるの、何なんだろうね。





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