転生者?

 ようやく話が落ち着き、俺は椅子に深々と座るとアクレさんの方を向く。

  

  

「あたらめて、今更必要もないかと思うがこの領地の領主をしているユーリ・ルーサウスだ。この度は王都よりわざわざこの領地のために来てくれて助かった」

「いえ、他ならぬエミリナさんの頼みですからね。教会で神官をしているアレクシア・ノースレイドです。よろしくお願いします」

  

  

 アクレさん改めアレクシアが頭を下げてくる。

 その名前を聞き、俺はフィーの方を思わず振り向いた。

  

 彼女はアレクシアの名前を間違えて覚えていたことに驚き、俺にだけわかるように頭を下げていた。

  

  

「神官……か。聖女ではないのか?」

「私は聖魔法を使うことができませんから……」

  

  

 アレクシアは笑顔を見せながらもそれ以上教えてくれることはなかった。

  

  

「それは悪いことを聞いたな」

「いえ、おかげでエミリナと一緒にいることもできましたし、こうしてこの領地に来てユーリ様に出会うことができました。神様に感謝ですね」

  

  

 両手を合わせてお祈りをする。

  

  

「それでこの領地の様子はどうだった? なかなかに大変な状況だったんじゃないか?」

  

  

 それなりに人は増えてきているとはいえ、この領地の大半は子供たちか傭兵だ。

 その大半を占める子供たちに教育を施しつつ領地経営には影響を出さない、というのはなかなか大変な作業である。

  

 実質俺たちは匙を投げてしまったほどなのだから。

 でもアレクシアはそれをこなしながらもどこか余裕があるらしい。

  

 相当手馴れているようだが、それでもあのアルがおとなしく付き従う姿が想像できない。

  

  

「いったいどんな魔法を使ったんだ?」

「魔法なんて使っていないですよ」

  

  

 そう言いながらアレクシアは腕を組みさりげなく胸を強調している。

 その一つ一つのしぐさが彼女に視線を集めさせている。

  

 それを意図せずに行っていそうなのがたちが悪い。

  

 アルたちが黙って従っているのもそれによるものなのかもしれない。

  

  

「……わかった。あとから教えているところを見に行ってもいいか?」

「もちろんですよ。きっとみんな喜んでくれますよ」

  

  

 ついでに今の畑の状況を見に行ってみたい。

 一時アルは肉畑を作るなんていう世迷いごとを告げていた。

  

 おそらくまともに教養を得た結果、普通に畑を管理してるようになっているのだろう。

  

 領地の発展には食糧は不可避であるためにこの変化は喜ばしいものだった。

  

  

「では、あとからそちらに行かせてもらうとして……、アクレシアは俺に・・させたいことがあるのか?」

  

  

 魔道具の冷蔵庫がそれなりに売れているために金銭面は比較的余裕がある。

 ただ、相手が王都の教会出身者となるとそれは雀の涙ほどのものであった。

  

 まさか偽善で報酬にこだわらずにこんな辺境に人をよこすなんてことは考えにくい。

  

 そのことからこの俺になにかをしてほしいからこそアレクシアが派遣された、と考えるのが一番納得できるものであった。

 するとアレクシアは笑みを浮かべる。

  

  

「エミリナから聞きました。ユーリ様は独立を目指しておいでであると」

「そうだ。俺はこの地で独立をするつもりだ」

  

  

 そのことは皆にも話しているために今更隠すことでもないだろう。

 そもそもエミリナの知り合いなら彼女経由で話がいっているとみて間違いないだろう。

  

  

「私はそのお手伝いをしたいと思っているのですよ。だからこれは教会の思惑、というよりは私個人の望みでありますね」

「どうしてだ? 俺が独立してお前になにかメリットがあるのか?」

「あえて言うならユーリ様と同じ、ですね」

「俺と同じ……」

  

  

 俺の望みは黒幕一家であるルーサウス家の連坐から逃れることである。

 さすがにルーサウス家とアレクシアは無関係だと思うのだが……。

  

 そもそも俺が連坐を防ぐために動いている、というのはゲームの事前情報があるからこそである。

  

  

 ……アレクシアも転生者なのか?

  

  

 もしそうであるならば俺にとってはかなり危険な相手、ということになる。

 もちろんそうと決まったわけではないしアレクシアが俺の目的を勘違いしている可能性もある。

  

 それにアレクシア自身は敵対しようとしているわけではない。

 ならば有効に使うよりほかはなかった。

  

  

「なるほどな。それは心強い。目標達成のためにその力を貸してほしい」

「はい、もちろんです。そのためなら閨をともにすることも厭わないですよ」

「そこは厭んでください!!」

  

  

 隣で俺にしがみついているエルゥが大声を上げる。

 それに同意するかのようにフィーとルナがうなづいていた。

  

  

「さすがユーリ様。すごく慕われていますね。だからこそからからかいがいが……いえ、なんでもありません」

「わかっててやってるだろ……」

「反応があまりにも初々しくてついそそられてしまっただけですわ。では、そろそろまいりましょうか?」

  

  

 気が付くと時間はすでに昼を回っている。

 どうやらこれから子供たちの勉強の時間のようだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る