第73話

 月曜日。いつも通りひなと登校し、授業を受ける。


 今日はひなが図書委員の当番なので放課後、何をして過ごそうか悩んでいた。


「あ、あの…あやさん」


 図書室で過ごそうかと思っていると紫苑が話しかけてきた。


「ほ、放課後時間があればなんですけど…そ、相談事がありまして…」


 ほのかに赤くなった頬、逸らされた潤んだ瞳。それはまるで恋すら乙女のようだった。


 私は『もちろん』と返事をして紫苑と共に席を立った。




 たどり着いたのは滅多に使われない新聞部の部室。


 もとは社会科用の準備室であり、地球儀や偉人の顔がプリントアウトされた紙が乱雑に置かれている。


 紫苑をそこら辺に置いてあったパイプ椅子に座るように促し、自分自身も隣に座った。


「それで?どうしたの」


 モジモジとする紫苑に話すように促すとおずおずと口を開いた。


「じ、実は…私、恋をしてしまったんです!」


 紫苑は私や翡翠さんが思っていたとおり、恋をしているようだ。


「そ、それで…あやさんならどうしていくべきなのかなどわかるかと思いまして…」

「…相手は?」


 相手について聞くと紫苑は真っ赤になってうつむく。これは重症だ。


「…私が知ってる人?」


 そう聞いてみると紫苑は静かに頷いた。


「うーん…私の友達?」


 紫苑はうなづく。


 私の友達となると…ひなはないとして、杏かみづきか翡翠さんか萌歌さんかぐらい…?アイラさんは友達じゃないしね…。


「それで紫苑はその人とどんな関係になりたいの?」

「そ、それは…もちろん…恋人に」


 紫苑は尻すぼみになりながらもなんとか声を放り出した。


「うーん…多分だけどこういうの私よりひなのほうが詳しいと思うんだけど」

「で、でも…いいのでしょうか?私あんまりひなさんとは仲がいいわけで訳では無いというか…」

「そのあたりは任せてよ」


 私は紫苑の肩を掴んで親指を立てて見せた。


「ひな、こういう話好きだし、私も興味あるし」


 紫苑は少し不安そうにしているが、先程よりも安心したような表情になった。


「んで、結局誰なの?」

「え」


 固まる紫苑に私は詰め寄る。


「誰か言わなきゃ相談もなにもないでしょ」

「うぐっ」

「恋人になりたいんでしょ?」

「うぅ…」


 私はひなの当番が終わるまで頑なに口を閉じる紫苑にひたすら詰め寄った。


 結局紫苑の想い人は分からず仕舞いだったのだが、十分な成果は得られたと思う。

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