宿敵
「何かご不満でもありましたか?」
ミランダの怒声を聞いて声をかけてくる人物がいた。
そちらに振り向いた瞬間にミランダは思わず眉をひそめる。
「な、なんであなたがここにいるのよ!?」
そこにいたのはアレクシアだった。
「なんで、と言われましても私は今ここで子供たちの勉強を見ておりますので――」
よく見るとアレクシアの後ろに生意気そうな子供が隠れているのが見て取れる。
そして、子供はアレクシアとミランダを見比べて言う。
「まな板とスイカ?」
「だ、だれがまな板ですか!? これでもちゃんとしっかりありますのよ!?」
「あらあらっ、人をまな板に例えるのは良くないですよ」
「わ、私がスイカの可能性もあるでしょ!?」
「ありもしない幻想にすがるのは良くないと思いますよ?」
「あ、あんたこそそんな邪魔な物体を二つもくっつけて、下品にもほどがあるわよ」
「そうですわね。私もできればなくなってほしいんですよね。肩も凝りますし、あったからと言ってなにか得をするわけでもありませんから――」
アレクシアの言葉にミランダはさらに激昂する。
「大体、あなたは聖女でしょ!? 早く王都に戻って仕事をされたほうがいいのではないですか?」
「そちらはエミリナさんがすべて終わらせてくれたんですよ。なんと一晩で」
もちろんそんなに早く終わるわけもなく、少しずつ片付けてくれていたのだが、ミランダがそんなことを知るはずもなく……。
「くっ、あなたがいるとわかっていたらこんな何もないところなんて来なかったのですわよ」
「何もないことないよ、ぺったんのお姉ちゃん!」
「誰がぺったんよ!! これでもちゃんとありますから!」
無理やり子供の手を引っ張ると自分の胸に当てさせる。
そのタイミングでサーシャが部屋に入ってくる。
「お姉様、ここでの予定なのですが……。ふぇっ?」
状況が読み込めずに思わず声が漏れてしまう。
顔を真っ赤にした少年アル。
そんな彼の手を無理やりに自分の胸に押し当ててる姉であるミランダ。
その状況を楽しんでいるのか、頬に手を当てて朗らかに微笑んでいるアレクシア。
「ま、まさかお姉様がこの街に来た理由って……」
「ち、違うわよ!? ただこいつが私の胸がないっていうから……」
「骨が当たって痛いよ!?」
「あらあら、カオスな状況になってきましたね」
「誰が原因よ!?」
「ミランダさんが元凶じゃないでしょうか?」
しばらくこの騒ぎが続いていたものの、すべてはユーリが悪い、とミランダの中で結論づけてようやく落ち着くことができたのだった。
◇ ◇ ◇
「それでこれからの予定ってなにかしら? ここに見て回るようなところなんてないでしょう?」
「いえ、お父様の土地ですから。しっかり成長を報告いただきたいのですよ」
「ふーん。まぁいいけどね」
すでにミランダの中で「この領地は反逆を企てているのですぐに対処したほうがいい。まな板と言われたことは関係なく」と婚約者である第二王子に伝えるつもりであった。
王となるための確定的な出来事が欲しい王子からしても、反逆を未然に防ぐことはプラスの評価になりうる。
そのための礎にこの領地はちょうどよかったのだった。
「ぺったん、ぺったん、ぺったんこ~♪」
ミランダの前を行くアルとかいうくそ生意気な子供が耳障りな歌を歌っている。
「ダメですよ、アルくん。相手が嫌がることをしては」
「えー、でもこの前、先生は『人の嫌がることは進んでやりましょう』って言ってたじゃないかー」
「あの時は掃除とかごみ捨てとかの話で――」
「似たようなものじゃないか? お掃除だろ?」
アルの目が少し光ったような気がする。
ただ、すぐにくそ生意気な子供に戻ったので本当に気のせいだったのだろう。
「わかりました。では間をとって、ミランダさんの嫌がることだけするようにしましょうか」
「なんでよ!?」
アレクシアの妥協案に思わず突っ込みを入れてしまう。
どうにも彼女がいたら調子がおかしくなる。
婚約者が第二王子になったのも、第一王子にアピールをしていた時に彼女が表れて、そのせいで調子がおかしくなってうまくアピールできなかったからに他ならない。
ミランダがこの領地に来ることを察した誰かが前もって彼女を呼んだ風にしか思えない。
おそらくはその人物こそがこの領地のキーマン。
確か名前は……。
「エミリナ……、どこかで聞いたことある名前ね」
「絶壁の姉ちゃんも聖女様のことを知ってるのか?」
もはや何を言っても無駄に思えてきたためにため息交じりに答える。
「詳しくは知りませんね」
「とってもすごい人なんだよ。なんていったって、ユーリ様が独立するのに全力を尽くして協力してくれているお方なんだから」
傍から見ていたらそのように見えるのだろう。
まさかユーリから迷惑がられているなんて誰も知らないことなのだから。
「へぇー、そうなんだ。もっと詳しくその人のことを教えてくれないかしら?」
「もちろんいいよ。壁姉ちゃん」
「誰が壁よ!!」
我慢の限界はすぐに来てしまった。
ただその反応が面白いのか、アルは笑っているのだった――。
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