ノーブルバーグの街

 道中でラムが街へ突っ込みそうになるというとんでもないトラブルが起こったものの、無事街へとたどり着く。



「途中で何か変なものを食わなかったか?」

「な、何も食べてないメェ。ちゃんと不味かったから吐き出したメェ」



 いや、吐き出したらセーフとかそう言うものじゃないぞ?



 俺は思わず呆れ顔になる。



「道中で食ったならラムには飯はいらないな」

「そ、そんな、酷いメェ。うちに死ねと言うのかメェ」

「確かにそれは良くないな。街の中で食材の心配はいらないしもったいない」

「それはどう見ても食材としてのうちなんだメェ」



 街に入り小柄になっているラムは俺の頭の上で憤慨している。

 それを無視して俺はルナの方を向く。



「この街から帝国に入った、ってことで良いんだよな?」

「……うん」



 ルナは頷いて見せたものの自信はなさげに周りを見回していた。

 来たことのない街だったのかもしれない。


 ただ隣国である獣王国の近くにあるにも関わらず、極端に軍備を整備している要塞化しているわけでもなく、インラーク王国のように辺境をまるで無視して廃れさせている訳でもない。


 街を城壁が覆っている城塞都市ではあるものの門は解放され、人の行き来をよく見る。

 街の中は馬車が通りやすくしているのか、きっちり石畳が敷きつめられ、建物も年期は入っているもののややくすんだ白が、この街の歴史を物語っているかのようだった。


 城門を入ってすぐのところには宿屋が並び、そこから少し先に行くと商店や料理屋が並んでいる。

 そこをまっすぐ進み、中央の大通りが交差するところをさらにまっすぐに進むと領主邸があり、その側を詰め所や兵の訓練所、傭兵ギルドや商業ギルドなどの公的機関が並んでいた。


 これはおそらく交易商などの来客に重きを置いている都市配置だと思われる。

 来客の導線を一本化することでそれ以外の動きをする怪しい人物を捕捉しやすくしているのだろう。



「フリッツ、この街の様子は俺たちのところにも活かせそうだな」

「そうだな。今は傭兵がメインだが、それでも街がこの並びをしていたら迷わずに済んで助かるな。敢えて言うならもう少し酒場が多くても――」

「エミリナはどう思う?」

「確かにアルフの街の立地を考えますと交易国家として発展していくのが良さそうですね」

「国家ではなくて都市だけどな」

「えぇ、そうでしたね。今は」



 何か含みのある言い方をしてくる。

 もしかするとインラーク王国が大々的に交易国家として方向転換するとかいう情報でも仕入れたのかもしれない。


 どうしても肝心な所をはぐらかす癖があるせいで、未だに国家の刺客ではないかと疑ってしまうんだよな。

 原作キャラだし、下手に近づきすぎると俺の破滅へ一直線だしな。


 有能ではあるのだから、一定距離を保ってほどほどの付き合いをして、俺のことを良いように報告して貰う。

 この動きが一番いい。



「フィーはどう思う?」

「うーん、フィーはわからないの。みんなが住んでるところも見てみたいの」



 みんなっていうとこの街の住人ってことか。

 確かに街としてはこの大通りを見れば判断できる。


 でも、やはり街と言えば住人である。


 そうなると肝心なところは住居がどうなっているか、というところだった。



「そうだな。そこを見落としていたようだ。助かったぞ」



 お礼代わりにフィーの頭を撫でてやると彼女は嬉しそうに顔を伏せて頬を赤く染めていた。



「それじゃあ早速――」

「まずは領主に顔を出した方がいいよ」

「そうですね。獣王の名代として私やユーリ様が来ている以上、領主様への挨拶は必要かと」



 ルナとエルゥが二人して言ってくる。

 その後ろではゲイルやラークがラムと戯れている姿が見える。



「この羊ボールめ! よくもやってくれたな」

「そうじゃ、こんな肉は蹴ってやるぞ」

「や、やめるメェ! 助けてメェ!」



 ラムが小柄になっていることを良いことにボールとして蹴っている姿が見える。

 でもそんなことをすると……。



「もう怒ったメェ!」



 ラムがそういうと大きくなり、そのまま二人を食べてしまう。

 そのあと数回咀嚼をしたあとで、ペッと吐き出していた。



「く、くそっ……、まだ勝てないか」

「このラム肉妖精は凶暴なのじゃ」



 涎まみれになって倒れる二人が悔しがっていた。

 そして、ラムはすぐさま元の大きさに戻り、偉そうにふんぞり返っていた。



「これに懲りたらもう食材扱いしないメェ」



 いや、それはお前の姿が羊である以上無理じゃないか?



 そんなことを思いながらも案外二人と一匹が仲良くやっていることに安心する。



「わかった。ならこの街の領主にいつ会えるかの確認をするか」



 さすがに当日中に会えるとか言ってくるはずもないので、数日はこの街を見て回る余裕があるはず。

 そんなことを思って領主邸へ向かうと、中央の大通りに差し掛かろうというときに突然知らない青年が目の前で膝をついてくる。



「えっ!?」

「ルナ様、ラーク様、ゲイル様、遠路はるばるここへ足を運んで下さりありがとうございます」



 どうやら帝国組のメンバーに用事があるらしい。

 それなら俺は関係ないな。


 そう思い素通りしようとするが、ルナが俺の服を掴んで離さなかった。



「少しいて欲しい」

「……わかったよ」



 どうやら俺にも聞いて欲しい話のようだったので、その場に留まることにする。



「それで、あなたは?」

「申し遅れました。私は第九十一位のウーゴと言います。この街にはとある方の命でユーリという人物を探しに来まして」

「それならもう問題ない。ルナの魅力にユーリはメロメロ」

「勝手な誤解を付け足すな。エルゥもフィーも俺を睨み付けてくるな」



 ルナが余計なことを言ったせいで平和であるはずの場が一気に凍り付いていた。



「なるほど。メロメロ、ですね。ではそのようにとあるお方に報告させていただきます」

「んっ、よろしく」



 俺の言葉に聞く耳を持たずに勝手に二人の中で話がまとまり、そのままウーゴという人物は姿を消すのだった。

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