第112話
今、ひなはなんと言ったのだろうか?私の聞き間違いでなければ『嫉妬しちゃう』と言ったように聞こえた。
これが本当ならばひなはついに私に対する独占欲を認めたということになる。
まだ可愛い可愛い子猫のような嫉妬なのだろうけれど、私はひなが嫉妬しているという決定的事実を聞いたのだ。
とてつもない高揚感に思わず課題を進める手が止まっているとひなは不思議そうにこちらを見上げた。ひなは自分が言葉に出していたことに気づいていないのだろうか。
動揺する心を無理やり落ち着かせながら開いていたワークブックを閉じ、筆記用具をしまった。
「ひな、休憩にしよっか」
ひなはその言葉を聞き、『紅茶でも出すよ』と言いながら席を立った。
紅茶を用意しているひなを盗み見ながら、そっとスマホを開く。
今日はひなが嫉妬を自ら認めた重要な日。すなわちひなの『嫉妬記念日』だ。大切に保存しておこう。
願わくば音声まで保存しておきたかったのだが、仕方がないだろう。
「はい、これね、この間ご近所さんにもらったんだ」
ひなは紅茶の準備が終わったようで私の目の前に紅茶を注いだティーカップを差し出してきた。
ありがたく頂戴し、一口飲んでどうにか興奮を収める。
「ありがとう。おいしいね、これ」
「でしょ?」
自慢げなひなを横目に頭の中にある計画を思い浮かべる。
『ひなが独占欲を抱き、それを自覚する』
この第一目標とも言える項目が達成した。あとはそれをもっと深くするだけ。つまりは依存心を抱いてもらうということだ。
単純そうに見えて難しい。
これにはきっとひなのがめつさというものが必要だろうが、ひなは結構謙虚な性格をしている。
これの対策として一つだけ案が思い浮かんでいる。
それは『クズ女』になること。
まぁこの計画の続きについてはまた一人のときにでもしよう。せっかく今、ひなと一緒にいるのだからひなに集中しなければ。
隣に座り、お茶菓子を頬張るひなの柔らかくて小さな頬をぷにぷにと触りながら紅茶をもう一口。
「もう、あやちゃんったら…なぁに?」
呆れながらも嬉しそう笑いかけてくるひなに胸が高鳴る。
「ひなが一番。世界で一番だよ」
私はひなの頬に優しく、優しくキスをした。
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