帰還

 アルフの街へ向けて文字通り馬車羊ばしゃうまのごとくラムを走らせている。

 黒幕一家の一人、ミランダ・ルーサウスは戦闘面で直接戦うことはない。

 しかし、彼女によって学園の大多数が敵に回り、主人公たちに襲い掛かってくる学園襲撃イベント『闇の学園祭』にて、裏を引いていたとされるのが彼女である。

  

 それ以降に黒幕として目立った活躍はないものの、男性キャラが主人公を除いて大抵がミランダに好意的なところをみるとおそらくは彼女にかどわかされたのだろう、と想像ができた。

  

 元々男には目がなく、イケメンとみると他人の婚約者だろうと見境なく奪いかかるという、まさに悪役令嬢の鏡のような人間なのだから。

  

  

「俺の領地で危険そうな相手……、傭兵たちか?」

  

  

 さすがに元裏ギルドのトットやレンが下手を討つとは考え難い。

 そうなると危険なのは街の護衛を担っている傭兵たちである。

  

 彼らがいなくても街としては成り立つが、周囲の危険からは極端に弱くなってしまう。

  

 一応、獣王国や帝国とは友好的な関係を結べているし、聖アメス公国も魔道具のおかげで突然襲ってくることはない……はず。

  

  

 ……いや、あの魔道具の熱心さだ。『すべての魔道具を手に入れるんです!』とか言いながら襲ってくる可能性は考えておく必要があるな。

  

  

 可能性は低いものの、親族がいる二国と比べるとまだ襲ってくる可能性を考えておいたほうがいい。

  

 でも、何よりも一番恐ろしいのはやはり魔王国。

 ここだけはどうしても読めないのだ。

  

 以前の襲撃の際には魔王本人が襲ってきたという情報すら出ていた。

 残念ながら俺たちが出向いた時にはすでに退いた後だったが、それ以来何の音沙汰もないのは逆に不穏であった。

  

 一体何を企んでいるのか……。

  

 とにかくまだまだこれだけの危険が残されている以上、今傭兵を引き抜かれるのは問題しかない。

  

 ただ主要な面々が女性であることから街としての機能が奪われることがないのだけは安心要素でもあった。

  

  

「そんなに急いでどうしたの?」

「なんだか嫌な予感がする。とんでもないことが起こりそうな……。とにかく早く飛ばせ!」

「や、やってるメェ。でも馬車二台も運んでいるとさすがにしんどいメェ」

「どれだけ時間が短縮できたかで、夜の食事を増やしてやろう」

  

  

 もちろん今はラム用と化している白い粉によって育てられた野菜あれだが。

 味がついていないのにもかかわらずラムの大好物らしい。

 さすがに他国に持っていくには色々と問題のありそうなブツではあるために自重させてもらった。

  

 こう見えても俺は良心をわきまえているからな。

  

  

「やるメェ。ごはん二乗のためにがんばるメェ!」

「……とんでもない数を増やそうとしてないか?」

「気のせいだメェ!」

  

  

 やっぱりこっそりと抜いておこうかとも思えてくるが、それをぐっとこらえる。

  

  

「ごはんのために走るメェ!! 最短距離だメェ!!」

  

  

 それからラムは障害物をものともせずに、途中でいくつかの盗賊団を食べながら一直線に帰ってくる。

  

  

「着いたの」

  

  

 フィーは平然としていたが、エミリナたちはぐったりとしていた。

  

  

「さ、さすがに早すぎますよ……」

「こ、怖かったですぅ……」

  

  

 エルゥは俺の体にしがみついて顔をうずくめていた。

 するとそれを見ていたルナが羨ましそうな目で見ていた。

  

  

「――怖かった」

  

  

 完全な棒読みで言うとルナも俺にしがみついてくる。

  

  

「全然怖そうに見えないのだが?」

「……気のせい」

  

  

 やはりまったく怖くないようだった。

 するとさっきまで街についたことを喜んでいたフィーも街と俺たちを見比べて言う。

  

  

「ふ、フィーも実は怖かったの」

「はぁ……、しがみつくくらいなら好きにしてくれ」

  

 もはや断ったところでなんに意味もなさないだろうことを悟った俺は苦笑交じりに言う。

 すると、背後から殺気めいた気配を感じる。

  

  

「……お前はやめてくれ。ファースト!」

「な、なぜですか!?」

  

  

 案の定、ファーストも彼女たちと同じく俺に抱き着こうとしていたようだった。

 そもそもお前、一切怖がっていなかったじゃないか。

 むしろもっと急ぐように言っていたほどだ。

  

  

「そんなことをしても喜ぶ奴はいない」

「私は喜びますよ」

  

  

 俺の言葉を真っ向から否定してくるのはエミリナ。

 やはり俺の敵足りうるのは彼女をおいて他いないだろう。

  

  

「むしろどんどん供給してください。フリッツじゃさすがに盛り上がりに欠けましたので」

「おいっ! 俺じゃ役不足ってどういうことだ!」

「文字通りの言葉ですわ」

「くぅぅ……。ユーリ、ここまで言われて引き下がるのは男じゃないよな!?」

  

  

 なぜかめらめらと燃えるフリッツ。

  

  

 むしろ男であるなら引き下がってくれ。なにを想像されているのか理解していないのなら。

  

  

「ユーリ様、もしかして男の人が……」

  

  

 案の定、純真なエルゥが勘違いをしているようだった。

 まったく、エミリナは教育者には向いてないだろうな。

  

  

「エミリナのことは気にするな。俺は普通だからな」

「だ、大丈夫ですよ。どんなユーリ様でも私はついていきますから」

  

  

 なぜか一大決心のように言われる。

  

  

「俺たちは蚊帳の外だな」

「むしろそれが平和でいいじゃないか」

  

  

 話題に入れないラークやゲイルは馬車のすみっこのほうで足を抱えてうずくまっていた。

 すると、俺がなんとかエミリナの攻撃をかわしたタイミングでサーシャが街から慌てて駆けてくる。

  

  

「お、お兄ちゃん!? よ、よかった。お兄ちゃん、すぐに来て!!」

  

  

 何か問題があったのか、口調がいつもの口調ではなくなっている。

 やはり傭兵たちが堕とされたのか。

  

  

「すぐに行く。誰が向こうについたんだ? 半分くらいは残っているのか?」

「お、お姉ちゃんについたのはルシルさんとメルティさんなの!」

「えっ!?」

  

  

 さすがに名前が挙がった相手は予想外すぎて、俺は声を漏らしてしまうのだった。

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