第46話 ジェラールside4


「それからあの鍵はとても大切なものだ!もしも何らかの形で死の森にいるアイツの元に渡れば……っ!ああ、考えたくもない」


「……っ」


「今回は致し方なくお前を行かせはしたが……本来は絶対に近づいてはならない場所だからな。それは昔から強く言い聞かせてきただろう?」


「で、ですが……今回は国民が納得しませんでした!仕方ないではありませんか!」



国民達と共に死の森に行かなければジェラールも王家もどうなっていたかわからない。

それに死の森に近づいていけないのは幼い頃から何度何度も言われていたのでジェラールだって知っている。



「ヴィヴィアンを失ったのもあの森に近づいたせいだ。あの帝国に我々は呪われている」


「あの帝国……?それはベゼル帝国のことですか?」



ベゼル帝国がジェラールが生まれる前に冥王によって滅びた帝国だ。

父はジェラールの言葉に眉を顰めた。



「〝鍵が開けば王家は滅びる〟それだけはよく覚えておけ。お前は鍵を持っているだけでいい」


「……わ、わかってます!」


「それならばいい。もしも鍵を無くせばベゼル帝国の呪いを受ける。王家は終わりだ」


「ですが冥王に敗れたあの帝国のことなど、どうして気にする必要があるのですか?ましてや呪いなど……馬鹿らしい」


「詳しくはお前が王位を継ぐ時に話そう。今はその時ではない。先代国王は……父上はワシの病を治そうとして命を落とした。ワシの病はなんとか治すことができた。おぞましい呪いと引き換えに」



父の真剣な表情を見ると、それが冗談ではないことがわかる。

先代国王はそれは惨たらしい死に方をしたらしい。

ゾッとしたものを感じたジェラールは話を変えようとヴィヴィアンのことに話を戻す。



「父上、今すぐにヴィヴィアンの死体を王家に戻すことはできないのでしょうか!?」


「もう婚姻関係ではない以上、我々にはどうすることもできない。それはお前にはわかるだろう?ラームシルド公爵がこちらに任せると言うならまだしも、どうにもできないことくらい少し考えればわかるはずだ」


「……そ、それはそうですが」


「そんなにヴィヴィアンに会いたいならばラームシルド公爵邸を尋ねてみればいいではないか」



父はそう言ってジェラールに背を向けた。

これ以上、追求すればジェラールが怪しまれてしまうと思い黙り込む。


それにラームシルド公爵の体調はどうやらよくなってしまったらしい。


(もしマイロンに毒を盛ったことが万が一バレていたらどうする……?いや、三ヶ月経っても何も言わないんだ。絶対に大丈夫なはず)


何より今、ジェラールが疑われてしまうことだけは避けたいと思った。

バレていないのだろうが、マイロンに何も動きがないことが不気味で仕方ない。

ジェラールは爪を噛みながら部屋に戻る。


(ここで動けば自分が犯人だと言っているようなものか?しかしヴィヴィアンの死因が僕の証言と違うとバレたとしたら?早々に手を打つべきなのか……それとも)


どのくらい考えていただろうか。

ジェラールには慌ただしい足音も乱暴に扉をノックする音も聞こえなかった。

しかしバンッと大きな音に顔を上げるとそこには……



「──ジェラール殿下ッ!」


「ベ、ベルナデット!?どうしてここに……!」


「ヴィヴィアンがっ、あの女が見つかったって本当なの!?嘘でしょう!?嘘だって言ってよっ」



ジェラールに縋り付くようにして訴えかけるベルナデットの顔は青ざめていて表情は強張っている。

ベルナデットの口を慌てて塞いでからジェラールは急いで人払いを行った。

この会話を聞かれるわけにはいかない。

誰もいなくなったことを確認してから震えているベルナデットの肩を掴む。



「ベルナ、いいから落ち着けっ!」


「三ヶ月よ!?もうあの日から三ヶ月も経ったのにヴィヴィアンの死体が綺麗な状態で見つかったのは何かの冗談でしょう!?」


「……っ」


「嘘だと言って!ありえない……こんなのは絶対に嘘よっ」


「いや……本当だ」



ジェラールがそう言うと、ベルナデットはバイオレットの瞳を大きく見開いた。



「だって三ヶ月よ!?三ヶ月も死んだ人間が形を保っているわけないじゃない!おかしいわよっ」


「……っ、それは!」


「今更になってなんで現れたの!?もう、もう終わったはずなのに、どうしてあの子はわたくしを苦しめるのよっ」


「ベルナ、落ち着けっ!落ち着くんだ、大丈夫だからっ」



ベルナデットはヴィヴィアンの話を聞いて、かなり取り乱している。

ハラハラと流れる涙を拭いながら彼女を抱きしめて、周囲に声が漏れないようにする。


こんな会話を聞かせてしまえば、自分達がヴィヴィアンを殺したことがバレてしまうではないか。

ジェラールも先程まで困惑していたが、ベルナデットを見て冷静さを取り戻す。



「ヴィヴィアンはラームシルド公爵へとむかった。綺麗な状態でいるわけない!きっと肉は腐って骨か何かだろう!?」


「ほ、んとう……?」


「ヴィヴィアンは確かに僕がトドメを刺した。いくらヴィヴィアンでもあれだけの致命傷を受けたら治癒できるはずがないじゃないか!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る